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第103話
春side
郁の不自然に力がこもっていた体からだんだんと力が抜けて落ち着いていくのがわかる。
ゆっくりと体を離せば郁が顔を上げた。
何か悩んでいるような顔つきをしていて、話そうとしないってことは内容がまとまってないのか、夢の中のことだから覚えてないのか、それとも話そうか迷っているところなのか、どれかだと思う。
「…何時?」
「今?」
そばに置いてあるケータイを見ればもうすぐ午後2時半。
「…2時半」
「…そっ、か。」
「ぐっすり寝れなかった?」
「……分からない」
郁は俯いて黙り込んだ。
「何か飲む?取ってくるけど。」
「うん。でも僕も降りる」
「ん、じゃ降りよっか」
手を繋ぎ直し、2人で階段を降りてリビングへ向かう。
リビングには了さんの姿はなく陽太さんが1人でテレビを見ていた。
「あ、起きた?」
「…うん」
「まだ頭起きてない感じだね。」
「変な夢見て起きちゃったみたいで。」
「変?……どんな感じだったの?」
陽太さんが郁へ向けてそう聞くと、郁は眉間にシワを寄せてさらに顔を曇らせた。
とりあえずイスに座った。だがその後も郁は口を開こうとしなかった。
「……無理に言わなくてもいいよ。」
「……すごい…鮮明に、覚えてる」
「鮮明…ね…」
「夢って少しだけ曖昧な部分とかあると思うけど、それも無く?」
「うん……なんかね…ドア、叩いてた。必死に叩いて、叫んでた。……分からないのはね、…なんでそれが僕だったのかなって……今のこの姿じゃないもう少し前なのかな?……そんな感じの僕だった。どれだけ叩いても叫んでもドアは動かない、誰の声も聞こえない。僕の叫んでる声も。…………だんだんその僕から遠ざかって、目を開けたら春と手を繋いだままベッドにいたの……」
時々止まりながら他人事のように話していった。頭が回っているようで回っていないような話し方。ぼーっとどこかを見つめていた。
「ドアを叩いていたのが高校生の僕ではなく少し前の僕」
と言った郁。
その言葉に俺と陽太さんは目を見開いてアイコンタクトをとった。
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