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第41話
旧館はまるで・・・・・・オバケのお城・・・・・・
バックは暗闇、時々稲光があって浮かび上がる・・・・・・
なんてのがお似合いな・・・・・・不気味な色の蔦植物に覆われた城・・・・・・
かといって、いつまでも入り口で突っ立ってるわけにもいかんし・・・・・・
でも、この古い鍵を鍵穴に挿す覚悟が・・・・・・
ガサッツと背後で草が揺れて、俺は思わず握り締めていた鍵に、更に力を込めてしまった。
バキッて音がしたけど・・・・・・まぁ、今は気にしないでおこう。
鍵を握り締めていた手をそっと開く。
壊れていないようで、ホッと一安心。
鍵はなんの抵抗もなく、カチャリと開いた。
外観とは違い、綺麗な壁紙に、ピッカピカに磨き上げられた床・・・・・・
「こんにちわぁ?」
俺の声が響くだけで、誰の返事もない。
おじゃましま~す、と小声で断って中に踏み込む。
人の気配が全くない。
カツン、カツンッと俺の靴音だけが響いている。
何かあるのかな?
ドッキリ?
心臓の鼓動がバクバク言い出した・・・・・・静かすぎて耳鳴りもする気がする。
廊下は一度も曲がらず、真っ直ぐ歩いて突き当たり、食堂らしき部屋の入口で立ち尽くす。
「誰もいない」
ふぅっと息を吐いて、食堂に足を踏み入れた。
「!!」
瞬間、ゾクッと背中に悪寒が走って、その場に硬直する。
全身の毛が逆立って、額にじっとりと嫌な汗が浮かんだ。
な、なんだ?
自分に圧し掛かっている空気が重い。
何処から流れてくるのか、頬を撫でていく風は生ぬるく、ツンとした刺激臭が混ざっていて、鼻を抓みながら口元を覆った。
ごくりと生唾を飲み込んで、ゆっくりと周囲を見回す。
「ん?」
何度か目を擦る。
何故か、視界がぐにゃぐにゃに歪んでいるのだ。
「なんなんだよ、いったい?」
手の込んだ悪戯というレベルで自分を納得させられない。
「誰かいませんか?いないの?お~い?」
厨房を覗き込んでも誰もいない。
テーブルの下や、自販機の陰にも、誰の姿もない。
その時。
「!!」
カサッと背後で音がして、ビクッと心臓が飛び跳ねた。
さっき誰もいないと確認したばかりの場所から聞こえた微かな音だ。
なん・・・・・・だ?
カサカサと音がだんだん近づいてくるが、恐怖で後ろを振り返る事が出来ない。
超でかいゴッキーとか?
そして、音が真後ろで止んだ。
「フシュゥ・・・・・・」
何日も放ったままの生ゴミを近づけられたような臭いのする息遣いと共にヌチャッと何かが肩を濡らし、腕を伝って床にボタッと落ちた。
えっと・・・・・・俺、どうしたらいいんだ?
ギュッと拳を握る。
「伏せて!!」
突然聞こえた声に従って俺は膝を折った。
その直後、ブンッと何かが頭上を掠め、それが何かを確認する前に腕を取られて走り出していた。
「え、ちょ、ちょっ?」
「口を閉じていないと舌を噛むよ」
「へっ、うあっとっ」
引っ張られるまま走った。
って、どうして白峰咲良が俺の手を引っ張ってるんだ?
ガシャーン!!
周囲で悲鳴が上がり、ハッと目を開けた。
「・・・・・・・・・あれ?ここって廊下?」
パチパチと何度か瞬きをして、自分が今置かれている状況を確認する。
今立っている場所は、自分の教室から数歩進んだ位置、間もなく階段に差し掛かるところ。
そして、先程の悲鳴は・・・・・・
「ガラスが割れたのか?」
外から飛んできた何かが窓ガラスを割り、廊下に欠片が散乱したが、幸い怪我をした者はいないようだ。
「誰だぁ!」
すぐさま近くにいた教師が窓に駆け寄って怒鳴り声を上げる。
・・・・・・危なかったな、俺。
怒鳴り続けている教師の周りに群がり始めた野次馬の生徒達を尻目に階段へと向かった。
「鷹宮くんっ!」
階段を下りようと一歩足を踏み出した俺を呼び止めたのは・・・・・・白峰咲良だった。
え?
でも、ちょっと待て?
今日は始業式で、新入生、編入生だけが登校してるんだよな?
第七部隊の人達だって、チーム毎に分かれて訓練や、任務に就いてるはず・・・・・・
だから、ココに白峰がいるのって、おかしくないか?
しかも、なぜか焦ってる?
隣に来るまで白峰を待って・・・・・・
「何か用か?」
「用?じゃない!どうしてココに鷹宮くんがいるの!」
どうしてって・・・・・・それはこっちの台詞。
帰ろうと思っていたのに、本来の目的とは違う階で足を止められてしまった。
白峰の手が伸びて来て・・・・・・
「うわっ!」
そのまま肩に担ぎ上げられた。
俺と体格があまり変わらないのに・・・・・
いや、ヘタしたら白峰の方が華奢だと思うのに、こうも軽々と持ち上げられてしまうなんて!
「おい、白峰!」
「大丈夫だから!大人しくしてて!」
その場にいた他の生徒達が、自分達にどんな目を向けているのか気付いているのか、いないのか。
「白峰っ!おいってばっ!降ろせって!白峰!」
高校生男子一人肩に担いでいるとは思えないスピードで、白峰は廊下を駆け抜ける。
俺は白峰に振り落とされないよう、彼の制服を必死に掴んでいたが、それほど荒い走りでもなく、壁や他の生徒にぶつかる事もなく白峰に運ばれて行った。
連れて来られたのは理科準備室。
なぜだか暗幕が締められていて、部屋の中は真っ暗だった。
漸く下ろしてもらえた俺は、すぐさま教室を出ようとしたのだが、入口を塞ぐように立った白峰のせいで失敗する。
パチッと音がして、部屋の中が明るくなった。
「とりあえず、ココから出ちゃダメだから」
ガチャリと鍵まで掛けられ、完全に退路を断たれる。
「白峰」
「ん?」
「ん?じゃない!説明してくれ!」
「こっちが聞きたいんだけど・・・・・・まぁ、座って。もうすぐ皆も来るから」
白峰が俺の手首を掴んで奥へと引っ張っていく。
「ちょっ、おい、白峰!」
白峰の手はしっかりと俺を捕まえていて離さない。
こんの馬鹿力!
指が外せない。
「今どんな状況か解ってないんでしょ?」
丸椅子に座らされて背後から肩を押さえつけられ、更に耳元で低い声がそう囁いた。
「・・・・・・わかっ、解ってないけどもぉ」
「でしょ?じゃぁ、大人しくしてね?」
白峰の表情は見えなかったけど、白峰は俺の返事に満足そうに頷いたようだ。
ぽんっと軽く俺の背中を叩いて離れ、備え付けの小さなガスコンロで湯を沸かし始める。
「皆が来るまでお茶淹れてあげるね」
俺の前に白峰が用意したティカップは五人分あった。
他にも人が来るのに・・・・・・お前、部屋の鍵閉めたままだぞ?
チラッと白峰に視線を向ける。
お湯が沸くまでの間、白峰が携帯端末を操作し始めた。
俺が向けた視線にも気付かず、白峰はしかめっ面で操作している。
白峰の眉間に刻まれる皺を見て、自分の眉間を揉み解す。
「白峰?」
何してるんだ、と声を掛けようとした時だった。
ガタン!!
理科準備室の扉が大きな音を立てた。
突然の事に驚き、扉に視線を向ける。
続けて、ドンドンと激しく鳴り始める。
誰かが廊下で扉を叩いているようだが、扉の小窓に人の影はない。
さすがに白峰は携帯を閉じ、扉に近づいて鍵に手を伸ばした。
「白峰?」
だが、白峰は鍵を外そうとしない。
「白峰、なんで開けないんだ?」
今にも扉が破壊されそうな勢いで叩かれ続けている。
丸椅子から腰を浮かせた瞬間、白峰の手が俺の動きを制止するかのように向けられた。
「鷹宮くんはソコから動かないように」
俺はそれ以上動く事が出来ず、再び丸椅子に座った。
ふいに、ぴたりと音が止む。
白峰が扉から一歩身を引いた。
なんなんだ?
ジッと扉を見詰めた。
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