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第75話

春side 車の中ではみんな無言だった。 けれど幸せな空気に包まれていた。 陽太さんはミラー越しに時々後ろの俺たちをみて微笑む。 郁は手をしっかりとつないだまま俺の肩に頭を預けている。すごく嬉しそうにしながら…。 俺はといえば、郁をずっと眺めていた。 「よし、着いたよー。」 陽太さんの声で目が覚めた。いつの間にかウトウトとしていたらしい。 「ふふ…2人揃って……」 俺と郁をみた陽太さんはクスクスと笑った。 そして、俺たちも目を合わせて笑った。 「お邪魔しまーす」 「どうぞー。」 家に入って玄関で靴を脱いですぐに郁が俺の手を引いて二階に上がり郁の部屋へ向かった。 久々に来た郁の部屋はあまり変わっていなかった。 いつぶりだろう…と考えていると郁が「座って?」と声をかけて来た。俺は持っていた荷物を邪魔にならない隅に置かせてもらい、床に座った。 すると郁も隣に座った。 「…春」 「ん?」 「…春………春」 何かを確かめるように俺の名前を繰り返し呼んだ。顔を覗き込んで頬を撫でれば、俺の手に擦り寄るようにして手を重ねて来た。 少ししてコンコンとノックされ、互いにびっくりして俺と郁は少しだけ距離を取った。 陽太さんが「飲み物持って来たよー」と言って入って来た。 俺と郁の前にあった小さめのテーブルに飲み物とお菓子がいくつか入った入れ物を置く。 「すみません、ありがとうございます。」 「いいんだよ、気にしなくて。自分の家にいる感覚で過ごしてくれていいから」 「はい」 「それじゃ、お邪魔虫は失礼します」 と言って出て行きかけて「あ」と呟いた。 「もう少ししたら2人ともお風呂に入ったら?汗かいて気持ち悪いでしょ?それじゃ。」 そして陽太は出て行った。

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