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第4話 獲物

 西園寺は晃に向かって言った。 「なら俺を食え!」 「はあ?」 「男なら誰でもいいなら、俺でも構わないということだろう」 「そ、そりゃあ……い、いやダメだ!西園寺から精を取るなんて出来ない!」 「何故だ?俺は美形だし、テニス部では全国大会に出る程だから体力がある。金も持ってるから毎日良いものを食べてて健康だ」 「そういうの自分で言うか!?そうじゃなくて、西園寺は僕みたいな非モテで魅力もない底辺サキュバスが対象にするにはグルメすぎ、むッ!?」  突拍子もない提案に狼狽する晃の言葉を遮るように、西園寺の唇が晃の口を塞いだ。話している途中に唇を合わされたので、薄く開いた口内に容易く舌の侵入を許してしまう。 「はっ……あ、ぅん、ン……」  ポウッと晃の下腹部に浮かび上がる花の文様が紫色に薄く発光する。  西園寺の生命力が晃に注がれている。西園寺が口を離すと、明らかに陶酔した表情の晃が目に入り、フッと勝ち誇った笑みを浮かべた。  しかし、得意げな西園寺に対して未だ晃の態度は煮え切らない。 「だ、ダメだ…西園寺が……お前が(けが)れる……」 「……飄々としていると思ったが、実は随分と卑屈だったのだな」  晃が西園寺の身体を必死に引き離そうとするが、全く力が入っていない。よく見ると腹に浮かび上がった花の文様が薄く点滅している。  性はサキュバスの本能なのかもしれない。それは兎も角として、西園寺には晃の言動が理解できない。 「俺は俺だ。西園寺劉輝の価値は誰かによって貶められたりしない」 「……西園寺……お前……」  ラグを引いた床の上に、晃を横たえる。覚悟を決めたのかそれとも諦めたのか、従順にも晃は背中の翼を背中にしまい込んだ。 「床、凄いふわふわしてる……」 「ウール100%の高級ラグだ。とはいえ……床の上ですまないな」 「寝転がった姿勢ってだけで有難いよ……いつも、路地とかトイレとかだったから……」  晃が何気なく言った言葉に、西園寺は怪訝な表情を浮かべた。 「お前はもっと自分というものを大切にしろ」 「……醜い、幻覚すら見せられないサキュバスなんて、誰が大切にするって言うんだ……」 「…………やっぱり、やめだ」  西園寺がそう冷たく言い放ち、身体を起こすと晃は「ああ、やっぱり」と言うように安堵と諦めが滲む笑みを浮かべた。 「そうだ、それが良い。西園寺は、僕なんかに(かかずら)っていい人間じゃ」 「何をゴチャゴチャ言っている。でするのはやめだ。お前は……」 「うわっ」  西園寺はそう言うと、ラグの上に寝転がった晃を、そのままお姫様抱っこで抱え上げた。 「お前は、ベッドの上で、丁寧に抱いてやる。腹一杯にしてやるから覚悟しておけ」

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