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第7話
で・・・・・・放課後。
「なぁ、俺の事思い出した?」
紅刃・・・・・・
お前、性懲りもなく・・・・・・
ニコニコと笑顔を浮かべて、俺の前の席に陣取って、俺の机で頬杖ついて・・・・・・
「思い出すも何も、俺は紅刃のことなんか知らない」
帰ろ。
黄馬ももう迎えに来てるだろうから。
「じゃぁ、ヒント」
ヒント?
紅刃はゴソゴソとカバンの中を探って・・・・・・
「これ、昔天城からもらった手紙」
俺が紅刃に?
全く覚えがございませんが?
「やっぱり人違いだろ」
俺、手紙なんて書いたことないもん。
「いやいや・・・・・・なんなら、ココで朗読しよっか?」
全く身に覚えがなくとも・・・・・・
教室で、声に出して読まれるのはちょっと・・・・・・っと言うことで、紅刃の手から、その白い封筒を取り上げた。
そんなに古くなさそうな封筒で、宛先はなし。
裏にも何も書いてなくて、中から便箋を取り出して・・・・・・広げる。
「・・・・・・なんじゃこりゃ?」
所々汚れてる・・・・・・・
こんな、きったない字・・・・・・俺が書いたものだと?
「つ、が・・・・・・いの、ち・・・・・・かい・・・・・・?」
ん?
なんて?
辛うじて読めた平仮名を続けたら・・・・・・
「番の誓い」
紅刃が答えをくれた。
「俺らが保育園の時にさぁ、1人先生が結婚したじゃん?そんときにさぁ、天城が羨ましがって」
保育園?
俺が羨ましがる?
誰に・・・・・・・・・誰が?
「僕将来は紅刃と番になるんだもんって、俺から離れなくなって、ビービー泣いて」
ちょっと待て、紅刃・・・・・・お前、誰の話をしてるんだ?
「これを書いたんだ」
俺・・・・・・保育園なんて、行ってない。
行ってたのは・・・・・・俺の双子の兄で・・・・・・
「ほら、ここにサインだってあるだろ?」
紅刃が指し示したところに、くっきりと、大きく紅刃って漢字で書いてあって・・・・・・
その隣に・・・・・・掠れてるけど、漢字で小さく・・・・・・歪な形で・・・『天』って字が見えて。
天・・・・・・・・・・保育園に行ってたのは、双子の兄の天音・・・・・・
αで、俺の『運命の番』なはずで・・・・・・
それなのに・・・・・・天音と紅刃が番の誓いを?
「天城?」
俺じゃない。
紅刃が言ってるのは俺じゃ・・・・・・なくて。
「・・・・・・っがう」
違う。
「ん?」
懐かしそうに手紙を見ていた紅刃が顔を上げた。
「それ、俺じゃ・・・・・・ない」
もう、この世にはいない、俺の片割れ・・・・・・
「紅刃が言ってるのは・・・・・・天音のことで・・・・・・俺の、双子の兄・・・・・・で」
俺じゃない。
天音が保育園に行ってる間、俺は研究所にいた。
俺の周りには・・・・・・白衣の大人ばっかりがいて・・・・・・・・・
「え?」
俺じゃない。
「もう死んじまった天音のことだっつってんだ!」
呆然と俺を見上げてきた紅刃をその場に残して、俺は教室を飛び出した。
そのまま階段を駆け下りて・・・・・・
「あ、天城坊ちゃん」
黄馬が俺を見付けた。
「おかえり・・・・・・なさい」
俺は無言で黄馬の自転車の後ろに乗り・・・・・・
「えっと・・・・・・しっかり掴まっててね?」
黄馬は屋敷に向かって自転車を漕ぎ出した。
何かあったのって、背中が聞いてる・・・・・・・・・でも、まだ言いたくない。
ごめんな、黄馬・・・・・・
こつんっと背中に額を当てて目を閉じた。
ちょっとだけ甘えさせてくれ。
屋敷に着いたら、いつも通りの俺になるから。
ぎゅっと黄馬の腰に回した腕に力を入れると、優しく、ぽんぽんっと叩かれた。
もう平気になったと思ってたのに。
天音の事が出てきたら、こんなにも自分が動揺するなんて・・・・・・
しかも、俺以外の、更にαと番になる約束をしてただなんて・・・・・・・・・
盛大に溜息を吐き出して、ぐりぐりと黄馬の背中に額を押し付けた。
「・・・・・・黄馬ぁ」
「なぁに?」
自転車の速度が少しだけ落ちた。
お前の声が、ちょっとだけ俺を安心させてくれる。
「俺今日・・・・・・天音の婚約者に会った」
キキキッーーーーー!!!!
いきなりのブレーキで、ぐらんぐらんっと自転車が大きく蛇行し、俺は振り落とされないよう必死に黄馬の腰にしがみ付いていた。
「そ、そそそ、あ、あま、あまあま天音坊ちゃんの婚約者ぁ?」
声が裏返ってるぞ、黄馬・・・・・・っの前に!
「危ないだろうがぁ!」
落ちるかと思ったぁ・・・・・・
ぎゅむっと黄馬の頬を抓り上げた。
「らっ、らっへぇ・・・・・・天城坊ちゃんが、いきなり変なこと言うから」
俺のせいだと?
「お前も今朝見たろ、校門で」
すぐにピンときたらしい黄馬が、再び自転車を漕ぎ出した。
「あぁ、あの人・・・・・・なんか格好いい人だったねぇ・・・・・・え?でも、その人αじゃなかった?」
格好・・・・・・いい、かぁ?
「保育園の時に書いたって言う、2人のサイン入りの手紙を見せられた」
しっかり読めなかったけど、そこには『つがいのちかい』って。
あの頃はパッチテストも終わってて、あれこれ検査してった結果、俺と天音が『運命の番』だったってことが判明したって知ってたはずなのに。
天音は・・・・・・本当は嫌だったのかな?
俺は嬉しかったのに・・・・・・・・・
「ふぅん・・・・・・で、その人、今頃そんな手紙を持ち出して何がしたかったのかなぁ?」
何がしたかった?
「・・・・・・知らない」
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