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第39話

迷子って? 誰が? え? お前もって? も? 俺も? 「俺と同じで、お前も方向音痴だったりする?」 方向・・・・・・音痴? 「・・・・・・おい」 突然背後から第三者に声を掛けられ、更には肩にポンッて手を乗せられ、俺はドキュンッと飛び上がりたいのをなんとか堪えた。 気配はまったく感じなかった。 俺、油断しすぎだろ!! 「あ・・・・・・稀鷺」 「何やってんだ、お前ら」 お前らって・・・・・・俺達ワンセットにされた? 振り返ると、俺より少しだけ背の高いヤツがギロッと睨んできた。 っつうか、俺、こいつに睨まれるようなことしたっけ? 「二人で仲良く迷子とか言うなよ、正宗」 ま、迷子じゃないもんね! 偶然ここを通りかかって・・・・・・偶然、士貴正宗と御対面しただけだもんね! いきなりなんだか動揺だってするだろ? それって仕方ないことだと思いませんか? 「そんなこと言うけど、稀鷺!この広い庭で、どうやった迷子にならず目的地(教室)に辿り着けるのか教えてくれるか?」 迷子を否定しないのか? それって大きな声で、しかもそういう態度で言える台詞か? ほれ、この稀鷺の呆れた眼差し・・・・・・っつうか、それ、俺にも向けないでくれる? 「太陽見れば方角分かるだろ?」 溜息たっぷり吐き出しやがった・・・・・・ 「太陽に東西南北とでも書いてあるのか?俺には見えんぞ!」 ふんぞり返るなよ・・・・・・それに、俺にもそんな字は見えねぇよ。 ひょっとしてアレか? 心の清い人間にしか見えませんっていう・・・・・・俺の心は汚れているとでも? 黄馬も同じこと言ったけど、アレはそういう意味だったのか! 「だから俺から離れるなって言ったろ・・・・・・ったく、勝手に動き回りやがって。探す方の身にもなれってんだ」 おりゃっと士貴正宗の頭を抱えて、髪をくしゃくしゃに掻き回す。 「やめろっつうに!」 「天城」 へ? 「お前も、ぼーっと突っ立ってないで行くぞ?もうとっくに予鈴鳴ったんだし」 「あ、あぁ」 あれ? 俺、名前名乗ったっけ? 置いていかれないように二人の後をついて行く。 それにしても、仲良さそうだな、この二人・・・・・・ひょっとして番だったりする? 俺のことなんか眼中にないって感じで、楽しそう・・・・・・ 「・・・・・・い・・・・・・・・・・・・おいって!」 バシッ!! 目の前に稀鷺のドアップと、両頬に痛み・・・・・・お前、人の顔挟んで何してやがる!! 「なっ、なんだよ!」 俺は慌てて稀鷺の両手を払い落とした。 「お前、考え事しながら歩いてんなよ。ほら着いたぞ、教室」 え? いつの間に・・・・・・ 「目開けて寝ながら歩けるなんて、すごい特技だな」 士貴正宗、それは褒めているのか? ここ、一年D組・・・・・・士貴正宗と同じクラス、稀鷺も一緒なのか・・・・・・三人とも出席番号も近いから席も近い。 それにしても俺達以外教室に誰も・・・・・・いない、なんて? どういうことだ? 「カバン置いたらすぐに体育館行くぞ」 なんで? きょとんと見上げた俺に、稀鷺だけでなく、士貴正宗にまで盛大な溜息をつかれてしまった。 「お前、今日何しに学校来たんだ?」 何しにって・・・・・・? 「始業式だろ?」 答えをくれた士貴正宗。 「あ」 思い出した俺は真っ赤になって教室を飛び出した。 いやいや、俺の馬鹿! ここぞとばかりに友達になってもらえば、いろいろ聞けたかもしれないのに! 特別コースのこととか、『牙』のこととか! 改めてこっちから話しかけるのって、どんなキッカケがいる? どうやって話しかける? 失敗したぁ! 慌てて教室に引き返したが、そこには既に二人の姿はなかった。 こっそりと体育館に忍び込み、校長先生のありがたく長いお言葉の最中に稀鷺の後ろ、士貴正宗の前に立った。 「俺達より先に出てったのに、どうして俺達より後から来るんだ?」 ごもっともな質問ですよ、士貴正宗くん。 「お前、俺より方向音痴なんじゃん?」 嬉しそうに言うな・・・・・・断じて違うから。 心の中だけで訂正して、俺は曖昧な笑みを浮かべただけ。 「後で俺の予備の方位磁石やろうか?」 予備? いらないから・・・・・・っつうか、後ろからそんなにベッタリくっつかないでくれ・・・・・・ 俺、触られるの苦手なんだよ・・・・・・自分から触るのだって恐る恐る・・・・・・それでも結構勇気いるんだぞ! メチャクチャ変なところに力が入ってるのが分かる・・・・・・今晩筋肉痛になるか? 「・・・・・・うっ・・・・・・」 か、肩に顎を乗せるな! 「なぁ、天城・・・・・・お前耳真っ赤だぞ?」 そして耳元で喋るな! だからって手荒なことは出来ないし・・・・・・ いかん・・・・・・俺、今涙目になってる・・・・・・こんなことぐらいで情けない・・・・・・ だからって振り向けないし・・・・・・今稀鷺に振り向かれたりしたら・・・・・・ 「天城?」 振り向くなってばっ! 俺は咄嗟に顔を隠してしゃがみ込んだ。 「え?」 「おい?」 周囲の生徒達が俺のせいで騒がしくなった。 俺が倒れたと思ったみたいで、担任らしき教師が駆け寄ってきて・・・・・・俺は列から連れ出されてしまった。 誰よりも早く教室に戻った俺は、自分の机に突っ伏した。 失敗だらけだ。 ダメだ・・・・・・これじゃぁ、ダメだろ? 何人もの足音が近づいてくる。 「天城、大丈夫か?」 最初に教室へ飛び込んできたのは士貴正宗だった。 「あ、ごめん・・・・・・心配掛けたみたいで・・・・・・でも、もう平気だから」 本当に気分が悪くなったわけじゃないし・・・・・・ってか、稀鷺、お前はちっとも俺のこと心配してなさそうだけど? 溜息つきながら近づいて来るなよ! 「急に倒れ込んだから、びっくりしたぞ?」 あれ? 本当は心配してたりする? くしゃっと髪に指を入れられたけど・・・・・・なんか平気っぽい? いつもなら知らないヤツに触られた瞬間、ゾクッと悪寒が走ったりするんだけど・・・・・・ 俺の事を心配してくれてるからか? 「ごめん・・・・・・もう、大丈夫だから」 二人の席は、さっき体育館で並んでいたように、俺の前に稀鷺、そして、背後に士貴正宗という順で座った。 教壇に立った担任が、自己紹介を始めた。 どうでもいいが、彼女の名前は北斗スミレと言うらしい。 スタイルはいい・・・・・・俗に言う、ぼんっ、きゅっ、ぼんってやつ・・・・・・表現古い? 高校生相手に頬を赤らめて、独身だとか言うなよ、先生・・・・・・黒板に『の』の字なんて書いてんなよ。 「?!」 何睨まれてんだ、俺・・・・・・考えてること分かったのか? 白雪有栖リーダーみたいに? 一瞬・・・・・・ほんの一瞬だったけど、ものすごい殺気を向けられた。 見てみろ、鳥肌が・・・・・・ ツン・・・・・・ 「うっ」 ひゃぁぁぁ!!! 両手で口元を押さえ、叫び声を飲み込んで振り返ると、ニッコリと士貴正宗が笑っていた。 「お前、今何考えてた?」 「予告もなく、いきなり人の背中を突付くなよ!っつうか、何も考えてないし!」 小声で言い返して前を向く。 また、いつ突付かれるかと思うと・・・・・・気が気でない!! 「感度は良好みたいだな」 ボソッと呟いた士貴正宗の言葉は俺のことを指してたのか? 感度って? チラッと背後を盗み見る。 士貴正宗と目が合った。 なんだよ、何見てんだ? 何笑ってんだよ! 俺のこと・・・・・・からかって楽しんでるのか? 超ド級の方向音痴のくせに!

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