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第135話

春side 少し経ってそっと手を外した陽太さんは、郁が眠ったのを確認してから俺を見た。 「春くん。」 俺の名を読んでぎゅっと抱きしめられた。 「よ、陽太さん?」 驚いたと共に、何だか安心する。 「春くんも心が辛いと思う。だからね、たまには吐き出すことも大切だよ?」 「…ぁ」 ほぼ吐息のその声はかすれていた。 「俺は大丈夫ですよ?」 「ほら、いいから。肩の力抜いて、僕に体重かけていいから。うん、そうそう。」 「……陽太さん」 「なぁに春?」 いつもなら春くんと呼ぶのに…。 本当の母さんのように優しくて、でもしっかりと抱きしめてくれてて……暖かい。 「…なんで、分かったんですか?」 「んー、何でだろうね?」 頭をそっと撫ではじめた。 その行動が俺の中の何かを弾けさせた。 「……っごめんなさい」 そして心の中につっかえていた物が崩れるようにボロボロと涙が溢れた。 「……ありがとう。春は強い。だからこそ我慢して我慢して、溜め込みすぎて辛くなっちゃう。郁には大丈夫って言うけど、春に大丈夫って言ったら強がっちゃう…だから…春、僕の前では本当の母親じゃないけど同じように甘えて?その方が僕も安心できるから。春も郁と同じで苦しい時に抑え込まなくてもいい。なんでもいいから、打ち明けて。辛いって一言でも、ほんとになんでもいいから、ね?」 「…苦しっ、郁が…」 「ゆっくりでいいから」 とんとんっと背中を一定のリズムで優しく叩いてくれる。 「……辛いのに、変わって…あげることも、出来なくて。でもここがグッて…しんどくなって。」 そう言って胸を抑える。 頭の中はぐちゃぐちゃで陽太さんのお陰で落ち着けてる状態。 「うん、苦しいね。」 「…俺の、方が…郁を不安に、させてるんじゃっ…ないかな、って……ダメだなって、もっと強く、強くならなくちゃって、思ってた…」 「郁を不安になんてさせてない。それに、そうならないといけないなんて思わなくていいよ、春は春だから。郁の全てを背負う必要は無いんだよ?」 「…頭で理解はしてても…上手く出来なくて。自分の中で、整理できなくて、焦って…どうしていいか分からなくなる」 「そっかー。…焦らなくても、状況が分かるまで考えて落ち着いて判断することも大切だよ。春が焦ったら周りも焦って正しいことが余計にわからなくなっていくからね。」 真羽たちにも言えなかったことを陽太さんに話したことで、頭も心もスッキリしていた。 「…もぅ、大丈夫です」 陽太さんはそっと体を離して俯いた俺の顔を覗き込んだ。 「うん、さっきよりスッキリした顔してる。」 「どんな顔してましたか?さっき。」 「んー、苦しそうだった」 「…郁にも、バレてたかな」 「大丈夫、たぶんわかってなかったと思う。」 「よかった…」 「…ほら、顔洗っておいで?目が赤いから少し冷やした方がいいよ」 「…はい。……陽太さん、ありがと」 「いいえ!いつでも甘えて!」 陽太さんは胸を張って笑顔でそう言ってくれた。

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