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第3話

ん? 誰かが俺の髪に触ってる? あったかい手してるなぁ・・・・・・って、誰?鈴江さん? っつうか、俺、いつの間にか寝ちゃってたのか・・・・・・ ゆっくり目を開けると、まだ輪郭がはっきりしなくて、ただぼんやりと人影が・・・・・・ 「あ、起きた?」 え? 何? 飛び起きた俺を見て、紅刃はニッコリ笑った。 「おはよ、天城?」 なんでお前がここにいる? 俺、家に帰ってきたんだよな? 部屋の中をぐるっと見回して、間違いなく自分ちに帰ってきてて・・・・・・ 「カバン、学校に置きっぱなしだったから持ってきた」 カバ・・・・・・ン・・・・・・ 「・・・・・・で?」 それは、わざわざ、どうもありがとうと礼を言うべきなんだろうが・・・・・・ そんなもんは、応対に出たメイドに預けてくれれば済むことだろう? 「ん?」 ニッコリ笑って首を傾げてるけど。 「で、どうしてあんたが俺の部屋にいる・・・・・ですか?」 そして、どうしてベッドの端に腰掛けて、俺の髪を撫でていた? 誰の許可を得て俺に触ってた? 「どうしてって・・・・・・メイドさんが入れてくれた」 はぁ? 「お友達ですって言ったら部屋まで案内してくれて、中覗いたら天城が寝てるもんだから、その寝顔をちょっと見てたくて、起きるまで待ってますって言ったら、お茶まで淹れてくれて」 誰が、いつ、あんたと友達になった? 今日が初対面だろ! それに! なんなんだ、その理由は! そもそも、そんな理由でこの部屋に紅刃を入れたのは、どのメイドだぁ! 寝てたんだから、遠慮してもらえ! 帰ってもらうのが普通だろ! 鈴江さんは留守なのか? 「メイドにはよぉっく言い聞かせておきます。だから、あんたはさっさと帰ってください」 もう茶も飲み終わっただろ? 近くのテーブルには空のティーカップがある。 「えぇ?折角だからさぁ・・・・・・」 へ? 肩を押されて・・・・・・ 「お話しよう?」 押し倒されたこの体勢で、なんの話をするってんだ? 俺、襲われてるみたいじゃねぇか! こんなとこ、メイドに見られたら・・・・・・ 「・・・・・・帰れ」 ギッと睨みつける。 「ヤダ」 笑顔全開で、ヤダだとぉ! 痛ぇんだよ、馬鹿力! 両肩を押さえつけられてるから、身動きが取れねぇ・・・・・・バタバタと足を動かしても無駄? ちっ、近い! 「ちょっ!」 顔近づけてくんな! もう、お前とキスはしない! 「俺、天城と仲良くなりたいんだよね」 てめぇ・・・・・・こんなんで仲良くなんかなれるかっ! 「離せよ」 いい加減にしねぇと人呼ぶぞ! いやいや、いい加減にしなくても人呼べばいいのか? 「離したら天城逃げるだろ?」 逃げ・・・・・・るに決まってる! 「だからヤダ」 爽やか笑顔で拒否って! くっ、くっそぉ! 「は、話しするから退けよ!」 とにかく、こんな体勢で話なんか出来るかぁ! 「痛ぇんだよ、馬鹿力!」 「あぁ、悪ぃ」 ちょっとだけ力が緩んだ隙に紅刃の腹を蹴り飛ばして・・・・・・乱れた呼吸を整えた。 ギロッと睨みつけるけど・・・・・・ 「乱暴だなぁ」 くすって笑いやがった。 「うっせぇ・・・・・・で、は、話ってなんだよ?」 さっさと用件を済まして追っ払おう。 まぁ、話っつってもロクでもないことなんだろうけど・・・・・・ 「教室でも言ったと思うんだけど?」 はぁ? まさか、お前と番になれって話か? 本気で言ってんの? 本来、Ωに選択権はない。 だから、たとえ『運命の番』となって結ばれた相手がDV野郎だったとして、その運命から逃げることはできない。 『運命の番』に出会う前に、別のαと本当に愛し合って番関係になっても・・・・・・ 本来の『運命の番』が現れれば二人は引き離される。 例えどちらかが死んでも・・・・・・満たされることのない、カラカラに乾いた快楽に狂わされていく。 いっそ狂った方が幸せなのかもしれない。 まさに狂気の沙汰・・・・・・日々、街の何処かでΩの自殺体が発見されていた。 そんなΩを救う法律が数年前に出来た。 更に、『運命の番』関係を解消する薬が開発されたのだ。 それによって自殺するΩの数が少しだけ、ほんの少しだけ減ったと聞く。 「俺、今好きなヤツいるんで付き合えません」 よし終わり、帰れ! 「それは嘘だ」 う・・・・・・うそって? なんでそう言えるんだ? お前、俺の何を知ってるってんだよ! 「天城にはそういうヤツいないって聞いてる」 俺が突き飛ばすときに蹴られた腹を擦りながら、ニッと口角を吊り上げた。 誰に聞いたんだよ? 「天城」 ギシッとベッドが軋んで・・・・・・ 目の前にまで紅刃が戻って来ていて・・・・・・ 見上げた俺の頬に、あいつの熱い手が触れて・・・・・・ 逃げなきゃいけないのに。 頭の中で警鐘が鳴ってるのに・・・・・・動けなくて。 「口開けて?」 耳元で囁かれて・・・・・・ゾクッと体が震えた。 紅刃の親指が俺の唇にそっと触れて・・・・・・ 強い力で顎が固定されて・・・・・・ 「ちょっ、んぁ・・・・・・やめっ、まっ」 またキスされた。 「んはっ、あっ・・・・・・ン」 屋上でした触れるだけのキスとは違う。 舌がぬるって・・・・・・入っ!! 「待っ・・・・・・・」 息が・・・・・・出来な・・・・・・っ 押しても、紅刃のヤツ、ビクともしない! 耳、触るな! こんなキス・・・・・・知らない。 苦し・・・・・・い・・・・・・がっつく、なぁ! ぴちゃぴちゃと水音が、やけに大きく聞こえる。 「・・・・・・やっ、ら・・・・・・ふはっ」 このまま喰われ・・・・・・るの・・・・・・はっ、嫌だ。 ゾクゾクが・・・・・・止まら、ねぇ・・・・・・恐い。 「くれっ、ン・・・・・・はっ・・・・・・い、やぁあ・・・・・・」 なんか、ぼぉっとしてきた・・・・・・目の前にチカチカと白い星が飛んでる。 酸素・・・・・・が、足らない・・・・・・のかな? 紅刃の腕に、必死にしがみ付いてたつもりだけど・・・・・・ 指から力が・・・・・・抜けて・・・・・・く・・・・・・ 「天城?」 なに? くる・・・・・・し・・・・・・も・・・・・・・・・ぅ、むり。 「ちょっ、天城?」 さい、あ・・・・・・くぅ・・・・・・ 「おい、天城!」 ははっ・・・・・・焦って・・・・・・やが・・・・・ざまぁ、み・・・・・・ろぉ・・・・・・・・・ ガクッ。

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