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第2話
しばらく、細川とは大学でも顔を合わせることなく過ごしていた。うちの後輩にも手を出してないみたいだし、被害がないので放っておいた。
俺は俺で、忙しかったし。
それに、俺だって大学の授業を受けて単位を卒業までに安泰にしておきたいし、バイトだってある。
就職活動もしなきゃならないし、本当に細川にかまっている暇なんてどこにもなかったんだ。
だけど、バイト終わり。店がバーに切り替わり、俺の仕事が一段落したところで、帰ろうとしたらそこに細川の姿があった。
タイムカードを押して、細川の隣へと腰を下ろす。
「なんか用?」
ここに、あの日の前までは週イチ、金曜日に必ず来ていた。一人で酒を飲むために。バイト終わりの俺が、声をかけるって流れだったんだ。
「……別に、お前に用があるわけじゃっ」
あっそ?と立ち上がろうとしたら、腕を引かれた。振り返ってみれば、信じられない、と言う顔をして俺をみる細川。
「お前、本当に……」
ブツブツと俯いて言う細川に俺はため息を吐いた。
そもそも、此処で会うって言うのは約束とかじゃないし。
俺はこの間の件もあって、朝帰りとか帰りが遅くなるのは心配されることが目に見えてる。
あー、だの、うー、だのブツブツ言って、本題に全く入る様子がない。
まぁ、近くに店長もいるし、話しにくいのか?とも思う。この細川が。
「場所変える?」
ハッとしたように俺を見た細川は、どこかぎこちなく頷く。
そんな様子がらしくない、と思いながら俺はその腕を引いて店を出た。
人気のない、公園に寄ってベンチに座る。
べたに、自動販売機で飲み物を買って渡す。
「で?話って何?この間の苦情なら聞かないよ、あの責任はフィフティーだろうし」
「……た?」
小さな声で呟かれたそれに眉を寄せると、バッと細川は顔を上げた。
「お前、俺に何をした!?」
「はぁ?なにもしてないよ」
突然何を言い出すかと思えば。
俺が、したことと言えば細川を抱いた事だけだ。酔ってたから多少手ひどくはなったけど。
「じゃあ、なんで……」
「知らないよ。お前に何があったかなんて」
ふう、と息を吐けば本当に真っ青なような顔をして、頭を抱えている細川。
全く、昼と夜のギャップは凄いな。
「……起たないんだ。誰とやっても……お前とやってから、一度もっ」
「ふーん?それで、自慰でもしてみた?そしたら、穴の方まで疼いちゃって、どうしようもなくてやめたとか?」
「なっ、なっ!?」
「それ、単にお前がアナル癖になっただけじゃないの?相性良かったんだ、抱かれるための体なんだよお前。アルファ様なのになぁ」
何で見てきたように分かる、と顔に書いてある細川にそれを言えば、細川は驚いた顔をしてその次に羞恥で顔を真っ赤に染めた。
「てめぇっ!!」
「本当の事だろぅ?それとも……また、抱いてほしいの?」
そう言ったとたん、細川は俺から素早く距離を取った。
そこまで警戒されているとは思わなかった。まぁ、親しい友人ってわけでもないし、どうでもいいんだけど。
「話ってそれだけ?俺、帰ってもいい?」
そうして、じゃっと背を向けたところで、俺の服がまたしても引っ張られる。思いっきり引っ張るもんだから、転ぶかと思った。
「まてっ」
「……ッ、待つのはいいけど、言葉をつかえっ!!危うく転びかけたわボケっ!!」
思わず俺は手が出て、細川の頭を殴っていた。やってから、やっちまった、と思ったがしてしまったものはどうしようもないだろう。
あー、とため息を吐きながら細川を見れば、細川は頭を抱えて蹲っていた。そんなに強く殴ったつもりはない。
「で?俺に何してほしいの?」
「……だけ」
「は?声ちっさい、聞こえない」
「俺を抱けって言ってんんぐっ!!」
慌てて俺は細川の口をふさぐ。
人気がないとはいえ、住宅街に近いこの場所でそんな言葉を大声で発してみろ、どうなっても知らないからな。
それに俺が巻き込まれるのはいただけないが。
「お前はなんつーことを叫んでるの」
「お前が声小さいって!」
「あーはいはい、だからって叫ぶなよ。それで、俺に抱いてほしい、と……まぁ、良いんだけど何で俺?」
「お前以外に誰に頼めるって言うんだよ!?」
あー、と俺は細川の事を見て思う。学校では、プライド高いアルファ様として有名だ。そんなアルファを誰が抱くというのだろう?
そもそも、抱いてくれなんて言えるはずもないだろうし。
だからと言って、夜の街で適当に相手を見繕う事も、プライドが邪魔してできないだろうし。
抱いちゃった俺が適任ってわけか。
結論に至った所で、俺は細川の腕を取る。
おい、と後ろから聞こえてくるがまるっと無視。男同士で手を繋いで歩いてるとか、バース性が出てきてからよく見かけるようにもなって、別に注目もされない。
まぁ、俺が細川を引っ張っている時点で、知り合いに見られたら噂くらいにはなりそうだけど、まぁ、別に気にしないかな。
細川がどうとかは関係ないけど。
ホテルに入って、部屋の扉を閉めると、細川の腕をようやく離した。
ベッドの上に座りながら、俺は細川に向かって指を示す。
「シャワー浴びて。それとも、俺に洗われたい?」
揶揄うように見れば、細川はサァっと顔を青くしてバタバタとシャワールームに引っ込んでいった。
出てきたころには、バスローブを纏っていて、まぁ、それで恥じらいをしているのだから、もうね、似合わねぇ。
「ちなみに聞いておきたいんだけど、優しくされたい?酷くされたい?」
細川の腕をひっぱり、ベッドの上に転がして俺がその上に乗る。
唖然としたままの細川だったが、胸の飾りをつまみ上げれば、正気に戻ってきたようだった。
この間、そこも酷くしたから、思い出しちゃっているのかもしれない。
「んっ……、この間みたいになるのは、困る」
その言葉に、笑いながら了解、と返す。そこからの言葉は割と必要ない。ただ、細川が喘いでいるだけ。
まぁ、この間は状況が特殊だったし、そこまでにはいかないと思う。
突っ込んで終わりだと思うし。さっさと慣らして、帰らなければ今日は妹がうるさい。
ピアノの発表会が有ったらしく、その結果を俺に報告したくてうずうずしているらしい。
美和子さんからのメールで知った。今日がピアノの発表会だとも覚えてなかったけどな。
まだ、妹のだけマシだけど。半分、血がつながっているのが分かっているから、余計に。
弟はダメだ、アレは……
「ひぃぅっ!?あっ、いっ、いたっ!」
「ん?あっ、ごめん。考え事してた」
そこまで考えて、ハッと細川の声で現実に戻される。
思わず、細川の物を強く握りすぎたらしい。大人しくされるがままだった、細川の腕が必死なまでに俺の腕を握りしめていた。
セックスの最中に、考え事って最低だなぁ、俺。と思いながら、それでも気持ちが有るわけじゃないから、罪悪感何て少量で吹っ飛んでしまったけど。
涙目になってる細川に、ぞくっとしながらとりあえず、ちゃかすように細川のモノを撫でる。人差し指を曲げてスリスリとすれば、再び細川からくぐもったような声が漏れて来る。
それにホッとしながらただ、作業を進めた。抱くなら、オメガか女の方が濡れるし、受け入れる体が出来てるから面倒が少なくていいんだけどね。
こればっかりは自分で蒔いた種と言いますか。
あまり酷くしない、とも約束してたから、細川の体をひっくり返してバックにしてから慣らしたそこへ突き入れる。
ゆっくり入れたほうが、まだ初心者の細川のためだろうけど、生憎そこまでのやさしさは持ち合わせてなかった。
衝撃が強かったのか、ひぃひぃと言いながら細川は腰を振りながら逃げを打つ。が、逃がすわけない。
前を確認して、はぁはぁと息が上がっている細川に納得する。
「入れるだけでイッちゃった?アルファ様が、二回目でクスクス……淫乱だねぇ」
「ちがっ、あぁっ、やっ、あっ」
違う、違う、と嬌声の合間に細川は訴えてくるように言うけど、じゃあ何だって言うの。
アルファは元々、抱かれるための体なんてしてないんだから。
イッたばかりの体を突きあげれば、悲鳴っぽい声が上がる。けど、全然前は萎えてない。
男の体っていうのは正直にできているものだ。
泣けてくるほど、ね。
そう言えば、と思って指で届く範囲ではなく、奥の方でこの辺と思って突き上げる。
途端に、言葉を失ったかのように背を反り返らせて、なんともこらえきれないと言ったような顔をして、バッタリと、ベッドの上に沈んでしまった。
もう、上半身に力は入らないみたいで、まぁ、間抜けな格好と言えばそんな格好を晒している。アルファが、あの細川が。
そんな様子に、興奮してきた俺は一際大きくなったモノでラストスパートをかける。
こうなれば、細川の様子など構ってはいられない。
がつがつ、それでも細川のいい所を狙って突けば、締め付けも一段と良くなるからそこを狙いながらだけど。
くっと、息をつめて最奥で吐き出せば、細川も合わせてイったらしい。
結構手加減はしたはずなんだが、それでも細川は俺が抜き出すと、ふっと意識を失った。
はぁ、とため息を吐いて中だけ掻きだすと、シャワーを浴びて、書置きを残して俺はホテルを出た。
少しばかり遅くなった俺の帰宅に、案の定うちのお姫様はご機嫌斜めだった。
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