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第36話

当麻先輩を部屋に運び、俺は灰邑さんと一緒に地下の資料室を訪れていた。 カツン、カツン、と俺達の靴音だけが響いている。 びっしり立ち並ぶ本棚に、ぎっちぎちに本が詰め込まれていた。 種類は豊富で、難しそうな専門書から漫画、女性週刊誌までいろいろある。 「あった・・・・・・この絵本」 灰邑さんが手に取った絵本は、昔、母さんが読んでくれたものに似ている。 絵本の中で、黒き翼の女神が魔王のためにドラゴンへと姿を変えて戦っていた。 突然現れた勇者によって魔王は地底深くに封印され、それと同時に黒き翼の女神は史上から姿を消し、その後彼女の姿を見た者は誰もいない・・・・・・ 「噂では、魔王が封印された時、自ら翼を斬り落とし、海へ身を投げた・・・・・・・と」 翼を斬り落として海へ? 俺が知ってる話は、そこまで続いてない。 魔王は勇者に倒され、世界は平和になった、チャンチャンッて感じで終わってたと思う。 「勇者の傍らには、白き翼の民が寄り添っていた・・・・・・とも言われている」 黒い翼と白い翼・・・・・・魔王と勇者? 「僕らの前世は、このお伽噺の世界とも繋がりがあるんだよ」 も? 「前世で過ごしていた世界も時代もバラバラなのに、でも何処の世界にも黒き翼の一族と白き翼の一族が存在している」 灰邑さんと向かい合って席に座る。 「そして、僕の背中にも翼がある」 はい? 灰邑さんはニッコリ笑う。 対して俺は笑えない。 灰邑さんの背中にも翼があるって、どういうこと? どうして今ココで、プチプチとシャツのボタンを外してるんですか? 綺麗な肌・・・・・・しっかりと、無駄のない筋肉もついてて・・・・・・ 立ち上がって、くるっと背中を・・・・・・・ 「・・・・・・・・・背中に・・・・・翼が・・・・・・ある」 俺に向かって見せてくれた灰邑さんの背中一面に、俺と同じような翼がある。 赤黒く光って・・・・・・る、ようにも見えて・・・・・・・・ 俺と同じ・・・・・・・ん? あ、首の後ろにキスマーク? 灰邑さんは気付いてないのかな? え?当麻先輩に続いて灰邑さんも俺に惚気話をし出すつもりとか? 机に腰掛けて、ズイッと身を乗り出してきた。 「鷹宮くん?」 「は、はははっはい!」 あ、声裏返った。 「僕達、仲間だね」 なか、ま? 「今は鷹宮くんに前世の記憶がなくても、君の中に眠ってるだけだから、何かのキッカケでパァッと思い出すかもしれないよ?」 随分適当じゃないですか? 「まぁ、分からないけどねぇ。あははははっ」 ははっ、はははっ・・・・・・・笑えませんが? 「僕が前世を思い出したキッカケもアイツが・・・・・・・・」 あいつ? どうして止まったんです? 続きは? 何かマズイことでも思い出しました? いえ、なんとなく察しました。 「アイツが・・・・・・」 あいつって言うのは、灰邑さんの番の方なんでしょ? で、その方に何かされたわけですね? それが気に入らないんですね? 相手を憎々しげに想っているのか、握った拳がワナワナと震えるくらい怒ってるんですね? そんな相手の方から首の後ろに残されてるキスマーク、気付いてますか? そろそろシャツをちゃんと着直してください。 目のやり場に困ります。 「鷹宮くん、どうして目を逸らすんだい?」 灰邑さんの指が俺の顎をクイッと上げた。 「あ、あの、シャツをちゃんと着てください」 「ん?お子様には目の毒だった?」 それもありますが・・・・・・あれ? 灰邑さんの背中に翼が浮かび上がってるってことは・・・・・・? 俺の場合、体温が上がると浮かび上がってくるわけで? まさか? 灰邑さんも俺と同じなのなら・・・・・・熱がある? つまり? 「灰邑さん、どこか具合悪いとか、ありません?」 ニッコリ笑ってますけど、よく見たら頬が薄らと赤くて・・・・・・その目も少し潤んでませんか? 「ん。だから、今日、こんな時間に寮にいるんだけど?」 「あの、お部屋でお休みになられた方がいいんじゃないですか?」 どうして、きょとんと目を丸くして不思議そうな顔で首を傾げるんですか? 俺、変な事言ってないと思いますよ? 「僕が部屋に籠っちゃったら、誰が鷹宮くんの相手をするの?」 そうかもしれませんが、体調が悪い人をあちこち連れ回すのも悪いと思うので。 この建物の中、結構広いっぽいので下手に歩き回ったら迷子になるだろうな。 どうして当麻先輩に酒を仕込んだんですか。 当麻先輩が寝ちゃわなければ・・・・・・ 「もう少ししたら誰か帰ってくるだろうから、それまでは僕が相手してあげるよ」 「無理してませんか?」 そっと灰邑さんの頬に手を当ててみる。 やっぱり熱い。 「鷹宮くんの手が冷たくて気持ちいい」 「普通ですよ・・・・・俺の手を冷たく感じるくらい、灰邑さんに熱があるんです」 ふふって灰邑さんが笑う。 「鷹宮くんは優しいね」 普通だと思いますけど? 頬に当てた俺の手に灰邑さんが手を重ねてきたから、離せなくて・・・・・・ 目を閉じて、俺の手に頬を摺り寄せて・・・・・・ 「アイツとは大違いだ・・・・・・」 俺を灰邑さんの番のαの人と比べないでください。

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