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第173話
春side
腕を引きながらどこに向かうか考えていた。
外はまだ肌寒いから選択肢から外す。
室内でどこか落ち着いて話せる場所といえば…
あ、いいとこみっけ。
1年の子を引っ張りながらとある部屋の前へ立つ。
「え!ちょっと待ってください!!」
焦る声が聞こえるが無視だ。
ノックをして「失礼しまーす」と声をかけると同時に扉を開ける。
「…はい、、なんだ春か。何かあった?」
そこには俊の姿のみで他に人はいない。
「俊に用事はないけど、生徒会室少し貸して」
「他のやつらは来ないから構わない」
「ありがと。」
手を引きながら1年を部屋に入れ、やっと手を離す。
「…その1年は?」
そう言われ勢いのまま連れてきてしまったことを反省しつつ、「そういえば、名前聞いてなかった」と独り言のつもりが俊の耳にまで届いてしまった。
驚きを含んだ呆れ顔を向けられ、苦笑いだ。
「春にしては珍しいな、他人に干渉するなんて」
「まぁ、ちょっとな。」
とりあえず今は説明する時間があるならこの1年と話す時間が欲しい、と思い言葉を濁した。
「…居ないものだと思って、好きに使って」
予想通り俊は深追いすることなく、自分の作業に戻った。きっと生徒会の資料だろう。こんな面倒なことよくやる気になったものだと感心する。
「ってことで、生徒会長様は放置して話進めるな。とりあえず座ろう。…で、俺は室井春。さっきの隣にいたのが冬城郁。」
「えっと、あの、先程はすみませんでした。1年3組の伊吹織と言います!」
伊吹と名乗るこの少年が小さく縮こまって顔を青くしているのは、この場所が原因なのもあるだろうけど、しかたない。
「伊吹くんか。もう一人の子は久瀬くんだったっけ?」
「あ、はい、そうです。」
「まぁ、あっちは顔見知りだし多分大丈夫。」
自分で言いつつ、すこしだけ心配だ。
「そう、ですか…巻き込んでしまって申し訳ないです。」
あの時は周りを見る余裕がなかったのだろう。今はもう頭も冷え、深々と頭を下げてくる。
「気にしてないと言えば嘘になるけど、そこまでしなくていいよ。」
「すみません」
「話戻すけど、なんであぁなったの?」
「……えっと、元々は俺が悪くて。きちんと和叶との関係を親に話してなかったことが原因なんです。和叶とは付き合ってて。でも親はそんなこと知らないから、高校卒業後、本格的に婚約者を探すって……」
「それを知った久瀬くんが自暴自棄になったと?」
「そんな感じです。」
話を聞いてみたはいいが、どう返事をしていいか迷う。
「……もしかして、伊吹先生のとこの」
俊が突然手元から顔を上げたと思ったら、なんの質問?ていうか先生?ってなに。
「あぁ、そうです。」
「やっぱりか。」
「…どういう」
1人置いていかれそうなので、とりあえず俊に答えを求める。
「ちょっと離れたとこに総合病院あるだろ。あそこの先生の息子さんだってさ。」
「あぁ、それで先生ね。」
「そういうこと。それで?婚約者を見つけてくるから久瀬くんとは別れろとでも言われた?」
「いえ、親にはサラッと言われるだけ言われて、その後きちんと話せていないんです。」
「なら二人で話しに行けばいいんじゃないの?」
「たしかに、その方が話が早く進みそう」
「そうなんですけど…和叶が行かないって言いだしたので」
「…その原因は?」
「多分、自分に対する肯定感や評価が低いから。自分よりもっといい人がいるって」
いつぞや誰かに言われたことあるセリフだなぁとその時のことを思い浮かべる。
「それがわかってるなら、話早いんじゃないの?」
「……つい、カッとなってしまって」
よく考えれば、この子は中学卒業してすぐなのだ。
そう言う反応をしてしまってもおかしくは無い。
「そこがダメ。郁も自分に対して厳しすぎるから、すぐ自分を責めたりとかよくあるけど、そういう時にこっちが怒ったら、相手はどう思う?」
「…っ!……言われないとわからないなんて、ダメダメですね」
「いくらでも壁にぶち当たればいいよ」
「はいっ!ありがとうございます。えっと、また機会があればお話させてください」
「いいよ。連絡先でも交換しておく?」
「ぜひ!」
懐かれる瞬間とでも言うべきか、変な感覚だ。
深く関わる気はなかったんだけど…。
自己肯定感が低くて自己否定感が強い、何となく似た彼氏を持つもの同士として……何かできるなら。
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