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第35話

郁side 無言が続いて話だそうとした瞬間に病室のドアが開いてお医者さんとお母さんが入ってきた。 「陽太さん、知らせてくれてありがとうごさいます」 「全然いいよ。気にしないで。」 春くんとお母さんとの会話に違和感を感じた。 いつの間にこんなに仲良くなったのか。 いつの間に春くんはお母さんのことを“陽太さん”と呼ぶようになったのか。 不思議でいっぱいだった。 「室井くん、きていたんだね。」 「はい」 お医者さんと春くんは知り合いらしい。 「じゃあ、冬城さんと話して見た?」 「はい」 先ほどより春くんの声のトーンが低くなった。 「そうか。その様子だと気付いたみたいだね。」 「幼くなってました」 「そう。……冬城さん」 「…?」 「君は、精神的ショック、極度のストレスやトラウマにぶつかったことによって記憶の一部をなくしている。つまりは記憶喪失。これは耐えることのできない心理的な葛藤から受け入れがたい感情を意識的な思考から切り離すことで発症します。」 笠原先生が言っている意味が理解できなかった。 精神的ショック? ストレス? トラウマ? 記憶喪失? 何それ……全くもって意味がわかんない。 助けを求めてお母さんと春くんの顔を見た。 すると春くんが口を開いた。 「郁、聞いていい?」 「う、うん」 「学校名、学年、なんの行事がある?」 「達川中学1年、えっと……1ヶ月後に体育祭があったと思う…」 「……あいつに会う前だ」 独り言のように呟いた一言を聞いて笠原先生は質問してきた。 「あいつとは?」 「奏芽です。田澤奏芽」 「…冬城さんの中で、彼とはもう会わなかったことになっているわけですね。」 「そう、みたいですね。」 田澤奏芽って誰? 奏芽…? 青山じゃなくて? 先輩にそんな人がいたと思う。怖くて絶対近づけないけど。 「とりあえず、無理に記憶を思い出させるようなことはしないでください。明日、身体の方の検査をして異常がなければ退院しても大丈夫です。日常生活を過ごしていく中で少しずつ思い出していくでしょう」 「わかりました。」 そして医者は部屋を出ていった。 「郁、混乱してると思うから、わからないことはなんでもいいから聞いて?」 「う、うん。」

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