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第28話

眉間に深い皺を刻んで、苦いコーヒーをちょっとずつ喉に流していく。 「前回の任務の時にも当麻くんのヒートが重なってね、その時は強引に当麻くんを優先させたんだ」 任務、なんだから仕方がないんでしょうけど・・・・・・ ヒートの時に番が側にいてくれないって、やっぱり辛いよね? 淋しいよね? 悲しいよね? 小田切さんだって当麻先輩の側にいたいんだろうけど。 「で、今回は強制参加ってことだね」 灰邑さんが、ズズッと音を立ててコーヒーを啜った。 ワザと立てたんだろう、その音で、当麻先輩がハッと我に返ったみたいだ。 「ちゃんと薬飲むから・・・・・・マジでもう行った方がいい。外まで送るから」 「当麻・・・・・・我慢できないくらい辛かったら遠慮なく呼べ。何があってもすぐに戻ってくる」 小田切さんは当麻先輩の腰を抱き、そのまま食堂から出て行った。 当麻先輩、顔真っ赤だった。 テーブルに残ったのは俺と灰邑さん。 「僕の場合メール一つで済ませられるよ・・・・・・あぁやって来てくれるなんて羨ましいね」 ぼそっと、それでもしっかりと俺の耳に届くくらいの音量で発せられた言葉に、ぎょっと顔を上げる。 「当麻くんは大事にされてるんだから、もっと小田切くんに優しくしてあげればいいのにね」 クスクス笑ってコーヒーを飲み干してしまう。 俺はまだ半分以上マグカップの中に残ってるけど・・・・・・ 「当麻くんが戻ってくるまでにコーヒー淹れ直そうか」 手を付けられていない当麻先輩のマグカップと、飲みかけの俺のマグカップをトレイに戻して灰邑さんが席を立った。 「ねぇ、鷹宮くん。さっきから気になってたんだけど、君が着てるのって、獅童の隊服だよね?」 「あ、はい・・・・・・そうですが?」 医療塔からずっと借りてます。 「小田切くんに何も言われなかった?」 「いえ、別に何も・・・・・・・・・?」 え?何かあるんですか? って言うか、隊服ってみんな一緒じゃないんですか? 何処かに火爪さんの名前があるとか・・・・・・・・って、ないですよね? どうして、俺が着ていたのが火爪さんの隊服だって分かったんです? 「当麻くん曰く、小田切くんの本命が獅童くんだってことなんだよねぇ」 へ? ちょっと、そんな爆弾を落として一人にしないでくれませんか? トレイに三つのマグカップを乗せて、灰邑さんが厨房に行ってしまった。 ふと、先程小田切さんに睨まれたことを思い出した。 でもちょっと待って。 小田切さんはαで、しかも当麻先輩の番なんだろ? さっきだって、人目も憚らず、濃厚なキッスをかましてくれちゃって・・・・・・・・・ 仕方なく当麻先輩と付き合ってるって感じには見えなかったし? 当麻先輩が照れ隠しの為に言ったことなんじゃ? なんでだろう、胸がザワザワする。 火爪さんは小田切さんとどういう関係なんだろうか? 当麻先輩に聞けば解るかな? でも、聞いていいんだろうか? 当麻先輩の番の小田切さんって、火爪さんのことが好きって本当ですかって? そんなの、どんな顔して聞けばいいんだよ・・・・・・・・・ 胸がチクッてした。 火爪さんはどうなんだろう? 小田切さんのこと、どう思ってるんだろう? 火爪さんにはもう番の人っているのかな? いるんだったら、どんな人なんだろう? きっと綺麗な人なんだろうなぁ・・・・・・・・・ いいなぁ、火爪さんに愛されて・・・・・・・・ 「天城?」 俺の目の前で手をヒラヒラ振ってるのは・・・・・・・ 「あれ?当麻先輩?」 小田切さんを送り出してきた当麻先輩が戻って来ていた。 いつの間に? 「天城って目を開けたまま寝れるのか?」 すっごい特技だな、って感心しないでください。 「そんな当麻くんだって目を開けたまま寝れるでしょ?」 仲間じゃないか、と灰邑さんが淹れ直したコーヒーを持って戻って来た。 「零ちゃんだって同じだろ?」 えっと、つまり、ここにいる三人は同類ってことですか? ドサッと先程の席に当麻先輩が腰を落とし、テーブルに肘をつく。 当麻先輩、また不機嫌に・・・・・・ 小田切さんが任務に行っちゃったから・・・・・・・・・ 「零ちゃん、信じられる?あいつ、第五部隊のリーダーを外に待たせてたんだぜ」 第五部隊が小田切さんのいる部隊? 第七部隊のリーダーさんは自称二十九歳の、一見ガキっぽい人だったけど。 あ、そう言えば、『牙』の隊員は、大きいか小さいかは別としても、みんな特殊能力を持ってるって言ってなかったか? あのガキ・・・・・・いやいや、白雪リーダーさんは他人の思考を読むことが出来る能力があるらしくって。 つまり、ここにいる当麻先輩や灰邑さんも何かしらの? 「おいコラ、鷹宮・・・・・・ちゃんと聞いてるか?あ゛?コラ、鷹宮!」 「うわっ!」 ちょっ、当麻先輩? いきなり胸ぐら掴んで引っ張らないでください! 「相変わらずアルコールに弱いな、当麻くん」 灰邑さん? 淹れ直したっていうコーヒーの中に、まさか酒が入ってるんですか? 「スプーン一杯のブランデー如きで、しっかり酔える・・・・・・羨ましいぞ、当麻くん」 こ、この人・・・・・・・・ 「おいコラ、鷹宮ぁ!聞いてんのか、鷹宮ぁ!」 聞いてますが、当麻先輩、酒弱いんですね。 スプーン一杯でこんななんて。 当麻先輩がこうなるって分かってて、灰邑さんはコーヒーに酒を仕込んだわけで。 灰邑さんは、しれっとした顔でコーヒーを飲んでるけど。 「鷹宮ぁ・・・・・・お前に教えてやる」 はいはい、当麻先輩、酔っぱらいの相手って、俺初めて何でお手柔らかにお願いしますね。 「俺とぉ、小田切誠志郎はぁ」

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