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第61話
陽太side
「…先に寝るな?」
「これ飲み終わったら行くから」
「わかった」
了があくびをしつつ寝室へ向かった。
了はしっかりしているし自分を貫く人だけど、遠回しに一緒に寝たいと言ってきたり、ちょっと可愛いとこがある。
そのことにクスッと笑いながら一気にコップの中身を飲もうとした時だった。
ガチャっとリビングの扉の開く音がして、「了?どうかした?」と聞きながら振り返れば郁だった。
「郁…?…どうしたの?」
郁をよく見れば耳に電話をあてていたため、少し小声で言った。
「…春から、お母さんに変わって欲しいって」
「春くん?」
ケータイを受け取って画面を見れば、郁が言った通り“室井春”と表示されていた。
「…もしもし、春くん?」
「あ、もしもし。陽太さん?こんな時間にすみません。」
「ううん、構わないよ。まだ寝てなかったから。」
「すみません。…郁なんですけど、今の様子大丈夫そうですか?電話越しだと少ししかわからないので。」
そう言われ郁を見れば、目元が赤く少し腫れていた。郁本人は首を傾けて「どうかした?」と言っているようだった。
僕は首を横に振って「なんでもない」と表現した。
「目が腫れてるけど、今は大丈夫そう。」
とりあえず春くんからの電話に出つつ、冷凍庫に入っている保冷剤を取り出し、近くにあった未使用のタオルで「目元」と短く郁に言えば、それをあてて冷やし始めた。
ソファに並んで座って、右手にケータイ、左手で郁を抱きしめた。
郁は素直に首を肩に預けて体の力を抜いた。
「郁、寝不足なんですか?」
「うん、昼間もよくウトウトしてる。」
「寝れないのと何か不安なことが重なって、俺に電話してきたみたいで…。」
「そっか。うん、わかった。春くんありがとね?」
「いえ、今の俺は一緒に居てあげられない役立たずですから、これだけでも…」
「春くん、そう言わないの!郁のためにこうやっていろいろしてくれてるでしょ?それだけで僕は嬉しいから。…ね?」
「…はい。」
「じゃあ、明日は郁とたくさん話してあげて?」
「はい!」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
そして陽太さんは郁と変わった。
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