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第136話
陽太side
春くんの涙を見たのはいつ振りだろう…
多分中学で郁が閉じ込められたあの時以来見てない。
まだ幼くて悔し涙を目にいっぱい溜めたあの頃の春くんは僕に謝ってきたっけ。
“「俺のせいです。ごめんなさい。」”
そう言った春くんはそれ以来すごく強くなった。
でもその分を内に隠してるって僕も気づいてたし、司季さんも言ってた。
2人が中学生だった頃を追懐すれば、今こうして改めて見ると大きくなったなぁとすごく思う。
経った2、3年前の話なのに。
あっという間に逞しくなった姿に寂しく思いつつ、これこら2人は幾度となく壁にぶつかっていく事になるけど、2人なら超えられる、そう確信した。
外の音に耳を傾けていれば、キュッと水道を止める音が聞こえた。
「…陽太さん、ありがと」
まだほんのり目が赤い春くんがスッキリとした顔で微笑んだ。
「ぜーんぜん!お礼を言われる事してないから。」
「…陽太さんって、ほんとに強いひとですよね。」
「それは、僕だって昔からこうじゃないよ?」
「どんな、感じだったんですか?」
「んー、郁を少し暗くしたような感じかな」
「えっ。」
「信じてないでしょ!!ほんとだよ?暗くていつも本ばっかり読んでるような子だった。でも!誰だって変わるから。」
「そう、なんですかね」
「きっとそうだよ。大切な人と出会って恋をして、新しい命を授かって親になって。…環境も、生活も、人との出会いも。いろんなことが変わるから。自然とね?自分も適応するために変わっていくんだよ。」
「確かに環境が変われば変わりますね。あぁ、そっかー。」
春くんは納得したようでうんうんと頷く。
「春も郁も、そうなる近い未来がすぐ来るよ」
「…実感ないです」
「僕もそのくらいの時同じこと思ってた。」
「でも楽しみです。」
「うん。僕も2人の未来が楽しみ」
いつか誰もが大人になる。
この2人も。
2人が笑顔で幸せでならば、僕も幸せだ。
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