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第14話

「だから、天城は幸せにならなきゃいけないんだ」 幸せにならなきゃ、いけない? 「大切にしてくれてる人達に心配掛けちゃいけないだろ?」 ・・・・・・あぁ、うん、それは解る。 心配させちゃ、いけない。 「で、アピールしないといけないだろ?俺達は今、めちゃくちゃ幸せですって」 幸せアピール? 俺、幸せなのか? 「更に俺は、こいつに・・・・・・」 伸びてきた手に、くいっと顎を持ち上げられて・・・・・・紅刃のキスが降ってきた。 唇に、ちょんって・・・・・・触れただけだけど。 「ぬあぁぁぁぁ!!!」 黄馬の叫び声で我に返り、じたばた腕を振り回してみたけど、その行為は無駄に終わり、紅刃の腕の中からは解放されなかった。 「ちょっとぉ!あんた何してんのぉ!」 黄馬、うるさい。 ここは一応高級ホテルなわけで、その大声は・・・・・・ダメだ。 「天城を幸せにするのは俺だ・・・・・・お前でも翡翠でもない」 「なっ!坊ちゃんを幸せにって、天城坊ちゃんは、あんたのだなんて決まってないだろぉ!」 黄馬、だからもう少しボリューム落とせ。 「僕なんか、坊ちゃんに抱っこしてもらったことあるんだからな!」 へ? 抱っこって・・・・・・黄馬、お前いつの話をしてるんだ? 「俺は抱っこよりもっとすごい事をこれからするつもりだ!」 く、紅刃・・・・・・何張り合って・・・・・・って言うか、なんだ凄い事って? くだらねぇこと言い合ってじゃねぇよ・・・・・・まるでガキの喧嘩みたいだ。 「くすっ」 思わず笑っちまったら・・・・・・ 「やっぱ天城はさ、泣いてる顔も好きだけど、笑ってる顔の方が断然可愛いよ」 なんて、紅刃が真顔で言うから・・・・・・ しかも俺、まだ紅刃の腕の中だったってこと思い出して、急はめちゃくちゃ恥ずかしくなって・・・・・・ ぐるっと向きを変えて、ぎゅっと紅刃の胸に顔を押し付けた。 「え?なっ、天城?何嬉しいことしてくれちゃってるの?」 紅刃の手が後頭部に添えられて、髪に指が入ってきた。 「ねぇ、お取込み中悪いんだけど、時間がないんだよ?」 突然第三者の声がして、ビクッと肩を震わせた。 今の声は・・・・・・白峰? 紅刃から離れようとしたんだけど、なぜか後頭部を押さえられて白峰の姿は確認できない。 「なんだ、アンタ!一体何を・・・・・・・ぐっ!ごほっ!」 黄馬? 「どうした?黄馬?」 「待て、天城・・・・・・見るな」 は? 見るなってなんだよ? 紅刃の腕の中から逃れようと身体を押すのに、その腕は緩まない。 黄馬が苦しそうに唸ってる。 何度も咳き込んで・・・・・・嘔吐した? 一体何が起こってるんだ? 「黄馬!」 「天城、落ち着いて・・・・・・天城!天城は、さっきの会場で何か口にしたか?」 耳元で紅刃が聞いてくる。 会場って、さっきの? 何も口にしてないはずだ・・・・・・飲み物だって、飲もうとした時に白峰が声を掛けて来たから飲んでないし・・・・・・ その後すぐ紅刃にココへ引っ張って来られたから・・・・・・それがどうかしたのか? って言うか、黄馬は? 「あの会場の食べ物、飲み物・・・・・すべてに特殊な薬が混ぜられてたんだ」 今のは白峰? え?薬ってなんだ? こいつら、いったい何の話をしてるんだ? 「・・・・・・何言ってんだ?」 「Ωが口にする料理には特殊な薬が混ぜられてたんだ。αが食べても無害だけでお、Ωが口にすれば、たちまち身体の自由が利かなくなる。で、強制的にヒート(発情)・・・・・・今頃、さっきの会場はとんでもない状況になってるよ」 そんなわけ・・・・・・ないだろ? それに、黄馬はβ・・・・・・で・・・・・・? 「その特殊な薬がβにとっては毒なのかもしれない・・・・・・・最悪、死ぬかも」 「咲良、馬鹿な事いうなよっ」 「黄馬っ!」 死? 思いっきり、力の限り紅刃の身体を押して、足を踏みつけて、漸く紅刃の身体を突き放せた。 目の前に、床に蹲っている黄馬がいて・・・・・・・・・ 口は泡を吹き、目は血走っていて・・・・・・苦しそうに首元を掻き乱して・・・・・・ 唇は紫色で・・・・・・ちゃんと息が出来てないみたいで、ヒューヒューと空気が漏れてるみたいな音がしてて・・・・・・・・・ 身体が痙攣してる・・・・・・ 「黄馬!」 俺の声も届いていない? 駆け寄ろうとして紅刃に邪魔された。 あと少しで黄馬に手が届くのに! 「離せ!嫌だ!黄馬!黄馬っ!」 「天城!落ち着いてくれ・・・・・もう、ココから出ないと」 「連中に気付かれたみたい。さっさとして・・・・・・時間がないよ?」 嫌だ! そんなこと知らない! 死んじまう! このままじゃ、黄馬が死んじまう! 「黄馬!」 誰か! 黄馬を助けて! 「救急車・・・・・・救急車を呼んでくれ!早く!」 「っ・・・・・・天城・・・・・・・・・ごめん、ちょっと我慢して」 首筋にチクッて・・・・・・・・微かな痛みが走った瞬間、目の前が真っ暗になった。 カクンッと膝が折れ、急激に音も遠くなっていく。 紅刃の声も聞こえなくなって・・・・・・・・・・ どぷんっと・・・・・・真っ暗な水の中に沈んだ。

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