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第13話
「なんだよ、それ」
あの日のことを紅刃に伝えよう。
そうすれば俺がどんな人間か分かる。
自分だけ助かったなんて・・・・・俺のせいで母さんと、天音が死んだのに・・・・・・
俺だけ、のうのうと生き続けてる。
「誰かに、天城は幸せになるなって言われた?」
誰かに?
そんなことは言われてない。
でも、皆思ってるはずだよ・・・・・・死ぬべきだったは天音じゃなくって、俺だったって。
天音が生き残るべきだったって。
「天城、幸せってのは誰にでもなる権利があるんだぞ?」
違うよ、紅刃・・・・・・俺にはそんな権利ないんだ。
「ねぇ天城・・・・・・もし・・・・・・」
俺を抱いている紅刃の腕に、少しだけ力が加わった。
「もし、天城が今・・・・・・自分のことどうでもいいって考えてるんだったら・・・・・・」
俺は・・・・・・俺のこと、どうでも・・・・・・いい。
こんな俺はいらないんだ。
「俺に天城をちょうだい?」
俺のことなんて、誰もいら・・・・・・ない・・・・・・
「俺はね、天城がいてくれたから今の俺があるんだよ・・・・・・」
紅刃の声が耳に心地いい・・・・・・・
贅沢だな、俺。
俺なんかが聞いてていいのかな?
「天城が男を磨けって言ってくれたから、いろんなことにチャレンジして、いろんなこと出来るようになって、力も手に入れた」
なにげに自慢が入ってる・・・・・・ん?
力・・・・・・も、手に・・・・・・入れた?
なんの力?
「あとは天城を手に入れて・・・・・・それで、ぐちゃぐちゃに甘やかしたいんだ」
甘え・・・・・・る?
誰が、誰に?
「天城の親父さんには、もう話してある・・・・・・天城は翡翠に渡さない」
は?
今なんと?
さっきから翡翠さんの名前がよく出て来るけど、一体なんなんだ?
「だから・・・・・・天城にコレ付けたヤツをぶっ飛ばす。それから、ココから俺に大人しく拉致られて?」
紅刃の腕から力が抜け、その指先が俺の首筋に・・・・・・
そこには、黄馬が悪い虫がつかないように、まじないと称して付けたキスマークが・・・・・・あって・・・・・・
「昨日はなかったよな、コレ」
く、紅刃・・・・・・なんか目が怖いんですが?
「まさか、あの使用人か?さっき会場で見掛けたよな・・・・・・あいつ、βだよな?」
ドンドンドンドンドンッ!!
突然荒っぽく扉が叩かれて、ビクッと肩が飛び上がった。
「坊ちゃん!天城坊ちゃん!」
この声・・・・・・黄馬?
「天城坊ちゃん、無事ですか!」
俺、あいつに何も言わずにココへ連れて来られたから・・・・・・心配させてしまったか?
紅刃がゆっくりと扉に近づいていく。
「・・・・・・く、紅刃」
そうだ、さっき、コレつけたヤツをぶっ飛ばすって!
黄馬が危ねぇ!!
「紅刃!」
紅刃の指が鍵を外し、それと同時に勢い良く扉が開いて、黄馬が飛び込んできた。
黄馬は部屋の中をぐるっと見渡し、俺を見付けると、ホッとした表情で近づいてき・・・・・・
「うわっ!」
黄馬に気を取られていた俺を、紅刃が背後から抱き締めた。
「使用人の分際で生意気だ」
紅刃のこんな低い声は初めて聞いた。
黄馬の表情が強張っている。
俺からは紅刃の顔が見えないけど・・・・・・αに睨まれたβ・・・・・・
「天城は俺のもんだ。てめぇんとこの主人にも言ったはずだ」
黄馬の主人・・・・・・・・・・・・って、父さん?
「だっ、だから旦那様が僕に天城坊ちゃんを守れって!」
俺を・・・・・・守る?
って、何から?
「守れ?翡翠にくれてやる気だったくせに?」
父さんが俺を守る?
翡翠さんって・・・・・・さっきから、どうして翡翠さんの名前が出て来てるんだ?
「天城、一人のαが何人ものΩと番になって縛り付けられる、いわゆるハーレム法が一時間ほど前に成立したんだよ」
「え?」
何言い出したんだ、紅刃?
一人のαが、何人ものΩをって・・・・・・・・・ハーレム?
「このパーティーって、αがΩを物色するためのパーティーだろ?」
ぶっ・・・・・・しょ、く?
何言ってんだ?
翡翠さんには琥珀さんがいて・・・・・・・・・お二人共、幸せそうで・・・・・・・・・
「で、天城は翡翠に差し出すために連れて来られた」
何、言ってるんだ?
「天城坊ちゃんが幸せになるためなんだ!」
黄馬?
「翡翠さまなら天城坊ちゃんを幸せにしてくれる!」
・・・・・・どういう意味?
なんだ、それ・・・・・・聞いてねぇよ、そんなこと・・・・・・
「旦那様は、天城坊ちゃんのことがすごく大事だから!!」
「へぇ」
紅刃の声のトーンがさっきより少しだけ高くなった。
声を荒げて、肩を上下させている黄馬も、なんだか不思議そうに紅刃を見てて・・・・・・
「天城、聞いた?」
紅刃がそう耳元で囁いてきた。
「天城の親父さんは、天城のこと大切なんだって」
たい・・・・・・せ、つ?
父さんが?
俺の事を大切だって?
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