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第6話
結局、父さんから帰るのは遅くなるから食事は先に取るようにと鈴江さんに連絡が入った。
一緒に食事だなんて、まぁ、期待してはいなかったけど。
父さんが帰ってきたのは深夜零時を過ぎてから・・・・・・らしい。
そんな時間の俺は、ぐっすり夢の中。
一応俺の部屋を覗いたらしいって鈴江さんが言っていたけど、俺は全く気付かず・・・・・・
翌朝、俺が起きる前に、父さんは仕事場へ戻っていった。
そんなんだったら、いつもみたいに研究所に泊まればいいのに。
何しに帰って来たんだろう?
だから、俺は、いつも通りの朝を向かえ・・・・・・
いつも通り黄馬が運転する自転車の後ろに乗って・・・・・・
「おはよ、天城」
校門で、ニッコリ笑顔を張り付けた紅刃が片手を上げた。
どうやら、俺を待っていたようだ。
「・・・・・・っはよぅございます」
俺の様子を訝しく思った黄馬が、ジロッと紅刃を睨み付けたけど、あいつは全然黄馬の事を気にも掛けないで近づいてきた。
「ほら、早く教室、行こうぜ」
なぜか俺の腰に手を回して、ぐいっと引っ張られた。
「あ、天城坊ちゃん」
黄馬・・・・・・そんな心配そうな顔すんな。
俺は大丈夫だから。
「今日の帰りはいつも通りだから」
そう告げて、黄馬に背中を向けた。
さりげなく紅刃の腕から逃れて、歩く速度を上げる。
「照れるなよ」
すぐに追いつかれたけど・・・・・・っつうか、照れてんじゃねぇよ!
お前を避けたいんだよ、俺は!
見ろ、周囲の視線を!
痛いだろ?
痛くないのか?
鈍感な男め!
こんなヤツ、ムシだ!
絶対にムシ!!
ふんっと顔を背けて、更に足を動かす速度を上げた。
「はぁはぁ、ン、はぁ・・・・・・っ」
涼しい顔してついてくるもんだから、更に苛々度が増した。
全然引き剥がせなくって、結局教室まで走る嵌めになった。
「・・・・・・ぜぇ、ぜぇ・・・・・・はぁ、ンん」
なんで朝一で全力疾走なんかせにゃならんのだ!
全部紅刃のせいだ!
「じゃぁ、また後でな」
くしゃっと俺の髪を撫でて、自分の教室に向かう紅刃は、俺とは違って全然呼吸が乱れてないようだ。
なんだか、負けた気がする。
その後も休み時間の度に紅刃がやってきた。
別に何を話すわけでもない。
ただ俺の側で、何が楽しいのか、じっと俺の事を見てる。
超居心地が悪い。
「鬱陶しい」
そう突き放しても・・・・・・
「照れるなって!」
なんなんだよ、その笑顔は!
俺の言葉にグサッてなれよ!
傷付けよ!
鬱陶しいってのは、褒め言葉じゃないんだぞ!
はっ!
まさか日本人に見えて、日本人じゃないのか?
金髪だもんな!
あ!
だから鬱陶しいって言葉の意味が理解できないんだな!
こうなったら辞書を引いて・・・・・・その意味を突き付けてやる!
「天城」
なんだよ!
俺は今忙しいんだよ!
う・・・・・・うっ・・・・・・と・・・・・・う、し・・・・・・
辞書を捲るのに神経を集中していた俺は、いつの間にか伸びてきた紅刃の手に気付かず・・・・・・
くいっと顎を持ち上げられて・・・・・・
ちゅっ・・・・・・
ざわついていた教室を一瞬で沈黙が支配し・・・・・・ついでに、俺の頭の中を真っ白なものが覆った。
今紅刃にされた事を理解するのに要する時間、数秒・・・・・・
ガタンッと盛大に椅子を倒して立ち上がる。
「おっ、お前っ!」
教室中の注目を一点に集めてる・・・・・・
「ここを何処だと思って・・・・・・」
紅刃は俺の慌てる様を見上げて、ニッと口角を上げた。
「天城は俺のもんだって、ちゃんと見せ付けておかないとと思って」
は?
誰に?
っつうか、誰が、いつ何処で、お前のもんになったってんだぁ!
いったい、どこからツッコミを入れたらいいのか、ただパクパク口を動かしてたら・・・・・・
「天城鈍いから」
溜息混じりに、そんなことを吐き出しやがった。
真面目な顔して何言ってんの?
「鈍いってなんだよ!」
どういう意味だ!
「好敵手っていると燃えるけどぉ・・・・・・数多いのは面倒で嫌だよなぁ」
独り言のように言いながら、ぐるっと教室を見回した。
紅刃、俺はお前の言っている意味が解らん。
つられて、ぐるっと教室の中を見回した。
俺と目が合うヤツは・・・・・・結構いた。
慌てて逸らされたけど。
まぁ、そうだよな?
いきなりキスしたなんて・・・・・・お互い発情期でもないのに。
「天城」
ん?
なんだよ、いきなり手首掴んできて・・・・・・
「行こ」
へ?
ちょっ、引っ張るなよ!
この馬鹿力!
なんで外せねぇ?
俺って、そんなに非力なのか?
「何処に?」
もう授業始まるぞ?
ほら、先生も来た。
「2人っきりになれる場所」
は?
2人っきりって?
2人っきりになって何するんだ!
「天城、顔真っ赤だぜ?ひょっとしてヤラシイことでも考えた?」
やっ、やらしい・・・・・・こと?
思わず息を飲んだ。
俺、何されるわけ?
ぐいっと腰を抱き寄せられて・・・・・・
「冗談だよ」
そう耳元で囁かれて、ゾクゾクッて・・・・・・足から力が抜けそうになる。
「そんなに可愛い反応するとは思わなかった・・・・・・やっぱ、このまま拉致っていい?」
なっ!
お前、今馬鹿にしただろう!
「っざけんなぁ!」
バキッ!
思いっきり腕を振り回したら、紅刃に裏拳を食らわせられた。
「痛ってぇ」
けっ、ざまぁみろ!
「とっとと自分の教室に帰れ!」
紅刃を追い出して・・・・・・くるっと向きを変えたら・・・・・・
「鷹宮天城、君もさっさと自分の席に着け」
次の授業の担当教師がにっこりと笑って立っていた。
紅刃のせいで、あの教師、何回も何回も俺に当てやがって!
まぁ、全部正解を叩き出してやったけどな。
Ωのくせにって馬鹿にされたくなくて勉強してるんだよ、俺は!
将来、『運命の番』となるα、兄のために、兄の役に立つために・・・・・・俺は、頑張ってたんだ。
まぁ、今となっては無駄・・・・・・なこと、になったのかな。
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