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第8話
屋敷に着いて・・・・・・
夕飯までの間にシャワーを浴びて・・・・・・ぼふっとベッドに倒れ込んだ。
髪・・・・・・まだ濡れたままだけど、拭くの面倒くさい。
小さく溜息を吐いて、目を閉じた。
「・・・・・・なんで」
あの日から、ずっと繰り返し思ったこと。
なんで俺じゃなかったんだろう?
勉強も、スポーツも優れていたのは天音の方。
天音はα・・・・・・・・・友達もいっぱいいたし、親から期待されていた。
双子なのに天音はαで、俺はΩ、大変珍しい事例だって父さんは鼻息を荒くした。
研究対象として、だ。
そして・・・・・・いろいろな検査を受けていくうちに、俺達が『運命の番』だということも分かって、その時は母さんも嬉しそうだった。
実感は無かったけど、嬉しかった。
俺は天音と結ばれるんだ。
ずっと一緒にいられるんだって・・・・・・・・・
時が来たら、俺は天音との子を産んで、ずっと一緒に生きていくんだ。
俺は、天音の後をついて回っていた。
自慢の兄貴だった。
天音が保育園に行っている間、俺は研究所でいろいろなことをされて・・・・・・それが辛いものでも、耐えられた。
何の薬か解らないものでも飲んだし、切りつけられても声を漏らさないように我慢した。
俺は好きな人と番になれる、幸運の持ち主なんだから。
でも・・・・・・天音は、死んじゃった。
母さんと一緒に・・・・・・俺を遺して・・・・・・・・・
なんで、死んだのが俺じゃなかったんだろう?
俺だって2人と一緒にいたのに、どうして俺だけ助かったんだろう?
あの頃から、父さんは俺に興味がなくなったみたいで、研究所に連れて行かなくなった。
「天城坊ちゃま?起きてらっしゃいますか?」
控えめなノックの音で目を開けた。
廊下に鈴江さんがいるようだ。
「入るぞ」
え?
鈴江さんだけかと思ったら、まさか扉を開けて入って来たのが父さんだなんて・・・・・・
「元気そう・・・・・・でもないな。少し顔色が悪い」
心配してるフリなんか、しなくてもいいのに。
「そんなこと、ない・・・・・・です。それより、珍しいですね、こんな時間に」
久しぶりに見た父さんの顔。
俺、まだ忘れてなかったみたいだ。
前より、ちょっとだけ白髪が目立つようになったかな?
「あぁ、明日のパーティーの件なんだが・・・・・・どうしても時間の都合がつかなくてな」
俺は肩に掛けていたタオルを頭から被った。
髪を拭くフリをして・・・・・・
「すまないが、天城1人で行ってきてくれ。先方には連絡を入れておく」
独りで・・・・・・・・・
「あの実験が成功すれば・・・・・・」
「解りました」
父さんの言葉を遮って返事をし、タオルから顔を出した。
「お仕事頑張ってください」
俺、こういう時って、どんな顔するべきなんだろう?
笑顔を作ってるつもりなんだけど、笑顔で言えてないってのは分かった。
「あぁ」
父さんは無表情だった。
くるっと父さんが背中を向ける。
俺は、この人の手を掴んじゃいけない。
俺のじゃないんだから。
本来なら、全部天音が・・・・・・
「天城」
廊下に出たところで父さんが振り返った。
「明日のパーティー、ゆっくり楽しんでおいで」
そう言うと、俺の返事も聞かず、父さんは扉を閉めた。
楽しんでこいって・・・・・・どういう意味?
タオルを床に投げ捨てて、ベッドに倒れ込む。
どうせ、αばっかだろ?
Ωの俺の事なんか見下してくるさ・・・・・・Ω風情が何しに来たんだってね。
すうっと目を閉じて眠りかけたら、慌しく足音が近づいてきて、ドンドンッと荒っぽくノックされて返事をする前に扉が開いた。
「天城坊ちゃん」
飛び込んできたのは、やっぱり黄馬だった。
随分興奮しているけど、何かあったのか?
「僕も一緒にパーティーに行く事になっちゃった」
ベッドの下に膝をついて、俺と目線を合わせた。
「・・・・・・は?」
床に落ちていたタオルを拾って、ぎゅっと握り締めてる。
「旦那様がね、天城についててやってくれって」
はぁ?
なんだそれ?
「へへっ」
う、嬉しそうにすんなよ、何も言えなくなるじゃんか。
「今、母ちゃんが僕の服用意してくれるって」
まぁ、知らない連中に囲まれるよりは、知ってる人間の側にいた方がいっか。
でも・・・・・・父さんはどうして黄馬を?
「明日は土曜日で、学校は午前中でしょ?」
学校・・・・・・行く気ねぇよ。
「面倒くさい」
行ったら紅刃がいるじゃんか。
顔合わせたくない。
ぷいっと黄馬から顔を背けた。
「じゃぁ午前中、一緒に出掛けよ?」
何処に?
「薬局とか、本屋とか、いろいろ買いたいもんがあるんだぁ」
薬局・・・・・・あぁ、俺も酔い止め薬買っておいた方がいいかなぁ・・・・・・
まだ黄馬の話は続いていたけれど・・・・・・
だんだん声が遠くなっていって・・・・・・
「・・・・・・あ・・・・・・ぎ・・・・・・・・・ちゃ・・・・・・」
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