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第3話 正体

「……幡山、お前には幻滅したぞ」 「せめて事情を聞こうとは思わないのか?」  繁華街で遭遇した晃を連れ出し西園寺の自宅へと連れ込んだ。いつも飄々とした態度の晃だが、非常にバツの悪い表情を浮かべている。その表情が、西園寺が無言で責めている内容が事実であることを物語っていた。 「金か?学園には奨学金制度もあるだろう。お前の成績なら……」 「金じゃない」 「じゃあ快楽か?見た目によらない好き者め!」 「快楽でもない」 「では、何故……!!」  西園寺が苛立ちを抑えきれずに詰め寄ると、晃は覚悟を決めた表情を浮かべた。 「西園寺なら……言ってもいいか……」  すっと立ち上がると、晃は部屋の窓の方へと行きカーテンを閉めた。そして、西園寺に背中を向けたまま、プチプチとシャツのボタンを外し始めた。 「おい何を……」  西園寺は少なからず動揺しながら、晃に声を掛ける。するりと脱ぎ捨てられたシャツの下から現れた白い背中が眩しく見える。だが、見惚れたのも一瞬、苦しむように晃が前のめりになったかと思えば、肩甲骨の辺りが一気に黒ずんでボコッと隆起した。そしてその黒ずんだ部分から、骨格がバキバキと背中から飛び出した。 「なっ……!?」  西園寺は驚いて一歩後ずさる。呆然と見つめるその間に、骨格の間に薄くて黒い皮が張り、最終的に大きな翼の形になった。そして、翼を背中に生やした晃が西園寺の方を振り向く。  頭からは小さな角、露わになった腹の下の方にかすみ草のような文様が浮かんでいた。 「お前、悪魔……なのか?」 「………………サキュバス、だ」  サキュバス。西園寺の頭の中で百科事典が開き、サキュバスの概要を検索し始める。  ――男を誘惑する怪物の一種。  そう考えてから西園寺は反射的に言葉を発していた。 「男性型ではインキュバスというのではないか?」 「そこなのか!?」  思いつめたような顔をした晃が、虚を突かれたように顔を上げる。バサッと翼が広がり、風圧が西園寺の前髪を揺らす。 「僕は……男からしか生命力を摂取できない。だからサキュバスの方がしっくりくる」 「男から、しか……」  西園寺の目つきがまた怒りを含んだ鋭いものへと変わる。 「あの男は『獲物』か」 「生きるためだ!僕は生きるために男の精を取らなくちゃいけない!」  声を張り上げた後、晃はすぐに小さく身体を縮こまらせる。 「僕には……サキュバスとして、魅力がない。だから……ああいう『若ければ誰でもいい』人間を誘うしかない」 「お前は男なら誰でもいいのか」 「そうだよ……サキュバスだから……生きるためだから……」  辛そうに自分の肩を抱く晃に、西園寺は真っ直ぐ近づいた。

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