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第31話 【 小田切誠志郎×葛西当麻 】

【 小田切誠志郎×葛西当麻 】 当麻side 朝が来た。 なんて清々しい朝なんだろう。 こんな朝を迎えられるなんて久しぶりだ。 目覚ましなんてまだ鳴ってもいない。 「はぁ」 いや、ただ寝てないだけなんだけど。 正確には眠れなかったんだけど。 誠志郎の身体の具合が気になって気になって、ずっと寝返りばっか繰り返して。 携帯端末も鳴らない。 こんなに気になるんだったら、こっちから連絡して聞けばいいんだけど・・・・・・ でも、そこまでしてもいいのかなって考えちゃって。 だから、全然清々しくない。 太陽が昇ったから、朝練に行く連中が動き出してる。 俺も今朝は訓練場に顔を出さなきゃなぁ・・・・・・でも、こんなんじゃ無駄な怪我しちゃいそう。 今日は誠志郎に会えるかなぁ? 「よっと」 勢いよく身体を起こして、ベッドから降りる。 シャワーを浴びに行く前に携帯端末を確認したけど、誠志郎からの着信はなかった。 「俺には言うまでもないって事か?」 なんだろう、ちょこっと胸がチクッとした。 そのままシャワーを浴びて、濡れたままの髪の上にタオルを被って、再び携帯端末を取った。 さっきと何の変化もない画面。 あぁ、なんか段々ムカついてきた。 「・・・・・・もういい」 もう知らない、あんな奴。 ポイッと携帯端末をベッドの上に投げて、朝食を取るべく食堂へ向かった。 でも一応・・・・・・・登校して最初に第五部隊の奴を捕まえて誠志郎の情報を仕入れておく。 「え?小田切?昨日の放課後、実家から迎えが来てたみたいだぜ?」 小田切家から? 「ほら、あの、しの・・・・・・しのぉ・・・・・・」 「篠崎さん?」 小田切家に代々使えているβの執事さんが直々に誠志郎を迎えに来た? 「そう、インテリ眼鏡の篠崎さん!」 「私ですか?」 え? 突然割り込んできた第三者の声に会話が途切れる。 いつの間にか俺の背後に小田切家の執事、篠崎さんが涼しい顔をして立っていた。 かっちり固められた白髪をすっと撫で、切れ長の目を細めた。 「おはようございます、当麻様」 この人、なんで俺にまで『様』付けるんだろう? 昔っからだけど。 βの人間が、Ωごときに『様』など不本意ですと顔に書いてありますけど? 嫌なら『様』なんか付けなきゃいいのに。 そんな敬称つけなくたって、ココには咎める人間はいないんだから。 誠志郎の番が俺っていうことに、一番納得していないのもこの人だよな? 誠志郎には、俺なんかよりもっと相応しい番がいるって・・・・・・・・・ 「おはようございます、篠崎さん。あの、どうかされたんですか?」 そんな篠崎さんが俺の目の前に来たってことは・・・・・・まさか、誠志郎に何かあったんじゃ? 「はい。当麻様をお迎えに上がりました」 え?俺を迎えに? 「あぁ、申し訳ございません。言葉足らずでございました」 ぜんぜん申し訳ないって顔してませんが? 「誠志郎様が当麻様をお連れするようにと」 ですので、とか言いながら俺の手元から、持ってきた鞄が篠崎さんに取り上げて・・・・・・ 俺に拒否権はないらしい。 「さぁ、当麻様。詳しい話は車の中で」 今の状況がちゃんと整理できないまま、俺は篠崎さんに腕を取られて、急かされるままに小田切家の車へ誘導された。 あれ? 俺、今日学校どうすんの? サボり? いやいや、無断欠席はまずいよな? でも、連絡取ろうにも、俺の携帯端末、篠崎さんが持ってる鞄の中だし。 「当麻様?」 車に乗り込んでから一言も発しなかった俺のことを気遣ったのか、篠崎さんが顔を覗き込んできた。 いや、気遣うなんてこと、俺に対してするわけないな。 「あ、すいません・・・・・・あの、それで誠志郎、様、は・・・・・・なんて?」 誠志郎の事を、この人の前で呼び捨てにすることは出来ない。 怖いんだよなぁ・・・・・・眼鏡の奥の瞳がキランッて光って。 貴様如きが誠志郎様を呼び捨てなどと、って睨まれる。 あれ? 篠崎さん、ちょっと言い難そうだけど? この人のこんな顔、初めて見るな。 「当麻様、これからお話しする事について、呆れないでくださいね」 溜息までついちゃって・・・・・・ってか、呆れる? 何に対して? 「昨日、誠志郎様が怪我をなさいました」 「怪我を?」 保健室から出てきたって、それは、その怪我の治療のため? でも、自分で歩いて出てきたんだろ? そんなに酷くはないんでしょ? 「はい・・・・・・当麻様のお部屋からお帰りになるとき、窓から飛び降りて着地に失敗、右足首を捻挫。更にそのまま朝練を行い、悪化。歩くのも覚束なくなるほど腫れ上がった足のせいで、最終的に階段から落ちて肋骨2本にもヒビが入りまして」 えっと、俺は何て言えばいいんだろう? 「足の腫れは誠志郎様のガッツ根性で引いたようですが」 ははっ、さすが人間離れしてる誠志郎。 「主治医としては、せめて今日1日くらいでも大人しく寝ていてほしいということなんですが、誠志郎様が登校すると仰られて」 はて? 今日って何かあったっけ? 特別なテストや授業はなかったと思うけど。 「当麻様不足ということで」 篠崎さん、今さらっと変なこと言いませんでした? 「・・・・・・降ろしてください」 車は間もなく小田切家に到着する。 その前にここから逃げ出したい。 「当麻様、今日1日、誠志郎様のお相手、よろしくお願いします」

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