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第143話
郁Side
部屋を出て、多くの同級生たちとすれ違う。
「おはよう」と挨拶を互いにし合う。
ドキドキと緊張で体が固まりそう。
でも不思議と恐怖はない。
だって僕には春がいてくれるから。
階段で下の階へ降りていく。
近づくにつれ、歩く速度が落ちていく。
横を歩く春の手にそっと触れれば、ギュッと握りしてくれた。
食堂につけば、入る前になぜかそこに立ち止まってしまった。
「郁。」
「…すー、はーー。……大丈夫。いこう?」
今日は僕が春を引っ張る。
いつも春に先に行ってもらって、その後ろを俯いて歩いてたのに、今日は逆だなぁってふと思った。
食堂の中はちょうど賑やかな時間帯。
寝ぼけている人、黙々と食べる人、友達同士ではしゃぐ人、朝練が無い運動部の人達の集まり。
多くの人がいるが食堂は広いのでまだ座れる場所は幾つかある。
トレーを持って列に並び、食堂のおばちゃん達が順番に出してくれるお味噌汁やご飯、鮭の塩焼きを取り、トレーに乗せていく。
6人のおばちゃん達が僕を見ると「お、元気そうだね。」など多種多様に声をかけてくれる。
その一つ一つに笑顔で返す。
影で僕がいることに驚いてる人たちがこそこそと話しているのが聞こえる。
そんなこと気にしない。
強くなるって決めたから。
「春、どこ座る?」
「あの、端っこの方とか?」
指で示す場所に移動し座ると、食堂入口の方から「あぁぁぁぁ!!!!!」とひときわ大きな目立つ声でこちらに走ってくる。
声で誰なのかは明確だった。
振り向けばやっぱり真羽だ。
勢いよく走ってくる真羽からの衝撃に耐えようと体に力を入れる。
しかし、予想しているよりも衝撃は全くと言っていいほど無かった。ふわっと包み込んでくれる暖かさにほっと力を抜く。
「郁!!郁だぁー!!」
後ろから遅れて、朝のテンションが低い俊が来る。
「真羽、目立つから…」
寝起きの低い声で言うから、少し大げさに驚いてしまった。
「俊!郁がビックリしてるじゃん!」
「ご、ごめん。郁、そんなつもりじゃなかったんだけど」
「あ、ううん。大丈夫!こっちこそごめん!大げさに驚いちゃって…」
「俺が悪いから、謝んないでよ。」
「で、でも。」
「もうこの話はおしまい!…郁!今日はすっごく、体調いいんだね!良かったぁ!!」
うでを上下に降ったり跳ねたり、体全体で喜びを表現してくれる真羽を見て、こっちまで気分が上がっていく。
「うんっ!ありがとぉ!!」
興奮した勢いで立ち上がりハグをして互いにぴょんぴょんと跳ねる。
「…うさぎさん達、すこし落ち着こう?」
そう春が言うので意味がわからず真羽と首を傾げる。
「2人でぴょんぴょん跳ねるから、春は2人が兎に見えたらしいぞ」
俊が補足説明をしてくれて、春はそれが恥ずかしかったのか、顔をそむけた。
「なーんだ!そういうことかぁ!春にもそういうとこあるんだね!」
真羽と一緒になって笑った。
すると春もこちらを向いてニコニコと笑った。
4人そろって、クスクスと笑う。
こんなにも心から笑ったのは久しぶりで、喜びが増す。
僕の笑顔は多くの人の支えがあって、ここにあるんだと思った。
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