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第93話
春side
実家に帰ってくる予定なんてなかったから鍵は寮に置いて来てしまった。
なのでチャイムを鳴らせば「はーい」とインターホンから声がした。
「春だけど、開けてくれない?」
「えっ!?ちょっ!まっ。」
相手はすごく焦っている様子でバタバタと中から聞こえた。
「お帰りなさい!春にぃ!」
母さんと弟の真冬の声はよく似ているので家族の俺でもわかる時とわからない時がある。
「真冬、ただいま」
「郁さんもいらっしゃい!」
「真冬くん、こんにちは」
郁は少しギクシャクとした動きで挨拶をした。
「あら、郁くんも一緒?いらっしゃい。…何かこっちに用でもあったの?こんな時期に帰ってくるなんて」
奥から母さんが出て来てそういった。
「まぁこんなとこで立ち話もなんだし入りなさい」
「あぁ。」
「お、お邪魔しまーす」
「どうぞどうぞ!」
リビングへ行くと母さんだけキッチンへ消え、3人は机を囲むように座った。
「今、お茶しかないけど。」
そう言って4人分のお茶を持って来た母さんもそこへ加わる。
「…それで?」
母さんがすぐに要件を聞いて来た。
「…親父は仕事?」
「コンビニ。すぐ帰ってくるわ」
「そ。」
一時的な無言。しかし次に聞こえて来たのはドンッと物が落ちる音と二階にいる誰かの叫び声だった。
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