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第46話
郁side
「…っ…く…いくー!おきてー。流石にもう運べないよー」
声がして目を開けるとお母さんが僕を揺すって起こしていた。
「起きた?ほんとは寝かせてあげたかったんだけど、流石に大きくなった郁を運ぶ気力はないから。」
「ん、起きた。」
「家入ったら寝ていいから。」
「うん。」
車から降りるとすぐに家があるのは当たり前なことなのに、なぜか変な感覚に陥った。久しぶりに来たような…そんな感覚。
家に入ってお母さんの後ろを追うようにリビングへ行く。
「暑い?」
「少し」
「ならエアコンかけよっか。」
まだ9月。
暑さが残っていた。
エアコンをかければ涼しい風で一気に冷えていく。僕はテレビの前に置いてあるソファに座ってふぅーっと深く息を吐いた。
「疲れた?」
そう言いながらお母さんはコップを2つ持って隣に座った。
「うん、すこし。」
「そうだよねー、ゆっくり休めばいいよ。」
お母さんは頭をなでてくれた。
正直に言えば、すこしどころではなくすごく疲れていた。人が怖くて、ずっと俯いていた。受付などで待つ人の多さや検査の時に少し触れられる、そんなことでビクビクとしていた。
なぜこんなことになるのかはよくわからない。
小さい時から病院とか歯医者とかそう言った場所は苦手だった。薬が嫌とか、金属の音が嫌とか、注射が嫌とか、匂いが嫌いとか、そう言った事ではない。逆に歯を削られるキーンという音は嫌いじゃないし、注射は全然平気だし、消毒の匂いも好きな方だ。
なんでかそういう場所が苦手……
そんなことを考えているとお母さんが何かを思う出したかのように「あ。」と呟いた。そして先ほど持っていたカバンからケータイを取り出した。いわゆるiPhoneというやつ。
「春くんが、6時ごろ電話するって。これ、郁のケータイ。画面にロックかけて置いたほうがいいよ?」
「うん、わかった。…ケース入れてなかったの?」
iPhoneはケースに入ってなかった。傷が入ったりするのが気になってケースに入れると思うんだけど…
そういえばなんで、使い方わかるんだろう。
やっぱりこういうのは体が覚えてんのかな?
「事故でケース壊れちゃったから、新しいのをネットで注文すればいいかと思って。郁が退院してからって思ってたんだよ」
「そっか…」
設定からロック画面の設定を行う。
4桁の数字はなんとなく春の誕生日である0429にした。
「…こういうゲームとかしてたんだね。」
「そうみたいだね」
お母さんがこれは僕のだって渡してくれたけど、なんか自分のものっていう感覚がない。
なんでなんだろう…
そう思いつつLINEを開けば1番上に春くんが来ていた。
あぁ、春くんに会いたい…
ふとそう思った。
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