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第181話
俊side
号令の後、チラッと春に目線を向けると春もこちらを見て口パクで“行ってこい”と背中を押してくれた。頷くことで返事を返し、カバンを手に持つと一目散に教室を出る。
階段をかけおりると、運悪く職員室のある階で担任と出会す。
「先生すいません、めちゃくちゃ腹痛いんで先帰らせてください。」
「お、おう。気をつけてな」
「すみません、しつれいします」
「おだいじに!」
「ありがとうございます」
お腹をさすり前かがみに階段を下る。
誰も見えなくなったところで、猛ダッシュ。
下駄箱で靴に履き替え、寮までの道を走る、とにかく全力で。
有難いことに自分は運動神経はいいほうだし、走ることも苦じゃない。
いつもなら歩く道を走るのだからあっという間に寮へ着く。
自分の部屋までの階段は少しばかりキツかったが、真羽に会えることを思えばなんのことない。
部屋を前にして呼吸を整える間も無くドアを開ける。
真羽の布団がこんもり丸く膨れているのが目に入って、そっと近づく。
頭が少し出ているだけで、横向きに丸くなったまま眉間に皺を寄せ眠っていた。
そっと手をひたいに当てれば、走ってきた自分よりも少し高い体温を感じられた。
「ごめん」
こうなってしまったことに責任を感じ、返事はないけれど謝った。
「俺、どうしたかったんだろうな…」
真羽をじっと眺めていれば、だんだん外が騒がしくなってきた。
ホームルームを終えた生徒たちが下校してきたようだ。
意識を外へうつしたところでポケットに入れていたスマホが震えた。
『コンビニ行くけど、何がいる?』
春からだった。
部屋を見渡して、備え付けの小さな冷蔵庫の中身を確認する。
『ゼリーとバニラアイスとスポーツドリンク。』
『りょーかい』
寮へ帰ることに夢中で、必要なものを買って帰るのすら頭から抜け落ちていた。
春たちには後日お礼に何かしようと思う。
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