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第33話 【 小田切誠志郎×葛西当麻 】

【 小田切誠志郎×葛西当麻 】 当麻side 「お待たせしました、朝食の用意が整いましたので、これよりお部屋に」 ノックと共に篠崎さんが扉を開き、数名のメイドさんが部屋へ雪崩れ込んできた。 その中に見知ったコック長さんもいて・・・・・・俺を見付けてニッコリ笑ってくれた。 「おはようございます、当麻くん」 この人の笑顔を見たら、少しだけホッと息が吐けた。 「おはようございます・・・・・・修平さん」 俺達が小さい頃、時々遊んでくれたことがあるコック長さん。 昔っから、頼れる兄貴って感じで・・・・・・ 「あ、修兄!久しぶりぃっ!」 え?こいつ、修平さんのことも知ってるのか? 「お帰り、陽人」 ってことは、マジで俺が忘れてるだけ・・・・・・なのか? あれ?今、お帰りって? 今、修平さんのこと兄って言った? 修平さんの名字って確か・・・・・・ 「あ、桜塚だ」 思わず声に出していた。 きょとんっと目を丸くした修平さんが、クスッと笑う。 「ごめんね、当麻くん。愚弟が騒がしくして」 本当に修平さんの弟なのか? 「あ、いえ・・・・・・修平さんに弟さんがいたなんて知らなくて、その、ビックリしました」 あれ?俺、何か変なこと言ったんだろうか? 修平さん以外にも、俺の事不思議そうに見てるメイドさんがいるけど? 「だぁかぁらぁっ!当麻っ!俺、昔当麻に会ったことあるんだってばっ!誠志郎と3人でよく遊んでたんだぞっ!」 待て待て、いくらなんでもお前みたいな強烈な奴、忘れるわけないんだから。 みんなで俺のことをからかってるのか? 「まぁ、しょうがないかもしれないね」 修平さんが苦笑してる。 「陽人は当麻くんのことイジメてばっかいたから、そんな嫌な記憶は忘れちゃったんだよ」 「ちっ!違うぞ、当麻っ!あれは、ほら、好きな子ほど苛めちゃうっていう心理で!俺は昔っからお前の事が大好きなんだぞっ!」 何焦ってんだよ・・・・・・好きな子って? 俺の事を? 「当麻が泣いちゃった後、いつも仲直りのキスしてやってたろっ!」 ドサクサにまぎれて今何て言った? 誠志郎の前で! 「当麻だって喜んでたじゃんっ!」 シンと静まり返ってる。 メイドさん達、手が止まってるよ? 修平さんもぽかんっと口大きく開けたまま固まってないでよ? 篠崎さんは・・・・・・いつの間にいなくなったの? せ、誠志郎は・・・・・・いつもと変わらず? いや、また感情がなくなった? 黙ってこっちを見てる。 怒ってるのか? 俺が・・・・・・こいつとキスしたらしいって事。 でも、俺覚えてないんだから言い訳のしようがないんだけど。 そっそれにっ、小さい頃の話だって言うんだし、不可抗力だろ? 「当麻、俺がキスするの、めちゃくちゃ好きだったろ?」 あぁでも・・・・・・謝った方がいいのか? だって、誠志郎の好きな奴かもしれない奴と俺なんかが、キスしてたかもしれないんだもんな。 そんな記憶はないけど。 「せ、せいっ、しろ・・・・・・ぉ、あの、ごめっ」 「とりあえず、先に朝食済ませちゃってくれるかな?」 我に返った修平さんの手が俺の手首を捕まえた。 「ごめんね、当麻くん」 いえ、修平さんに謝られることではないんで・・・・・・ 「明日から学校でも迷惑掛けちゃうだろうけど、よろしく頼むね?」 え?学校? 「あ、そうだっ!俺、明日っから当麻達と同じ学校に通うんだよ」 「うわっ」 また後ろから抱きついてきて、腰にがっちり腕を回された。 今度は抱き上げられて回されることはなかったけど・・・・・・ 「高校くらいは卒業しなさいって修兄がうるさく言うからさぁ、仕方なくって思ったんだけど、当麻がいるんなら喜んで通う!」 うちに編入してくるって? 「こいつ、高校に入って2ヶ月で辞めて、父さんと一緒にアメリカに行ってたから」 ベッドの上にいる誠志郎の元へ朝食を運びながら、修平さんが補足してくれる。 「俺の父さんカメラマンだってことも忘れてる?」 お前の存在に関係しているもの全てを忘れてるみたいだ。 あ、でも修平さんは覚えてる。 優しくて、頼れる兄貴分。 「じゃぁ」 え?いきなり真顔になって? 俺の手首を掴んで、扉に向かって引っ張っていく。 「朝飯、ちょっと待っててな!当麻、ちょっと来て」 「ちょっ」 そのまま俺を引っ張って誠志郎の部屋を飛び出した。 「おい、ちょっと」 何処連れてくんだよ? 太陽の光が燦々と降り注ぐ廊下を、ずんずん引っ張って行かれて・・・・・・ 「俺が当麻に番になってくれって告白したことも忘れちゃってるんだよな?」 誠志郎の部屋から結構離れたなって思ってたら、いきなり足を止めて・・・・・・俺、壁ドンなんて初めてされた。 「こく、は・・・・・・っ?」 俺の聞き間違いかと聞き直そうとして、頭の中が真っ白になった。 番に? そんなの、知らない・・・・・・だって、俺、お前のことだって・・・・・・ 「当麻・・・・・・逃げないで」 両肩を壁に押し付けられて、目の前には桜塚陽人・・・・・・ チュッと音を立てて顔が離れていく。 触れ合った唇は、柔らかくて・・・・・・ 俺、それが嫌じゃなかった。 「離れてた分ハンデがあるなってのは覚悟してたけど、忘れられてたのは正直キツイよ」 その言葉に嘘偽りはなさそうな傷ついた表情。 いや待て・・・・・・だからって、どうして今俺にキスなんてしたんだ? 「好きだよ、当麻」 耳元でそう囁かれて、ぎゅっと抱き締められる。 「俺、ずっと当麻の事忘れられなかったんだ」 待てよ・・・・・・だって、お前のこと、俺は知らない。 それに、誠志郎がお前のこと好きかもしれないんだぞ? それに、俺は誠志郎の番で・・・・・・でも、誠志郎はお前の事が・・・・・・・・? 待って・・・・・・待て待て、誠志郎はαで、お前もαで? α同士は番にはなれない・・・・・・ 待って。 分からないよ・・・・・・俺、どうしたらいいんだ? 俺は誠志郎が好きで、誠志郎はこいつが好きかもしれなくって、こいつは俺の事が好き? え?まさかの三角関係っていうやつなのか? 朝からハード過ぎて、俺の脳内回路はパンク寸前。 あれから何事もなかったかのように俺達は誠志郎の部屋に戻って、普通に朝食を済ませた。 いや、普通じゃない・・・・・・か。 誠志郎は一言もしゃべらなかった・・・・・・対して、桜塚陽人はずっとしゃべりっぱなし。 俺に自分のことを知ってもらうっていうか、思い出してもらおうと必死だった。 俺はどうしてこんな強烈な奴の事を忘れてしまっているんだろう? 知らない仲じゃないのは分かった。 こいつは俺の好き嫌いも知っているし、俺の小さい頃のエピソード・・・・・・いや、恥ずかしい内容まで事細かく覚えている。 修平さんが持って来てくれたアルバムの中の俺達は、俺を挟んで3人で写っているモノがほとんどだ。 俺、自分が知らないうちに記憶喪失にでもなったんだろうか? 「人間というのは、どうでもいいことは忘れていく生物なのだ」 誠志郎が俺に言う。 「え?じゃぁ何?俺は当麻にとってどうでもいい存在だったってことなのかよっ!」 桜塚陽人が騒ぐ。 アルバムの中の3人を見ている限り、仲良さそうだよな? 変な話、この写真の中の俺、誠志郎とより桜塚陽人と2人で写っている方が楽しそうに見える。 何枚かアルバムを捲って手が止まる。 「・・・・・・これ」 しまった時に手を止めてしまった。 「何だ?」 いつの間にか、ベッドから降りてきていた誠志郎が、俺を背後から抱き締める形でアルバムを覗き込んだのだ。 「何々?」 誠志郎のベッド際の椅子に座っていたはずの桜塚陽人も、俺の肩にぴったり張り付いてアルバムを覗き込む。 3人の視線の先には、小さい俺と桜塚陽人が・・・・・・ビニールプールの中でキスしている、モノだった。 「あぁ、コレ!俺覚えてるぅ!」 俺は覚えてない。 「水が怖いって泣いた当麻を、俺が怖くないよって」 で、キス? チュッと桜塚陽人が俺の頬にキスをして・・・・・・固まった。 「なっ、何すんっ」 気のせいか、背後から抱き締めていた誠志郎の腕に少しだけ力が入った気がした。 「この後、私が陽人を突き飛ばして篠崎に怒られたんだ」 は? 「そうそう!坊ちゃま、ヤキモチを焼くのは構いませんが、暴力はいけませんってな」 はははって桜塚陽人は笑うけど、俺は笑えない。 どっちにヤキモチ焼いたんだ? キスされた俺? それとも、俺にキスをした桜塚陽人?

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