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第23話

目が覚めた時、部屋の中は綺麗に片付けられていて、ベッドでは俺が一人、火爪さんの上着を抱き締めていた。 コシコシと目を擦って上体を起こす。 カーテンの隙間から差し込む光で部屋の中は薄らと明るい。 スースーと人の寝息が聞こえて、周囲をぐるっと見回せば、壁際のソファで紅刃が毛布に包まって眠っていた。 くるっと右腕を回してみれば、ふんわりと火爪さんの匂いがして・・・・・・へにゃっと笑ってしまった。 別に誰に見られたってわけでもないけど。 ふにっと頬を軽く抓って、唇を引き結ぶ。 今何時だろう? この部屋に時計は見当たらない。 ベッドの端に腰掛けて、眠ったままの紅刃を観察してみる。 カーテンの隙間から差し込む光がうまい具合に紅刃の金髪をキラキラと輝かせている。 火爪さんの髪は紅刃と違って赤い・・・・・・ それにしても、よく寝てるなぁ。 疲れてるんだろうな。 ぺたぺたと裸足で近づいて行く。 紅刃は起きない。 こいつも『牙』の隊員なんだよな? 紅刃の側に近づいて床に膝をつく。 こういう時って、人の気配に気づいてガバッと起きるんじゃないのか? ほら、なんかの小説で読んだことがある。 眠ってる戦士に、迂闊にも近づいてきた普通の女の子が、気配に飛び起きた戦士にナイフの切っ先を向けられるぅみたいな。 何秒かお互い見詰め合って、いや悪い、とかってナイフを下ろしてさぁ。 女の子は一瞬恐怖を感じるんだけど、すぐにキュンッてなって・・・・・・・・・二人は恋を育んでいく、みたいな? ツンと紅刃の頬を突いてみる。 起きない。 完全に無防備な状態で・・・・・・もし俺が殺し屋だったらどうすんだよ? もう一度頬を突いてやろうとして、バチッと紅刃と目が合った。 「何可愛いことしてんの?」 「お、おまっ、起きてたのかよ」 いつから? ぺちっと紅刃の額を叩いて立ち上がる。 紅刃はソファで横になったまま、肘を立てて拳に顎を乗せた。 「天城にほっぺた突かれたから起きたんだよ」 じっと紅刃が見てくる。 俺は抱き締めていた上着を羽織り、カーテンを開けに移動した。 そんな俺の背中に紅刃が声を掛けてくる。 「なぁ、いつまで兄貴の上着着てんの?」 「コレしかないもん」 起きたばっかだから、ちょっとゾクッとしたんだよ。 俺が着てた服、そこら辺に見当たらないし。 翡翠さんの婚約パーティーで出席するために新しく作られた衣装・・・・・・ 火爪さんの上着、俺が奪っちゃったみたいな感じだけど・・・・・・なんか、安心するんだ。 「天城が着てた服一式、盗聴器とか発信機とか付いてないか調べるって持ってったから」 「それが戻って来たとしても、アレを普通の日には着れないと思うけど?」 俺、今着てる検査着しかない。 服買う金もないし。 そもそも、身一つで連れて来られたから、俺には何もない。 なのに、紅刃のリーダーさんは俺に学生をしろと言う。 俺が通ってた学園から、この都にある白雪学園に編入手続きを済ませたって。 別に前の学園に未練があるわけじゃない。 これと言って親しい友達がいたわけでもないし、気に入っていた教師がいたわけでもない。 勉強は・・・・・・研究所に通っている時にいろいろ教わった。 天音の役に立つために必死になって学んだから、同学年の奴らよりはレベル上だったと思うんだけど? Ωのくせに、いつも成績上位に名前を連ねていたから。 不躾な視線だけはズケズケと突き刺さって来たけど・・・・・・・・・ 今更高校に通う必要はないって、そう熊男の料理を突きながら白雪有栖に言ってみたんだけど・・・・・・ 「学校は勉強するだけの場ではないよ?」 そう言われた。 じゃぁ、余計に行く必要はないんじゃないか? 勉強しなかったら何しに行くんだよ? 「じゃぁ、俺が天城に似合う服を見繕って買ってやる」 「いらない」 「即答?」 なんで紅刃に買ってもらわなきゃならないんだ? 俺の口座にアクセスできれば、自分で買えるんだし。 いや、どうやってアクセスするんだ? カードも持って来てない。 「とりあえず、ココを退院するときの服くらい俺に選ばせてくれない?」 上体を起こして、紅刃が提案してくれる。 確かに検査着のまま外に出るのは恥ずかしい。 でも、紅刃に甘えていいんだろうか? 紅刃は俺の事を好きだと言ってくれた。 俺と番になろうと言ってくれた。 でも、俺は紅刃の事・・・・・・よく考えたら何も知らないわけで。 紅刃はαで、紅刃にとっての『運命の番』のΩがいるわけで・・・・・・ そのΩの子は、紅刃の事を求めているかもしれないわけで・・・・・・・・・ 俺なんかが・・・・・・ 「天城?」 「え?あ?な、なに?」 「ん?だから服を」 「いらない」 甘えるわけにはいかない。 「可愛くしてあげるのに」 「俺を可愛くしてどうすんだ?」 小さく息を吐いて、一気にカーテンを開いた。 前に黄馬も同じようなことを言ったな・・・・・・ 翡翠さんのパーティーに行く時に髪のセットを、うんと可愛くしてあげる・・・・・・って。 やっぱり紅刃と黄馬の思考回路は似てるんだな。 黄馬の目が覚めたら、この二人、いいコンビになるんじゃないか? 「天城はさ、もっと人に甘えた方がいいよ?」 「・・・・・・・・・十分甘えてると思うけど」 今だって、こうやって紅刃は側にいてくれるし。 これ以上望んだら、贅沢だろ?

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