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第5話

「・・・・・・ま・・・・・・ぎ・・・ちゃん?」 ん? 誰だ? 「天城坊ちゃん、こんな格好で寝ていたら風邪を引くよ?」 ベッドの端に腰掛けて、俺の髪を梳いていたのは・・・・・・ 「黄馬?」 鈴江さんの息子で、βの・・・・・・二歳年下の黄馬が俺の顔を覗き込んでいた。 上体を起こすと、ブルッと体が震えた。 随分冷えてるようだ。 「もう、しょうがないなぁ」 黄馬は自分が着ていた上着を脱いで、俺の肩に掛けてくれた。 あったけぇ・・・・・・ こいつ、俺より年下なのに、俺より体格良くって、背も高くって、顔も・・・・・・それなりにいいと思う。 へらっと思わず笑ってしまった俺に、黄馬はきょとんと不思議そうな顔をした。 けど、すぐにニッコリ笑って俺の手を取った。 「坊ちゃん、今日はお帰り早かったんですね」 いつもは、黄馬が迎えに来てたから・・・・・・ 「あ、悪い。ひょっとして学園の方に行ったのか?」 俺のこと迎えに行った? 「行こうとしたら母ちゃんが、坊ちゃんが帰ってきてるって教えてくれた」 そっか、じゃぁ無駄足させずに済んだんだな。 「坊ちゃん」 ん? ゆっくり黄馬の腕が伸びてきて、突然、ぐいっと口元を親指で拭われた。 「涎の跡」 言われた瞬間、ぼっと顔が真っ赤になったと思う。 「ふえっ!」 は、恥ずかしい! ゴシゴシと手の甲で唇を拭う。 いくら黄馬が使用人の息子でも、やっぱり、そういうのは格好悪ぃから見せたくないよな。 「・・・・・・・・・かわいい」 「ん?」 ぽそっと呟いた黄馬が何を言ったのかは聞き逃してしまったけど、俺の目の前で、黄馬は大きな口を開けてニッと笑顔を作った。 「もうすぐ旦那様も戻られる時間だから、今夜は一緒にお食事できると思うよ?」 え? 「父さん、今夜帰ってくるのか?」 普段は滅多に帰って来ないのに。 母さんと兄貴が死んでからと言うもの、仕事の鬼と化した父さんは、俺のことなんてどうでもいいようで・・・・・・ ここ何日、いや何週間? 顔を見たことはない。 「なんで帰ってくるんだ?」 いったい何しに? だいたい身の回りのモノも研究所に置いてあるだろうに? 「なんでって・・・・・・ココ自宅だし?んっとね、母ちゃんが、明後日のパーティーがなんとかって言ってたけど?」 ぱ・・・・・・って、それって、紅刃も言ってたパーティーのことか? 「そのパーティーってなんだ?黄馬、詳しく教えろ」 それに俺も行くんだろって、紅刃が言ってた。 「教えろって言われても、僕も詳しくは知らないよ」 黄馬が言うには、明後日、船上パーティーが行われる。 主催者は、この街にすっごく影響力のあるお偉いさん。 そこで、その主催者の息子が『運命の番』をお披露目、婚約発表をするんだそうだ。 その主催者は、父さんと竹馬の友らしく、今回招待されたのだとか。 「で、そのパーティーに父さんが出席するのは解るけど、なんで俺まで?」 ここ最近まともに顔を見た事もなけりゃ、口も聞いたことない父さんと一緒に、その婚約発表パーティーに行けと? 俺はそんな暇じゃない! 「そんなもんに俺は行かん」 紅刃は・・・・・・行くらしいけど。 「でもさっき、坊ちゃんの衣装届いてたよ?」 衣装? 「あ、ほら来たみたい」 黄馬につられて扉へ視線を移せば、開けたままの扉から、メイドが2人、大きな白い箱を持って入って来た。 「坊ちゃま、御食事前に一度袖を通してくださいませ」 黄馬に上着を返して、ベッドから立ち上がる。 明後日のパーティーのために、わざわざ服を新調するなんて・・・・・・ 1人が衣装箱を開け、もう1人のメイドが俺の服を脱がし始めると、黄馬が俺の前に姿見の鏡を移動させてきた。 「当日は僕が髪セットしてあげるからね」 俺の背後に回って、両肩に手を置いた。 「ん、頼む」 「へへっ、任して」 喜んじゃって、可愛いヤツ。 「うんっと可愛くしてあげるからね?」 へらっと笑う黄馬の頬を抓り上げた。 「めちゃくちゃ格好良くしろ」 俺を可愛くしてどうすんだ!

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