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第12話
「ヒント2、声を掛けたのは公園のブランコ」
ブランコのある公園って言ったら、近所にある・・・・・・けど?
じっと紅刃が俺を見詰めてくる。
でも、さっぱり・・・・・・この顔に覚えはなくって・・・・・・
ムッと紅刃が唇を突き出して、ゴソゴソと上着の胸ポケットから封筒を取り出した。
「ん」
また手紙かと思ったんだけど、中からは1枚の写真が・・・・・・
「えっと・・・・・・?」
ぽちゃっと?
抱きついたら気持ち良さそうな、お子さんだな・・・・・・え?
なんだろう・・・・・・・・・・目元が、どっかで?
あれ?
写真と紅刃を交互に見比べる。
「これだけは見せたくなかったんだけど・・・・・・どう?」
ま、まさか?
どうって・・・・・・そう言われると、なんとなく面影があるかも・・・・・・
「ヒント3」
紅刃が俺の足元に跪いた。
「俺が君の涙を止めてあげるよ」
そう言って、俺を見上げた。
『ぼ・・・・・お、俺が君の涙を・・・・・・と、止めてあげる・・・・・・』
そうだ。
昔、そんなことを言われたことがあった。
けど、誰に?
その相手が・・・・・・紅刃だったと?
「天城」
無意識に流れ落ちた涙を、紅刃の指が拭ってくれた。
身を乗り出してきた紅刃の顔が近づいてきて・・・・・・目尻にキスをされた。
「天城」
耳元で名前を呼ばれて、ゾクッと震えた。
「天城に言われて、俺男を磨いてきたんだけど?」
磨いてきたって・・・・・・?
写真と比べたら、別人のようになってる・・・・・・
「今度こそ俺のこと好きになってくれる?」
あの日も今日みたいに雨が降っていた。
街の外へ出掛ける途中、何台もの車を巻き込んだ大事故が起こった。
ひしゃげた車・・・・・・
横転した車・・・・・・
フロントガラスを突き破った運転手・・・・・・
血だらけで車外に投げ出されて転がっている子供・・・・・・
母さんと天音と、俺を乗せていたタクシーは、ガードレールを突き破って停止していた。
3分の1以上は宙に浮いていた。
ちょっとした振動でも、まっ逆さまに崖の下へ転落しそうだった。
運転手に意識はなく・・・・・・
俺達3人は身を寄せ合って震えていた。
後部座席に乗っていた俺達は、事故に巻き込まれながらも動ける人達によって順に助け出される・・・・・・はずだった。
俺が引っ張り出された時に・・・・・・
タクシーは大きく揺れて・・・・・・母さんと天音は・・・・・・・・・・
「天城?」
紅刃と出会ったのは、2人の葬式の後だ。
その日も、今にも雨が降り出しそうな雲行きだった。
雨が降ってくれていれば、俺が泣いていることなんて気付かれなかっただろうな・・・・・・
「・・・・・・だよ」
ダメだよ。
俺は、紅刃に想われて良い人間じゃない。
「天城?」
「ダメ・・・・・・なんだ」
だって・・・・・・俺は、母さんと天音を犠牲にしたんだ。
俺だけが生き残ってしまった。
紅刃の肩に両腕を突っ立てて、強く押した。
「なんで?」
その俺の手首を紅刃に掴まれて・・・・・・顔を覗き込んできた。
なんでって、聞かれても・・・・・・
「・・・・・・俺は」
紅刃が俺の事をずっと想ってくれてたのは・・・・・・嬉しいけど・・・・・・
「翡翠がいいのか?」
ひ、す・・・・・・い?
どうして今翡翠さんの名前が出て来るんだ?
「なんで翡翠さっ!」
「天城、好きだ」
見詰められて・・・・・・ドキッと心臓が高鳴った。
「・・・・・・・・ごめん」
フッと紅刃から視線を逸らした。
「俺をフッて翡翠んとこに行くの?」
だから違うって!
どうして翡翠さんが出て来るんだよ?
それは訂正しておかないとって顔を上げたら・・・・・・
「そんなこと、させねぇ」
「はむっ・・・・ァ、ん・・・ぅンぁ」
間近に紅刃の顔があって・・・・・・何度目かのキスをされた。
止まってた涙が、また溢れてきて頬を伝う。
カッと全身が熱くなって、唇を割って侵入して来た紅刃の舌に・・・・・・思わず応えてしまった。
「天城」
ぎゅっと抱き寄せられて、俺も紅刃の胸に顔を埋めた。
ダメなのに・・・・・・俺は幸せになっちゃダメなのに。
「紅刃・・・・・・俺は、幸せになっちゃいけない人間なんだ」
だから、紅刃に好きになってもらう資格はないんだ。
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