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第36話

春side 「郁のこと、とりあえず退院したら家で休ませたいと思ってる。学校は今の環境に慣れてからって。どうかな?」 「俺もそれがいいと思います」 陽太さんが言ったことに頷いた。 郁を横目でチラッと見れば俯いて何かを考えているようだった。 俺はカバンからルーズリーフを一枚とペンケースを取り出し机に置き、その机を郁の方へ寄せた。 「郁。今わからないことをこれに書いて?答えられる範囲で答えるから」 「うん、わかった。」 そう言ってペンケースを開けるとこちらを見た。 「…これ、どれでもいいの?」 どれを使ってもいいのかと言いたいのだろう 「あぁ、どれでも好きなのを使えばいいよ」 「うん」 郁はすぐに黙々と書き始めた。 「あ、陽太さんがイス座ってください」 「そんなこと気にしなくてもいいのに」 「いえ、どうぞ」 「ありがとう。春くん、今週の土日にうちに泊まりに来る?」 「え?」 「平日は学校があるから、土曜の朝でも金曜の放課後にでも迎えにいくよ?」 「ほんとですか?…じゃあお言葉に甘えて…すみません」 「全然いいよ。こういう時こそ好きな人が居てくれると安心するから」 「そうなんですかね?」 「そういうものだよ」 そんな会話をしているうちにカタンと郁がペンを置いた。 ルーズリーフに郁が書いたのを読み上げて質問に答えていく。 「まずは…ここにいる理由か…」 「郁は事故に巻き込まれたんだよ」 「事故?」 「うん、そう。事故。」 「…」 陽太さんが言ったことに首を傾げながら納得いかないというような顔をしていた。 「次は、記憶を失う前の僕。ざっくり言うと、郁は明宮高校2年で俺と郁は同じクラス。普段は学校の寮に住んでるって感じ。寮の部屋は2人部屋で俺と一緒。」 「やっぱり今の僕も明宮高校なんだ……」 そうボソッと言った郁の状況理解が早くて驚く。 俺でさえ、すべてを信じ切れたわけではないのに。 「最後……カナメって誰?…カナメは郁には関係ない人。郁の知らない人」 「知らない人?」 「そう。」 「そっか。」 「今とりあえずはこれだけ?」 そう問えば首を縦に振った。 「面会時間終わるまでいるから、気になることがあったら言って」 「うん。」

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