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第139話

陽太side 先ほど春くんがちらっと後ろを振り返って顔を赤くして出ていったのを思い出すと笑いそうになってしまう。 もぞっと動いた郁を見つめ、声をかける。 「…目、覚めてるんでしょ?いつ起きたの?」 「…………今」 「そういうことにしておいてあげる。」 「……ぅん」 「…そのままでいいからよく聞いてね。春くんだって強いわけでもないし、ロボットじゃないんだからちゃんと笑うことや喜ばせること以外も感情はある。だからさっきみたいに泣きたい時だって、苦しいときだってある。郁がいちばん辛いんだってわかってるけど、春くんも郁と同じように苦しんでる。でもね?…郁のそばにはいろんな人が“味方だ”って言ってくれる。だから、何も怖くない。辛い時はいえばいい。そうすれば誰かがそばで話を聞いてくれる。お母さんやお父さんに言えないことを話せばいい。逆に言えば話してくれないことで、周りの人は苦しむから。」 鼻をすする音だけがする。 「何があっても、見捨てることは無いよ。」 「……っ…ぅ…ぁ、ありがとっ……」 よしよし、と頭を撫でる。 わんわん泣く郁を見て、ストレスが相当溜まっているのだろうなと思った。 春くん達と過ごすことで、笑顔が増えた。けれどその分、焦りも増したんだと思う。記憶を無くして、自分だけが取り残されたような感覚に陥ってたはず。 もしも… 郁が記憶を取り戻していて、記憶の無いふりをしているならば、余計にそのストレスは自分のキャパがパンパンになって、オーバーして過呼吸等の症状が酷くなっているんだろうなぁ… 今の時代、誰もが自らの命を絶とうとする。 苦しいことから逃げて、助けを求めても誰も救ってはくれないから。逃げることしか知らないから。 どうしていいのか分からないから。 周りは誰も自分を知ろうとはしてくれない。 理解しようなんて誰もしてくれない。 自分で抑えて抑えて抑えて、抑えきれなくなってそういう行動しかできなくなってしまう。 だから。 そうならないために。 そうさせないために。 誰かがそばに居ること。 誰かが必要としていること。 理解しようとしてくれる人がいること。 それを忘れさせないように。 そうすれば逃げることだけじゃなくて、どうしたらいいかを誰かと考えることが出来るから。 ごめんね、郁。 こんなことしかしてあげられなくて。

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