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第59話

静かに夜は更け、一睡も出来ないまま次の朝を迎えた。 朝を迎えたのは火爪さんの部屋ではなく、俺の部屋のベッドの上・・・・・・ 「天城、目の下にクマ出来てる」 昨晩は眠れない俺に付き合って起きてくれていた火爪さんが、ベッドの端に腰を下ろしている。 何者かが結界を破る事に使用されたのが火爪さんの部屋の鍵・・・・・・ 火爪さんの部屋に微かに残った気配、侵入したモノは発見できず・・・・・・あの部屋に帰るのは危険。 空いていた部屋は他にもあったのだけれど・・・・・・ 火爪さんが、俺の部屋でいいって白雪リーダーに言うもんだから・・・・・・ 白雪リーダーも、俺を一人にするのは危険だとか言うし・・・・・・ 意味深な笑顔をこっちに向けてくるし・・・・・・ じゃぁ俺もって名乗りを上げた紅刃は、白峰が寮の周辺を見回りに行くって連れて出て行って・・・・・・ ドキドキしながら火爪さんを俺の部屋に迎え入れたものの、この部屋には、ベッド以外に寝心地の良さそうな場所はない。 そして、火爪さんを床に寝させるわけにはいかない。 もちろんベッドを火爪さんに使ってもらって、俺は床で寝るつもりだったのに・・・・・・ 明日から絶望の森に行くのだから、今夜はちゃんとベッドで身体を休めなさいと言われて・・・・・・ 結果、俺は火爪さんに抱き締められるように、ベッドの上で横になっていたわけです。 って、寝れるわけねぇ! 火爪さんの腕の中で緊張して、心臓がバクバクして・・・・・こんなの、火爪さんに気付かれたら格好悪いなぁ。 「天城?」 頬に火爪さんの指が触れて、ハッと我に返る。 「は、はい・・・・・お、おはようございます」 火爪さんがきょとんっと目を丸くして、なぜかプッと吹き出した。 俺、何か変なことした? 火爪さんの顔が近づいて来て・・・・・・ 「おはよう、天城」 ちゅっ・・・・・・・って? 俺、今火爪さんにキスされた・・・・・・え? さりげない行動だった。 これって普通? 起きたらキスって・・・・・・イケメンさんって、こういうことなんだろうな。 「とりあえず、シャワー浴びて支度をしようか?」 ベッドから立ち上がって、ぐっと身体を伸ばす火爪さんをぽぉっと見詰めていた。 Tシャツ脱いで・・・・・・陽に焼けた、無駄のない筋肉が露わになって・・・・・・ 「絶望の森、気合い入れていかないとな」 嫌なネーミング・・・・・・絶望の森。 今日はこれから俺を含む数人でチームを組み、絶望の森に入る。 俺は当麻先輩の助手みないなもので、後方支援だって前に聞いた気がするんだけど・・・・・・ 今回、絶望の森で戦闘訓練に参加する。 俺には素質があるって言われたけど・・・・・・・実感はない。 絶望の森には、人為らざるモノが徘徊していて・・・・・・いや、それは既に経験済みです。 前回は担任の北斗スミレによって、不可抗力で、なんの予備知識もないまま突入しちゃったわけで。 あの時は、火爪さん達にいろいろ迷惑かけてしまって・・・・・・ 昨日、火爪さんの腕の中で、絶望の森についていろいろ教えてもらってたわけだけど・・・・・・ 「天城?」 絶望の森の中にいる人為らざるモノの正体は、まだ解明されてないらしい。 俺達の前世に関係していることは間違いないってことだけど。 森の最奥に洞窟があって、その中に大きな扉があって、そこから出て来るってことらしい。 森の周囲を取り囲むように結界が張ってあり、定期的に訓練として『牙』が入る。 素人考えで、洞窟の中の扉を破壊すればいいんじゃないですかって言ったら、無理だって笑われた。 何度か破壊したことはあるらしいけど、満月の夜には元通りになるんだって。 「天城、目を開けたまま寝てるのか?」 火爪さんの顔がドアップ・・・・・・そのまま、とさっとベッドに押し倒されてしまった。 「お、起きてます」 「知ってる」 ちゅっと・・・・・・・またキスされた。 イケメンだ。 火爪さんが、俺の首筋に顔を埋めて・・・・・・強く吸われた。 「一緒にシャワー浴びるか?」 なっ?! なぜ?! 火爪さん、随分大胆じゃないですか? いったい何があったんですか? 「なぁ、天城・・・・・・俺の番にならないか?」 え? 「え?」 顔を挟んで両腕をつき、俺を見下ろしている火爪さんの表情は真剣そのもので、からかわれてるわけじゃなくて・・・・・・ 「前世の関係性に引っ張られての告白じゃない・・・・・・俺は、ちゃんと天城に告ってるんだが?」 蒼威じゃなく、俺のことを? 炎帝じゃなくて火爪さんが・・・・・・俺を? 「誰にも渡したくない」 俺なんかを誰が必要とするんです? 「天城が誰を選ぶか不安だ・・・・・・お前は無防備過ぎるし、誰彼かまわず惹きつける」 「そんなことは・・・・・?」 身体の上に火爪さんの体重が圧し掛かる。 首に火爪さんの唇が触れて・・・・・・・はむって、甘噛みされた。 「無理矢理自分のモノにするより、ちゃんと天城に俺を選んでほしい」 声に蕩けそう・・・・・・ ドキドキする・・・・・・心臓が口から飛び出しそうだ。 どんな表情してるのか見せてくれないけど、あの火爪さんが、俺なんかに告白してくれてる・・・・・・ 俺は、火爪さんに応えていいんだろうか? 火爪さんの腕の中は、すごく安心するし、心地いい・・・・・・ 火爪さんの匂いは落ち着く・・・・・・火爪さんがαだから? 俺がΩだから・・・・・・αだったら、誰でもいいんだろうか? 「ごめんな、これから絶望の森に入るって言うのに混乱させるようなこと言って」 謝らないで・・・・・・ 嬉しいのと、俺なんかでいいのか不安なのと、なんか、感情がごちゃごちゃしてて考えが纏まらない。 「絶望の森から帰ったら答えをくれるか?」 帰ったら? 漸く火爪さんの表情が見えたと思ったら、苦笑しながら・・・・・・ ベッドの上の棚に置いてあった目覚まし時計を取って、時間を示された。 「集合に送れるのはマズイだろ?」

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