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第52話 【 獅童紅刃の場合 】
【 獅童紅刃の場合 】
紅刃side
なんて清々しい朝・・・・・・なんて思えるはずもなく。
目が覚めたのは食堂だ。
テーブルに突っ伏して寝てたみたいだ。
屍累々・・・・・・酒盛りをしていた先輩方が食堂のあちこちに点在している。
転がってる酒瓶を踏まないように気を付けながら・・・・・・俺、酒は一滴も飲んでないのに?
規則に厳しい白雪リーダーは未成年の飲酒を絶対に認めない。
俺達だってちゃんと法律は護っている。
なのに、先輩達と一緒にココで意識を飛ばしてる未成年(俺を含む)がいるってことは・・・・・・料理に何か仕込まれてたんだろうか?
途中から記憶がない。
天城が部屋に帰るって言うから、送って行こうと思ったんだけど、大丈夫って断られて・・・・・・
天城を見送っていたら、背後から零ちゃんに掴まって・・・・・・それから?
「今何時だ?」
食堂の壁に掛けられた時計、時間は・・・・・・あぁ、朝の鍛錬のお時間が近づいてますがぁ。
こんな状態じゃ中止に・・・・・・いや、あのリーダーが中止になんてするわけない。
きっと涼しい顔で地下の訓練場で待っているだろう。
そして、あの天使のような笑顔で悪魔の言葉を発し、俺達を地獄の特訓へと導くんだ。
ごそごそと起き出す仲間達がいる。
俺も一旦部屋に帰ってシャワーを浴びて来よう。
一応隣で涎垂らしてる仲間の肩をゆすってやって・・・・・・
食堂の出口に向かう道筋に転がっている先輩達の足を、ちょんっと蹴飛ばして起こして行きながら・・・・・・
大きな欠伸をしながら廊下を進んで・・・・・・
「は?」
俺は見てしまった。
天城が兄貴の部屋から出てくるところを・・・・・・
しかも、髪も服装もちょっと乱れてて、ほんのりと頬を赤く染めて・・・・・・・
兄貴もなんか様子が変で・・・・・・あの兄貴が、照れてる?
なにコレ?
俺は今何を見せられてるんだ?
天城は廊下に立ち尽くしている俺に気付かずに、兄貴の隣の部屋、天城の部屋に駆け込んで・・・・・・
兄貴は・・・・・・チラッと俺の方を見て、ガシガシと首の後ろを掻いて、一度天を仰いで部屋の中に消えた。
どういうこと?
なんで天城が兄貴の・・・・・・え?意味解らない。
俺は幻を見たのか?
昨日の料理に仕込まれてたモノが、実は幻覚を見せる何かで?
だから、それで、天城が、兄貴と?
は?
あれ・・・・・視界が一回転して、ドタンッと背中に激痛が走った。
「紅刃、ちゃんと受け身取らないと」
呆れた顔で俺を見下ろす咲良が・・・・・・?
俺は知らないうちに地下の訓練場で、咲良に吹っ飛ばされて・・・・・・
「・・・・・・咲良」
「ん?」
咲良の手を借りて身体を起こし、引っ張られるままに立ち上がる。
でも、すぐにその場にしゃがみ込んで・・・・・・
「俺、どうやってココに来た?」
「この足でヨロヨロと歩いて来たけど?」
俺と同じようにしゃがみ込んで、俺の膝をポンポンと叩いてくる。
地下訓練場に向かう途中で声を掛けてくれたらしいが、俺は生返事をするばかりで・・・・・・
白雪リーダーの朝の挨拶を聞いている間もフラフラと頭が揺れていて・・・・・
いや、俺以外にもしっかり立っていることが出来ない奴らは大勢いたらしいが。
組手の相手が咲良に決まって、お互い向かい合って一礼。
次の瞬間、咲良に背負い投げを仕掛けられて、そのまま、なんの抵抗もなく綺麗に宙を舞った。
「咲良、俺変?」
「変なのはいつものことでしょ?」
なんだと?
反論しようとして口を開いたら、ぽんっと頭に手を乗せられた。
ナデナデと撫でて来るから、大人しくしてた。
こいつの手は、昔から気持ちよくて好きなんだよなぁ。
「で・・・・・・鷹宮くんの事で何かあったの?」
勘のイイ奴め。
咲良は、俺が天城に一目惚れをしたことも知ってるし・・・・・・いろいろ相談に乗ってくれてるからなぁ。
実は、と先程の事を説明してみる。
最後にはちゃんと、見たことは実は幻覚だったかもしれない、と付け加えて。
「でも、それが合意の上だったら僕らには何も言えないんじゃない?」
合意?
つまり、兄貴が天城を誘って、天城がソレに応えたってことか?
え?だって天城には俺がいるのに?
兄貴だって俺が天城の事好きだって知ってる・・・・・・
そりゃぁ、はっきり、番になろうって告白したことはなくても、俺の気持ちは天城だって知ってる・・・・・・よな?
巣作り、俺の為に巣作りしないかって言ったことあったろ?
え?まさか天城に俺の気持ち通じてない?
あいつ・・・・・鈍いもんな。
じゃぁ、兄貴は?
兄貴は天城に告白したのか?
「火爪先輩は・・・・・・鷹宮くんのこと好きだと思うよ?」
え?そんなこと聞いたことない。
いろんなΩに告白されて、モテまくってるのは知ってる。
何処がいいのかは知らないが・・・・・・その度に、兄貴は断ってたけど。
特定の、特別な存在を兄貴は今まで一度も作って来なかった。
遊び相手、なんてのも・・・・・・だ。
そもそも、兄貴と天城がどうして・・・・・・二人の関係って?
「あの二人は前世で繋がってるんだよ」
前世?
俺はそもそも、そんなもん信じちゃいなかった・・・・・あんなのは、ただの夢だって思ってた。
魑魅魍魎を相手に刀を振るい、血や泥に塗れながら、目の前に立ちはだかる敵を打ち倒していく・・・・・
何度も繰り返し見る夢。
俺を援護してくれる人影・・・・・・
俺達を見下ろす白い翼の連中・・・・・・
彼らの顔は黒く塗りつぶされていて見えず・・・・・・それでも、側にいてくれると安心できた。
白雪リーダーは、俺と兄貴の前世はリンクしてるって言ってた。
でも、兄貴は俺の夢に登場してない。
兄貴は炎帝と呼ばれ、黒い翼の番と常に行動を共にし、あの世界を支配していた、とは聞いてる。
あの兄貴が支配する世界なんて想像できない。
じゃぁ、俺は前世で兄貴と戦っていたんだろうか?
それとも味方として一緒に・・・・・・?
そのうち、俺の夢にも出て来るんだろうか?
俺の周囲にいた、顔を黒く塗りつぶされていた奴らの中に天城はいた?
それとも・・・・・・・・・天城は兄貴と一緒に?
「紅刃、そろそろ動かないとリーダーに怒られるよ?」
リーダー?
確かに、少し離れた場所から、こっちをじーっと見てるけど・・・・・・
「鷹宮くんが、火爪先輩に惹かれているのは間違いないと思うよ?」
天城は、炎帝の側にいた・・・・・・・黒い翼?
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