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第192話

郁side 意識が浮上していく。 いつの間にか寝落ちてしまったのだろう。あたりを見渡せばリビングに布団が敷かれ、そこで眠っていたようだった。 頭痛や体のだるさはすっかりなくなっていた。 「あ、起きたんだね。体調どう?」 司季さんがキッチンから声をかけてきた。 明宏さんもリビングに入ってきて、僕に挨拶をして体調を聞く。 「あ、もう大丈夫、です。すみませんでした」 「いいのいいの。体調悪いときは仕方ないし。」 その言葉にほっと一息吐く。 学校に行かなきゃと思い、立ち上がって布団をたたみ、身支度に取り掛かる。 その間に明宏さんは出勤していった。 支度をすませて、リビングにもどって気が付く ふと、春の気配がないことに。 「司季さん、春は」 「朝早くに出たよ」 「そう、ですか」 「気になる?」 「…はい」 「2人とも変なとこ頑固なところあるから。気になることがあるなら話しなさい、隠さずにね。言い難いことは言わなくてもいい。けど誰でもいいから話せる人に話すこと。今までそうしてきたでしょ?」 気持ちの整理がつかなくてモヤモヤしていた。 それを司季さんが背中を押してくれた。 「春が帰ってきたら、ちゃんと話しします」 「うん。」 それから学校へ行かなきゃと思い、準備を進める。 いつもと同じ時間に家を出る。 ここ数日のイライラもなんだかスッキリしていた。 学校が終わって、家へ向かう足取りは比較的軽い。 普通に聞けばいいだけ。 あの感情は独占欲、そして嫉妬心。 考えるだけでも自分は重たいな、と思う。 まるで鉄の塊がついた足枷のようだ。 考え事をしながら、やることを済ませて行くとあっという間に終わってしまった。 落ち着かなくて、部屋をウロウロとする。 その時だった。 ガチャンと扉の開閉音がする。 慌てて、椅子に腰かけスマホを手に取る。 あたかもネットサーフィンでもしているかのように見せかける。 手洗いを済ませた春がリビングを覗く。 「ただいま」 春の声に、真っ黒なスマホの画面から顔を上げる。 「おかえり」 春は1つ頷くと、僕の正面の椅子へ座った。 話す内容を整理しているのか、話そうと口を開いては閉じる。 「…春。」 「ん?」 「無茶してごめんなさい」 今日はちゃんと僕から話をしなければ。 謝れば、春は少し驚いたのか目を少し見開いた。 「…ちゃんと、心の整理が着いたら話そうって思ってたんだけどね。その前にカッとなって忠告無視して無茶した。」 「…俺の方こそごめん」 「春。聞いてもいい?」 「うん?」 「あの人誰?バイト先に来てた色白の人。」 「…あぁ、大学の友達の彼氏。」 春は何となく察したのか説明してくれた。 「大学でよく一緒にいるのが優稀(ゆうき)っていうちょっとお調子者なやつなんだけど。それがあいつの彼氏な。 で、うちに来てた色白が智幸(ともゆき)。 初めてバイト先来たときちょうどあの二人で喧嘩してて。まだ付き合ってない時だったかな。そのあとちゃんと仲直りして付き合い始めたんだけど。 2回目来た時がその仲直りしたって報告だったんだ」 「そっか。……なんだ、そっか」 「ん?」 「何でもない。」 嫉妬してたなんて、恥ずかしくて口には出せない。 けれど、春はなんとなくわかった様子で先程までの緊張感はない。 「司季さんにね、背中押された」 「母さん?」 「うん、そう。」 「あとで帰ってきたら謝らなきゃな」 「うん、そうだね。…ごめんね。」 「ん。もうこの話は終わり」 「うん」 そのあと帰宅してきた司季さんと明宏さんに、迷惑かけたことを謝って、ありがとうと伝えた。

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