名前を呼ばれたはずの当麻先輩は、呼ばれたことに気付いてるはずなのに入り口側へ顔を向けない。 俺達が着ている隊服とは色が違うけど？ 「当麻」 あ、部屋に入って来た。 この人、ずっと当麻先輩を見詰めてて、俺の存在何て気にならないみたいに･････････ 当麻先輩も、この人に全然向かなくて？ 仲悪いのかな？ でも、仲悪かったら、わざわざ探しにこないよね？ 「当麻、今回の任務は少し長引きそうだ･･････ヒート時期には恐らく戻って来れないから、薬は忘れずに飲んでおけ」 ヒート？戻って来れない？ ひょっとして、この人が当麻先輩の･･･････番？ で、どうして当麻先輩は振り向かないんだ？ 喧嘩中なのか？ 俺、気まずいんですけど･･････ 席を外すにも、この人が邪魔で廊下に出れないし、そもそも、ここが俺の部屋って事で、出れたとしても何処にいればいいんだ？ 「当麻」 「･･････････分かった」 当麻先輩に手を伸ばそうとしたその手は空を切り、その人と一度も視線を交わすことはせず、その隣を通り過ぎて俺の手を取った。 「当麻」 「鷹宮、次行くぞ」 「え？あ、はい･･････あの、いいんですか？」 ずっとこっち見てますけど？ 見てるって言うか、俺睨まれてる気がしますが？ 蛇に睨まれたカエルって感じで、嫌な汗が額にじっとり浮かんで、足が動かない。 「何が？」 何がって･･････当麻先輩もさっきと雰囲気違うし。 この人の視線、気付いてるんですよね？ 夫婦喧嘩の仲裁なんて俺したことないから、どうしたらいいのか解らない。 俺を引っ張って部屋を出て･･････ さっき案内してくれた食堂へ戻って来た。 「零ちゃん、コーヒー淹れて」 厨房に向かって声を張り上げ、俺の手を引っ張ったまま、近くのテーブルに着席。 なんて声を掛けたらいいんだろうか？ さっきの人のこと聞いてもいい？ いや、これ以上不機嫌になられても困る。 でも･････････気になる。 あ、三人分のマグカップが乗ったトレイを持った人が近づいてきた。 さっき当麻先輩が呼んだ、零ちゃんって人だろう。 すらっと細身の、綺麗なΩ･･････色素の薄い金髪に、赤っぽい瞳。 「当麻くん、そんな膨れっ面してたら、折角の可愛い顔が台無しだよ」 俺達の前にマグカップを置いてくれて、俺と視線を合わせた。 「君が鷹宮天城くんだね･･････僕は、灰邑零、よろしく」 にっこり笑って、灰邑さんも着席。 一つのテーブルを三人で囲む。 Ωが三人。 俺、こんなの初めてだ。 新鮮な感じ。 「僕も第七部隊の隊員です。趣味が料理なので、結構高い確率でここの厨房にいるよ」 袖口から指先だけがちらっと見える両手でマグカップを持って･････････ ふぅふぅっとコーヒーに向かって息を吹きかけてる。 色っぽい････････いや、可愛い？ 「ところで当麻くん、さっき小田切くん探してたけど会った？」 小田切？ さっきのイケメン？ 当麻先輩の番の人のこと？ 「会った」 「そ」 会話短っ！ 「あ、噂をすれば」 「ん？」 「当麻！」 あ、イケメン･･････小田切さん。 追って来たんだ。 息は乱れてなくて、涼しい顔してるけど･････････ で、当麻先輩は･････････目が座ってる。 「当麻」 なんか、こっちが緊張するんですけど･･･････ねぇ、灰邑さん？ ちらっと視線を向けてみれば、我関せずな灰邑さんがコーヒーを啜ってる。 ひょっとして、この二人って、いつもこんな感じなのか？ 「ちゃんと薬を飲むんだぞ？」 「････････分かってる」 心配されてるんだし、愛されてるってことなんだし、そんな素っ気ない態度をしちゃいけないと思うんですが？ 俺が口を挿むことじゃないし･････････ マグカップに口を近づけて、コーヒーを一口。 苦い･･･････ 俺、ブラックは苦手なんだけど、ミルクくださいって言える雰囲気じゃないし。 「当麻」 「外に！待たせてる人達いるんだろ？」 当麻先輩、ツンデレ過ぎます。 いや、デレてないからツンツン過ぎます！ 一回くらい視線を合わせてあげればいいのに。 「俺なんかに構ってないでさっさと行っ！！」 ガタンッと音を立てて立ち上がった当麻先輩の唇に･････････ 俺の目の前で、小田切さんが当麻先輩にキッ、キスをして･････････ なんか、さらっと行動に移して･･･････この小田切さん、格好も行動もイケメンさん。 しっかり腰を抱き寄せられて、後頭部をがっちり押さえて･･････ 逃がさないって言うか、貪り尽くす気かって言うか･････････ とにかく、人前だって言うのに、激しい。 こっちが照れるんですけど･･････ねぇ、灰邑さん？ あぁ、やっぱり慣れてるんですね･･････気にもしてないご様子で。 俺一人動揺しまくり。 なんだかんだと、当麻先輩も小田切さんのキスを受けて大人しくなったし。 俺、今何を見せられてるんだろう。