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第31話
春side
郁が救急車に乗せられ、俺は同行した。
亀山先生は先に着いて車の中で待機していた先生達と後で向かうと言った。
病院に着いてすぐ治療室に連れて行かれた郁の顔は今にも消えてしまいそうなほど青白かった。
俺はすぐに郁の母親である陽太さんの携帯に電話した。陽太さんはすぐに出た。
「…もしもし春くん?」
「陽太さん、お久しぶりです。」
「ほんと久々だね。元気?」
「はい……あの!」
「うん」
「…すみませんでした。」
「春くんのせいではないでしょ?」
「え?」
てっきりまだ知らないものだと思って焦って電話をかけた俺は少し驚いた。冷静に考えてみれば、先生たちか警察が電話しただろう。
「…春くんがかけてくる少し前に警察の方から連絡をもらったんだ。」
「そう…だったんですね。…そうですよね。」
「春くん、郁のそばにいてあげて。今僕たちもそっちに向かってるから。」
「はい。」
「春くんが暗い顔をしてたら、郁はもっと辛くなってしまうよ?だから出来る限り笑顔でいてあげて?」
「はい!」
「あと20分ほどでそっちに着くから」
「わかりました。」
「うん、じゃあまた後で。」
そして通話を終了した。
「きゃぁぁぁぁー!!!いやぁー!」
すると突然、郁の泣き叫ぶ声が聞こえて来た。
看護師の人が治療室から出て来て「冬城さんの付き添いの方ですか?そばに行って安心させてあげてください!」
そう言われ、室内に入ると医者と2人の看護師が暴れる郁をベッドに抑え込んでいた。
「いやぁぁぁぁー!!!!」
郁の声が響き渡る。
「無意識的に暴れているのだと思います。そばで抱きしめたり…っ手をつないであげたりしてあげてください!!」
医者からそう言われ、郁の頭の方へ行き抱きしめた。郁がこれほどの力を出すのは、苦しい時と怒った時。俺は力一杯抱きしめて、耳元で「大丈夫。大丈夫。」そう言い続けた。だんだんと暴れはしなくなったが荒い呼吸を繰り返す。
「大丈夫だよ。郁が心配するようなことはもう2度と起こらないし、起こさせないから。大丈夫。大丈夫。」
しばらくするとスゥスゥと安定した呼吸が聞こえ始める。
そっと離してやると照明に照らされ先ほどより鮮明に、疲れ切った顔と身体中傷だらけなのが分かる。優しく頭を撫でてやると、その手にすがるようにスリスリと頭を寄せてくる。
「…ふぅ……ありがとうございます。」
医者からの言葉に特に何もしていないのだがと思いつつ、「いえ」と返した。
「…身体の方は1、2週間もすれば良くなるでしょう……しかし問題は心です。」
「心…」
「はい。ついさっき目を覚ましたのですが、私達を見た瞬間に身体を強張らせ突然暴れ始めました。……心に傷を負った人は人それぞれですが、人を避けるようになったり、パニック障害や過換気症候群になったり、精神的に不安定になります。なので信頼できる誰かが出来るだけそばにいてあげる必要があります。冬城さんのご両親は?」
「今こちらに向かってきてます。」
「わかりました。ではご両親が来られてから一緒にお話をしましょう」
「わかりました。」
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