25 / 73

第25話

退院の時の為にと、『牙』から支給された洋服を着て、その上に火爪さんの上着を羽織って、迎えに来た紫龍さんの車に乗り込んだ。 紅刃は復学初日、らしい。 移動時はお互い無言のまま・・・・・・・・・ いや、何処へ連れて行かれるのか聞きたかったけど、聞いて名前を言われたところで解らないし・・・・・・ 紫龍さんに話しかけるって言っても、話題が浮かばない。 そもそも紫龍さんに話しかけていいんだろうか? 話しかけた瞬間、チッと舌打ちされても嫌だし・・・・・・・・ だから、ずっと・・・・・・窓の外をぼんやりと眺めていた。 俺の街では見たことのない店が並び・・・・・・・・ 俺のファッションセンスでは考えられない髪型や服装の人達が行き交っていて・・・・・・・・・一言で言うなら、派手だ。 目がチカチカする。 女の人の、肌の露出度高っ! あ、あの手を繋いで歩いてる人達は番? お相手は『運命の番』なのかなぁ? 幸せそうだなぁ・・・・・・ 俺がいた街じゃ考えられないけど、都って堂々と腕組んで歩いてる番が何組もいて・・・・・・・・・ 暫く街中を走っていて、徐々に建物の数が減っていき、緑が多くなった。 道はちゃんと舗装されている。 木々の間から、太陽の光を反射して水が光ってる。 大きな湖だなぁ・・・・・・・・・釣りをしてる人もいるけど、何が釣れるのかな? 車は小高い丘の上に立つ建物に近づいて行って・・・・・・・って、お城? え?他は・・・・・・・・・近くに建物は見えないけど? 「鷹宮天城くん、君には本日からココで暮らしてもらいます」 ぐるっと大きな噴水を回って、大きな扉の前に車が停まる。 同時に、大きな扉の隣の小さな扉が開いて、中から人が出てきた。 「当麻、彼が鷹宮天城くんだ。後は任せる」 「了解です」 紫龍さんは俺を車から降ろし、医療塔で渡された鞄を手渡され、そのまま車で走り去って行く。 ココが何処なのか、どういった場所なのか、なんの説明もなく・・・・・・・・ ぽつんっと、取り残されて・・・・・・・・・・ 遠ざかっていく車を見送って・・・・・・・・・・ 「鷹宮?」 「あ、はい!」 「国王直属特殊機関『牙』第七部隊、葛西当麻です。主に後方支援担当です。よろしく」 ニッコリと握手を求められ、ワケも解らないまま握り返す。 「あ、あの、鷹宮、天城、です・・・・・・あの、ココはいったい?」 どう見ても、映画や漫画で見るようなファンタジー風お城・・・・・・・・・ で、その中から出てきたのは、俺とあまり変わらない恰好をした・・・・・・・・・って、今俺が羽織っているのは火爪さんの上着。 これって、ひょっとして、『牙』の隊服? よく見たら、腕に『七』って書いた赤い腕章が嵌められてる。 葛西さんの首には、腕章と同色のチョーカー・・・・・・・・・この人は、俺と同じΩなんだな。 「ん?紫龍からは何も聞いてない?」 「・・・・・・・・・聞いてません」 葛西さんが目を丸くする。 俺の周囲をぐるっと回って、足元から順に視線を上げてきてバチッと目が合った。 「あの人、見掛けによらず人見知りだからな・・・・・・鷹宮の荷物ってコレだけ?」 「・・・・・・はい」 実際、俺のものなんて一つもないけど。 この鞄だって、その中に何が詰められているのかも知らない。 「んじゃぁ、中案内するから付いて来て」 「あ、はい・・・・・・お願いします」 伸ばされた手は・・・・・・・なぜか、俺と手を繋いだ。 「広いから迷っちゃわないようにね」 ニッコリ笑った葛西さんにドキッとした。 綺麗な笑顔だな。 幸せなんだろうなぁ。 羨ましい。 大きな扉の隣の小さな扉から中に入る。 広い空間に真っ赤な絨毯・・・・・・ゴージャスなシャンデリアに、巨大な額縁の風景画。 異世界だ。 うちの屋敷もまぁまぁ広かったけど、その比じゃない。 食堂、ミーティングルーム、地下の訓練場に大浴場・・・・・・・・・ その他娯楽ルーム、葛西さんでも知らない部屋も多々あるそうで。 それぞれの部屋にもミニキッチンやバスルーム完備。 ちなみに、この城から近所で一番近い店まで歩いて一時間以上掛かるらしい。 食事の時間は決まっているので、それを食べ損ねると・・・・・・・・・地獄だ、と言われた。 自炊できるようになった方がいいかな。 いや、そもそも、俺は一文無しなんだから、アルバイト探さないと。 今まで鈴江さん達がいて世話をしてくれていたけど、これからは一人なんだから! しっかりしないと・・・・・・・・・ いつかは帰れるのかな? ちょっとは成長した姿を見せられるかな?

ともだちにシェアしよう!