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第32話 【 小田切誠志郎×葛西当麻 】
【 小田切誠志郎×葛西当麻 】
当麻side
よろしくお願いしますって、言われても・・・・・・
校門から小田切家に連れてこられた俺は、メイドさん達との挨拶もそこそこに、誠志郎の部屋へと引っ張って行かれた。
外観は和風なのに、建物の中は洋風という・・・・・・・この、ちぐはぐな感じ、未だに慣れない。
カコンッと獅子脅しが響く廊下には、高そうな絵画や大きな壺が並び、窓の外には色とりどりの鯉が泳ぐ池。
篠崎さんが扉を軽くノックする。
「誠志郎様、当麻様をお連れしました」
あれ?中から人の話し声が聞こえてくる・・・・・・
誠志郎と、もう1つは・・・・・・男の声のようだけど?
「失礼いたします」
篠崎さんが扉を開ける。
俺は篠崎さんに続いて、幼い頃から何度も入ったことがある誠志郎の部屋に足を踏み入れた。
「当麻っ!」
え?
俺を見て、パッと表情を輝かせた同い年くらいの・・・・・・誰?
誠志郎とすっごく仲良さそうにしゃべってたの、お前だよな?
いや、誠志郎の声はあまり聞こえて無かったから、一方的にお前がしゃべってたんだよな?
ってか、今俺の名前呼んだ?
「久しぶりだな!お前もちっとも変ってない!」
それまで座っていた椅子から立ち上がり、こちらに向かってくる。
久しぶり?
初めまして、じゃないのか?
数歩下がって伸びた手から逃れる。
「・・・・・・えっと?」
助けを求めるように視線を走らせた先、誠志郎はベッドの上で、ふかふか枕を背に上体を起こしている。
落ち着いてないで助けろ!
誰なんだよ、こいつはっ!
「陽人だ」
え?
誠志郎が教えてくれた名前。
「当麻っ!」
いきなり抱きつかれて思考停止・・・・・・寸前。
指先まで力が入って・・・・・・一瞬息も止めちゃった。
いきなり飛びつくって、俺じゃなくても、びっくりすると思うんだけど?
「・・・・・・・・・はる、と?」
初めて聞く名前・・・・・・のはず、だ。
「あぁっ!まさか当麻っ、俺のこと忘れてるのかっ!」
え?俺も知ってる奴なのか?
よく日に焼けた肌で、いかにも健康優良児って感じだけど、俺、こんなの知り合いにいないと思うんだけど?
それに、こいつ、さっきから俺の事呼び捨て!
「桜塚陽人だよっ!小っちゃい頃一緒だったし、前世で俺達一緒に戦ってたろ!」
さくら、づか?
前世で一緒に戦ったって?
じゃぁ、こいつも『牙』の人間?
さくらづか・・・・・・はる、と?
えっと、思い出せないんだけど?
前世って言ったら、俺、誠志郎以外との記憶はほとんどないんだよなぁ・・・・・・
そもそも、誠志郎との記憶だって曖昧なんだ。
俺の中の前世の記憶って・・・・・・ぼんやりと霞が掛かっていて。
無理に思い出そうとすると、めちゃくちゃ頭が痛くなる。
まるで思い出してはいけないって言うように。
誠志郎はそんな俺の事を思ってか、早く思い出せなんて急かしたりしなくて・・・・・・
自然に、そのうち思い出すだろうって待っててくれてる。
俺は、そんな誠志郎に甘えて・・・・・・
今まで前世の事を、それほど気にしてこなかったんだけど。
これは、あまり外部の人間には知られていない事実。
国王直属特殊部隊『牙』のメンバーは、前世で繋がっている人間が多い。
どうやって探しているのか、そういう人間を国王が自ら集めていると聞いたこともあるけど・・・・・・
この桜塚陽人が、俺と前世で繋がっている?
「お前、頭良いくせに俺の事忘れるってどうなの?」
「ちょっ!」
ガバッと引っ張り寄せられて、ぎゅうって首を脇に抱えられて・・・・・・ちょっと、マジで少し苦しいんだけど?
「思い出せ!当麻っ!俺のことを思い出すんだぁっ!」
締まってるからっ!腕外せっ!
バシバシと俺の首を締めてる腕を叩いて抵抗してるのに、一向に緩められない。
あぁ、だんだん気が遠くなって・・・・・・
「陽人、そのくらいにしてやってくれ」
漸く誠志郎が止めてくれた。
いや、ってか、もっと早めに止めてくれよ。
もっと早くに止められたよな?
なぜ止めなかった?
誠志郎!
「けほっ、お前、加減を知らんのか」
「あ、ごめん、当麻」
漸く解放されて、荒い呼吸を繰り返す俺の背中を優しく撫でくれるのはいいが、元はと言えば・・・・・・お前のせいで。
何回か咳き込んでいたら、篠崎さんが冷たい水の入ったコップを差し出してくれた。
それを一口飲んで、ホッと一息・・・・・・
「で、当麻!俺の事思い出したか?」
こいつ、しつこい。
思わずジト目で睨みつけたんだけど、こいつはニコニコ笑顔を張り付けたまま、あろうことか、床に座り込んでいた俺をひょいっと、軽々抱き上げて・・・・・・
「ぬあっ!」
お姫様抱っこなんて、誠志郎以外に初めてされてしまった。
俺と大して体格変わらないのに、馬鹿力め!
「当麻、お前相変わらず軽いな。ちゃんと食べてるのか?」
反射的に、こいつの首元にぎゅっと抱きついちゃって。
「たっ、食べてるっ!おっ、落ちるっ!」
食べてるから降ろせっ!
落ちるっ!
落ちるからっ!
危ないってばぁっ!
「はははっ、俺が当麻を落とすわけないだろ?」
だからって!
お姫様抱っこしたまんま、くるくる回るなっ!
気持ち悪いっ!
吐くっ!
吐くぞぉっ!
「やめ・・・・・・ストッ・・・・・せっ、せいし・・・・・・ろっ」
助けを求めて誠志郎がいる方向を探して・・・・・・
あぁ、世界が回る・・・・・・
何処だよ、誠志郎?
くらくらする・・・・・・・・あ、いた。
「せい」
誠志郎を見付けて、手を伸ばして・・・・・・その視線を直に受けて我に返る。
気持ち悪いのも一瞬で吹っ飛んだ。
誠志郎の表情がない・・・・・・
めちゃくちゃ無表情で俺達を見てる・・・・・・なんで?
「お前達、怪我人の前で、いつまではしゃいでいるつもりなんだ?」
はしゃぐって、誠志郎?
俺、思いっきり振り回されてたんだけど?
こいつと一緒になって楽しんでたと思ったのか?
誠志郎は、こいつに俺が好きにされても何も感じなかった?
俺の事なんてどうでもよかった?
「はぁいはいはい!仲間外れにして悪かったな、誠志郎」
最終的に俺は誠志郎のいるベッドの上に降ろされた。
吐きそうだ。
こいつに、グルグル回された結果じゃなくて、誠志郎の視線がキツくて・・・・・・
あんな冷めた目を向けられたことなんて今までなかった。
「当麻に会えたのが嬉しくって、つい」
本当に悪いとは思っていない軽い口調で、こいつは元座っていた椅子に腰掛けた。
俺はベッドの端に座ったまま、動けなくて・・・・・・・
「ごめんな、当麻・・・・・・顔色悪いな」
伸びてきた手を、避けようとして・・・・・・俺の髪に指先が触れた。
俺も・・・・・・覚えてなくて、ごめんって謝った方がいいのか?
「まだ俺の事思い出してないって顔してるなぁ・・・・・・俺、そんなに存在感なかったかなぁ」
こいつ、今少しだけ淋しそうな顔をしたけど。
「落ち込むな、陽人」
あ、誠志郎が他人のフォローなんて・・・・・・俺よりも、コイツの事を気遣って?
番の俺じゃなくって?
「当麻って昔っから誠志郎一筋だったもんなぁ・・・・・・」
え?
は?おまっ、今なんて?
「俺が一生懸命当麻の気を引こうって頑張ってたのに、お前ずっと誠志郎の事ばっか追いかけてさぁ」
俺達は・・・・・・ただの・・・・・・ただの、何だ?
俺の想いは一方通行だけど、誠志郎は俺を抱いてくれる。
俺達は番だ。
でも俺は誠志郎に告白はしていないし、誠志郎が俺に好きだって言ってくれたこともない。
ただあの日突然ヒート状態に陥った俺を見付けて・・・・・・
Ωのフェロモンに惑わされて、誠志郎が俺を求めてくれて・・・・・・
誠志郎は、すっごく優しくて・・・・・・暖かくて・・・・・・ほんと、嬉しかったんだ。
でも、そんなある日、誠志郎が俺の耳元で呼んだんだ。
『・・・・・・○○○』
それは、すごく小さな声だったけれど、熱を含んだ吐息と共に・・・・・・
俺の知らない名前だった。
俺じゃない名前だった。
その瞬間、一気に熱が冷めた。
誠志郎が求めているのは俺じゃない。
俺はその日から、誠志郎に縋ろうとする手を必死に抑え込んでいる。
俺は誠志郎が好きだけど、俺の想いは誠志郎の邪魔になる。
誠志郎に噛まれて、番にしてくれて嬉しかったけど、誠志郎は後悔してるんじゃないか?
「なんだ、ヤキモチか、陽人?」
背後から誠志郎に抱きしめられて我に返る。
「むぅっ」
ひょっとして、こいつの事なのかもしれない。
誠志郎が呼んだ名前は、こいつの前世の名前かもしれない。
小さくて、はっきり聞き取れたわけじゃないけど・・・・・あれは、俺を呼んだんじゃない。
目の前に誠志郎の想い人かもしれない奴がいるんだ、しっかりしなきゃ。
でも、こいつが、もし誠志郎の想い人だとして・・・・・・
俺はどうしたらいいんだろう?
「誠志郎、離せ」
その腕を外してベッドから立ち上がる。
むっと唇を突き出して椅子をガタガタ揺らしている奴と、そいつにヤキモチを焼かれて満更でもない誠志郎。
そんな2人の間にいるのって・・・・・・居心地が悪い。
だいたい、こいつと折角2人っきりになれるってのに、誠志郎はどうして俺を呼んだんだ?
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