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第9話

朝。 窓ガラスを叩く雨粒を睨みつけて、黄馬が低く唸った。 「お前、雨男なんじゃねぇの?」 雨って言うか、暴雨。 昨日まで、あんなに天気良かったのに。 風も唸りまくってる。 まるで俺の心を表しているかのような荒れ方だ。 つまり、パーティーには行くなってことじゃないのか? 天からのお告げってやつ。 「・・・・・・うぅ」 「そんなに齧りついて外見てたって、雨止まないだろ?」 結局、船上パーティーは出来なくなり、婚約発表の場が変更されたと連絡が来たのは、それから5分後のことだった。 俺は学校にも行かず、リビングのソファでぐだぐだと無駄な時間を過ごした。 「天城坊ちゃん、ジュース飲む?」 見てもいない雑誌を捲る俺の周りを、黄馬がちょろちょろ動き回る。 「お菓子食べる?」 俺のこと、心配してくれてるみたいだけど・・・・・・ いや、それだけじゃないな。 なんか、そわそわと落ち着きがない。 「黄馬・・・・・・こっちに来て座れ」 俺の隣をポンポン叩いて呼ぶ。 両手にジュースが入ったコップと、菓子袋を持って、一旦俺の隣に落ち着いたけど・・・・・・ ずっと両膝が忙しそうに動いている。 「黄馬、落ち着け」 雑誌を閉じて、少々呆れた眼差しを向けてみる。 「だ、だってぇ、僕初めてなんだよパーティーとかって・・・・・・緊張するんだもん」 仕方ないじゃんって続けて、また立ち上がった。 「分かった分かった。黄馬・・・・・・お前、会場で俺から離れるなよ?」 俺が見てないところで大失敗とかしでかしそうだよな? 「あ、うん、それはもちろん!」 良い返事だ。 迎えの車が来るまで、あと2時間。 ちょっと寝てよ。 雑誌をテーブルの上に滑らせて、落ち着く体勢にモゾモゾ動いて、クッションを抱き締めた。 「こんなところで寝たら風邪引くよ?」 聞こえないフリ。 「・・・・・・もう」 ん? 「うわっ?」 ひょいっと抱き上げられて、クッションを落とした。 いきなり危ないだろうがぁっと、俺は黄馬の首にしがみ付いた。 「ベッドに運んであげるから」 ねって、黄馬が笑う。 ま、いっか。 別に今更だし。 それにしても、こいつ、でかくなったよなぁ・・・・・・出会った頃はすっげぇ小さくて可愛かったのになぁ。 階段を上がって・・・・・・ 俺の部屋に入って・・・・・・ ベッドに優しく下ろされて・・・・・・ 「ありが・・・・・・」 一応礼を言おうとしたら、 「あと、おまじない、ね?」 そう言って・・・・・・ちゅうぅぅぅぅっ!!!!! 「痛っ!」 いきなり首に吸い付いてきた。 「何すんだっ!」 慌てて引き剥がすと、なんだか満足そうな顔をしていて・・・・・・ 「おまじない、だってば」 得意げに胸を張った。 「何のだ?」 人の首筋に吸い付くようなまじないなんか聞いたこともねぇ! 「悪い虫がつかないように、って」 悪い虫? 「そんなの誰から聞いたんだ?」 誰だ、そんなこと黄馬に吹き込んだヤツは! 「僕がちゃんと天城坊ちゃんを守るから安心して」 頼もしいこと言うじゃないか。 「あぁ、よろしくな?」 くしゃっと黄馬の髪を撫でてやる。 「へへっ。じゃぁ、ゆっくり休んでて。時間がきたら起こしに来るね?」 どさくさ紛れに俺の頬にキスをしていったことは・・・・・・まぁ、許してやろう。 ひらひらと笑顔で手を振りながら黄馬の姿が扉の向こうへ消える。 俺はそのまま、目を閉じた。 なんの夢も見ず・・・・・・黄馬が時間だと起こしに来るまで爆睡。 出掛ける仕度をして・・・・・・ 若干、寝癖がなかなか取れなかったけど・・・・・・ 俺も黄馬も用意万端整った直後に、来訪を知らせるベルが鳴った。

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