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第50話
火爪さんの部屋、初めて入った。
ずっと火爪さんの手が腰に回ってて落ち着かないけど・・・・・・・
きょろきょろと部屋の中を見回して・・・・・・・
「座って・・・・・・何か飲むか?」
ふわふわなソファに下ろされて・・・・・・沈んだ。
や、柔らかすぎる。
あぁ・・・・・・・火爪さんの匂いだぁ・・・・・・なんか安心する。
カチャカチャと食器が音を立てて・・・・・・あ、俺何か手伝わないと!
「いいから座ってろ」
立とうとしてジタバタしてる俺に苦笑して、火爪さんが湯の湧いたケトルを取り上げた。
笑われてしまった、恥ずかしい・・・・・・・・・でも、まぁいっか。
ガラスの丸テーブルの上に二人分のカップを置いて、火爪さんは床に座った。
火爪さんが用意してくれた紅茶は、何語か解らないパックのものだった。
こくんっと一口。
俺、紅茶ってよく解らないけど・・・・・・・なんか、とろっとしてないか?
味も紅茶って言うよりはなんだろう・・・・・・・砂糖も入れてないのに随分甘くて・・・・・・・?
俺の疑問を感じ取ってくれたのか、火爪さんも同じことを感じたのか・・・・・・火爪さんはティーカップをソーサーの上に戻した。
「コレ最近、零にもらったんだけど・・・・・・・・」
れい・・・・・・・・って言うと、まさか灰邑さん?
なんだろう?ものすごく嫌な予感がするんだけど?
先程巨大なマグロを見事に捌いた灰邑さんの姿を思い浮かべる。
「天城・・・・・・折角淹れたんだけど、もう飲むの止めておけ」
そう、ですね・・・・・・折角火爪さんが淹れてくれたのに。
灰邑さんから貰ったって聞いたら、これ以上飲むのが怖くなりました。
なぜでしょうね。
火爪さんは二人分のカップを持ってミニキッチンへ紅茶を捨てに行った。
ガラスのコップにミネラルウォーターを注いでその場で一気に飲み干し、もう一度注いで二人分のコップを持って戻って来た。
「口直し」
「ありがとうございます」
差し出されたコップに手を伸ばして、ちょんっと火爪さんの手に指先が触れた。
「んぁ」
その瞬間、ぴりっと電気が走ったような気がした。
静電気だろうか?
火爪さんも気にした様子はないし。
ちょっとびっくりしたみたいだけど・・・・・・すぐに携帯端末を開いて何かしてるし・・・・・・
こくっと一口水を飲む。
口の中の甘さがなかなか消えない。
「・・・・・・・・・マジか・・・・・・あの馬鹿」
パチンッと携帯端末を閉じて、火爪さんが大きく息を吐いた。
どうしたんだろうか?
馬鹿って誰の事を指したんだろうか?
こくっと水を飲む。
チラッと火爪さんが俺を見た。
何か言いたげだけど・・・・・・・・・なんでしょうか?
「天城・・・・・・・悪い・・・・・・・ごめん」
「はい?火爪さん?どうされたんですか?」
こくこくと水を飲む。
俺はなぜ今火爪さんに謝られたのだろうか?
「落ち着いて聞いてくれ」
もちろんです。
しっかり落ち着いてますよ?
「さっき飲んだ紅茶、だと思っていたモノは・・・・・・・・」
紅茶、だと思ったモノ?
つまり紅茶ではなかったってことですね?
「どんな凶暴な獣でもトロトロに融かしてくれるお薬なんだそうだ」
ん?
今何の話をしてましたっけ?
どうして今獣の話なんて出て来るんです?
って言うか・・・・・・・・・薬?
「簡単に言うと、媚薬だ」
びや・・・・・・・・く・・・・・・・ビヤ、ク・・・・・・・・びやっ!!!
「はぁいぃぃぃぃ?」
大声を上げた俺は、思わずコップを落としてしまった。
膝の上だったからコップは割れなかったけど、まだ中身が少し残ってたから・・・・・・
「タオル持ってくる」
膝の上に転がっているコップを取り上げて、火爪さんが離れていく。
って言うか、待って・・・・・・混乱してるから一人にしないで。
いや、一人にしてもらった方がいいんだろうか?
え?俺どうしたらいい?
今のところ何ともないと思うんだけど・・・・・・一緒にいるのはマズイ、のかな?
部屋に戻った方が・・・・・・
「天城?」
「ひゃぃっ!」
タオルを持って戻って来た火爪さんが、ぽんっと肩に手を乗せただけで、背中がゾクゾクゾクッときて、変な声が出た。
「・・・・・・悪い」
いえ、こちらこそ・・・・・・・ちょっと待ってくださいね、まだ背中が変なので。
落ち着こうと思って、スーハー、スーハーと深呼吸を繰り返して・・・・・・・
失敗だった。
火爪さんから甘い匂いが漂ってくる。
心臓がバクバクし始めて・・・・・まともに火爪さんの顔が見られない。
どうしよう・・・・・部屋から出て行かないと、火爪さんに迷惑を掛けてしまうのに、身体から力が抜けていくのを感じる。
ダメだ、完全に動けなくなる前に行かなきゃ・・・・・・・
「天城、忘れてるかもしれないから言うけど」
え?
顔を上げたら、すぐ近くに火爪さんの顔があって・・・・・・・イケメンがドアップだ。
火爪さんの匂いが強くなったと思ったら、その腕の中に、ぎゅっと抱き締められた。
「俺も飲んでるんだぞ、薬」
耳元で囁かれて、びくっと身体が跳ねた。
無意識に俺の手は火爪さんの背中に回っていて・・・・・・
火爪さんの肩に顎を乗せて・・・・・・・・
「天城」
火爪さんに名前を呼ばれるたびに、頭の中が蕩けていく・・・・・・・・
身体が熱くなっていくのを感じる・・・・・・・
「・・・・・・・・ほ、つま・・・さ」
じわりと目尻に涙が浮かんだ。
そっと身体を離されて、火爪さんが俺の頬に流れ出た涙を舐め取る。
ちゅっと音を立てて、唇の端にキスをくれた。
もっとして・・・・・キスして欲しい・・・・・・・まだ足りない。
火爪さんのシャツを握り締めて、強請るように引っ張る。
自分から火爪さんの唇に向かって・・・・・・
「天城・・・・・・止められなくなるから」
止めなくていいと思う・・・・・・だから、早くキスして欲しい。
火爪さん、俺を求めて。
俺を欲しがって。
「ほつま、さ・・・・・・ん」
俺を全部あげるから・・・・・・・
どうして困った顔するの?
俺が火爪さんを困らせてるの?
俺・・・・・・火爪さんに迷惑かけてるの?
「天城、俺なんかとで後悔しないか?」
後悔?
そんなのするわけない・・・・・・俺は火爪さんが欲しいのに。
火爪さんに甘えたい・・・・・いっぱい甘やかしてもらいたい。
火爪さんのキスがいっぱい欲しい。
火爪さんにいっぱい触ってほしい・・・・・・火爪さんの熱を感じたいんだ。
俺って、随分欲張りだったんだなぁ・・・・・・・・
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