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第29話 【 小田切誠志郎×葛西当麻 】

【 小田切誠志郎×葛西当麻 】 当麻side 俺はあいつが好きで、あいつは俺じゃない奴が好き。 告白して振られたわけじゃない。 そもそも告白なんて出来るわけがない。 母親同士が仲良くて、俺達は幼稚園の頃から一緒だった。 カツンッて窓ガラスが音を立て、ちらっと壁掛け時計に視線を走らせカーテンを開く。 ここは国王直属特殊部隊『牙』第七部隊の隊員専用の寮、蒼風館と呼ばれる城。 ネズミ一匹逃がさない、警備態勢は万全なはず。 そんな警備の輪を掻い潜って寮の、俺の部屋へ窓から侵入してこようだなんて人間はたった1人、それは小田切誠志郎くん、君だけだよ。 「当麻、起きてたか?」 起きてるって知ってて来たんだろ? さっきまで地下の資料室に籠ってたんだけど・・・・・・ そろそろ出てきなさいって、零ちゃんに連れ出されたわけで。 つまり、零ちゃんから連絡が行ったのかな? 「あぁ・・・・・・でも、あとは風呂入って寝るつもりだったんだけど」 お前が来なきゃ、な。 ヒート時期じゃないのに、何しに来たんだ? 何しにって・・・・・・・することは一つしかない、か。 なんだよ欲求不満か? お前なら、いくらでも相手してくれる人いるだろ? こんなとこまで来なくても。 「そうか」 毎度毎度、なぜ入り口から入って来ない?。 そりゃ、入館時にはいろいろな書類を書かなきゃならなくて面倒くさいだろうけど仕方ないだろ? 実際、お前が俺の部屋に侵入してることは、この城の中にいる人間、ほぼ全員が気付いてるんだけど。 そろそろ、上の方のお偉いさんから怒られればいいのに。 俺の横を通り過ぎ、ばふっとベッドに腰掛ける。 「なんなら一緒に入るか?」 誠志郎から石鹸の香りがしたから、風呂に入ってきたのは分かってるけど。 「風呂場では声が響く・・・・・・お前が声を出さないように我慢出来るのなら」 そう言われた瞬間、ボンッと俺の顔が熱くなった。 「それとも啼いてるのを誰かに聞かせたいのか?」 だって、お前、風呂場で俺に何する気なんだよ! 何って・・・・・・ナニ、か? いやいや、そんなつもりで言ったんじゃないし! だって、小っちゃい頃は一緒に入ってたから・・・・・・・ちょっとした冗談のつもりだったんだけど。 「ば~かっ!」 誠志郎の成績は毎回学年トップ3に入る。 そんな男を捕まえて馬鹿なんて言えるのは俺くらいかな? そう言う俺は・・・・・・まぁ普通、かな? 成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能な幼馴染が近くにいるって大変だなって周囲には言われるけど・・・・・・ いや、大変っちゃぁ大変なんだけど、あまりにも一緒にいすぎて、それが誠志郎にとって普通の事だから。 誠志郎をその場に残して、部屋に備え付けのバスルームへ。 「当麻」 扉を閉めようとして誠志郎の手が邪魔をした。 今、手挟まなかったか? 大丈夫か? 「やっぱり私も一緒に入る」 は? 「あんな顔して煽るお前が悪い」 は? はあぁぁぁぁぁ? 俺が一体どんな顔したって言うんだ! 「ちょっ、待て!待って、誠志郎!」 「待たない」 誠志郎の手が俺の服を掴んで・・・・・・・・・ ジリリリリリッ! 目覚まし時計の音がうるさくて手を伸ばしたが、その手は空を切った。 「あぁ、うるせぇ」 気が付くと俺はベッドで寝ていた。 「・・・・・・あの馬鹿、無茶苦茶しやがって」 全身がだるい。 風呂場じゃ体勢が・・・・・・キツイ。 「誰か目覚まし止めて」 ベッドには俺1人。 誠志郎の姿は無くなってるから、また窓から出て自分の寮に帰って行ったんだろう。 朝まで俺の隣にいてくれたんだろうか? 少しだけ温もりが残っている・・・・・・気がする。 「誠志郎?」 名前を呼んでみたって返事はない。 あいつに抱かれた次の日は心が重い。 俺は、あいつの事が好きで、あいつは俺じゃない奴の事が好き。 俺を抱くのは、あいつが、ヒート時の俺に翻弄されて、俺の首を誤って噛んじゃったからで・・・・・・・・・ 「はぁ」 ゆっくりと、深く深呼吸をして寝返りを打つ。 天井を見詰めて、目覚まし時計の音がだんだん遠くなっていくのを感じた。 あいつが、俺をその腕の中に抱きながら耳元で呼ぶ名前・・・・・・ 俺の知らない名前・・・・・・・・・ 俺が知らないだけ? でも、俺達いつも一緒にいる・・・・・・いや、四六時中べったりじゃないな。 俺は第七部隊で、あいつは第五部隊に所属しているわけで・・・・・・・ 廊下をパタパタ走ってる音が聞こえる。 「・・・・・・起きなきゃ、なぁ」 分かってるよ。 目覚まし時計だってまだ鳴り続けてる。 起きなきゃいけないのは分かってるんだけど、身体が重くって。 ヤバいなぁ、このままだと二度寝しちゃいそうで・・・・・・そうしたら遅刻しちまう。 「葛西!いつまで寝てんだぁ?」 誰かが扉を叩いた。 「当麻!目覚まし鳴ってんぞぉ!」 また別の誰か。 「葛西先輩!死んでるんじゃないでしょうねぇ!」 別の・・・・・・生きてるよ。 「当麻!朝飯、お前の分まで食っちまうぞぉ!」 何、そりゃマズイ。 ガバッと布団を蹴り上げて飛び起きる。 くしゃくしゃと髪を掻き乱し、なぜか床で鳴っていた目覚まし時計を拾い上げて音を止めて・・・・・・漸く身支度を始めた。

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