84 / 201

第84話

春side ガタガタガタン…ドンッ と言うすごい音がして慌ててリビングを出れば、郁が階段から落ちた音だったらしい。 「大丈夫か!?怪我は?」 「…夢じゃ…なかった……」 郁は一言だけ言って泣きながら俺に抱きついた。 とりあえずここは薄暗いため、もし傷があっても見落とすから郁を抱き上げてリビングへ移動した。 「郁、ケガは?」 陽太さんが郁に聞くが震えて返事もせず、俺の肩から顔を上げようとしない。 「郁?」 郁を抱えたまま、ソファに腰掛けて背中をさすった。 「夢じゃなかったって言ってたので、変な夢でも見たんだと思います。」 「落ち着いてから話しよっか」 郁は俺にしがみついたまま静かに声を殺して泣き続けた。 郁の涙で濡れて服が冷たい。 「大丈夫…大丈夫。1人にしてごめんな?」 ゆっくりはっきりと郁の耳元で言った。 少しして落ち着いたのか震えは止まった。 「郁?」 「…ごめんなさい」 「郁は悪いことしてないよ?」 「……迷惑…かけてる…」 また涙声になっていく。 「迷惑なんて思ってないよ?」 「……ごめんなさい」 「うん、もういいよ」 「…郁、ケガはない?」 陽太さんがもう一度聞いた。 そのままの姿勢で「腰が少しだけ…」と言った。 郁を正面から抱きしめているので背中はよく見えない。代わりに陽太さんが背中側に回って服をまくった。 「あー、ほんとだ…。」 「あざになってます?」 「うん、結構ぶつけたんだね。皮剥けてるし。ガーゼ当てた上から湿布はろっか。」 そう言って棚から救急セットが入った箱を取り出した。 「……ちょっと冷たいよ」 陽太さんが声をかけた瞬間、ぴくっと郁が動いた。湿布の冷たさにびっくりしたのだろう。 「よしっこれで大丈夫!」 「…ごめんなさい」 「いいよ、気にしなくて」 「ありがと」 「どういたしまして」 郁の顔を上げさせて見れば目はウサギのように真っ赤になっていた。 「…擦ったら余計に赤くなるよ?」 「保冷剤で冷やしなさい」 了さんがタオルに包んだ保冷剤を郁に渡した。 「ありがと」 「ん。」 了さんはわしゃわしゃと郁の頭を撫でた。

ともだちにシェアしよう!