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第62話

「おはよう、天城」 なんとなく元気のない紅刃がテントから出てきた。 顔を覗き込まれてニッコリと挨拶をされたけど、なんか、やっぱりいつもと違う気がする。 俺達が見張りに立ってる間、何かあったのかな? 聞いてみる? でも、余計なお世話だろうか? 「・・・・・・・・お、おはよう」 テントの中ではまだ白峰と光牙が就寝中のようだった。 紅刃は、ちゃんと眠れたんだろうか? 昨夜は、目の前に現れた異形のモノを一体倒すだけで精一杯だった。 その間に、火爪さんはいったい何体倒したんだろうか・・・・・・ 初陣なのに一体倒せただけでも十分だって、火爪さんは褒めてくれたけど。 「天城?大丈夫か?怪我してない?」 「え?あ、うん・・・・・・だいじょう、ぶぅ!!!」 突然背後から紅刃に抱き締められた。 いつの間に後ろに回ったんだ? 「俺が慰めてやろうか?」 「いらない」 「なんで?照れるなよ」 抱き締める腕に力が入る。 「別に照れてない」 「咲良もそうだけど、天城、もっとしっかり食べないと抱き心地がいまいち・・・・・・」 バコッ!!! 「がっ!!」 鈍い音と共に、腕の力が緩み、その隙に俺はその場から飛び退いた。 紅刃が頭を抱えてしゃがみ込んでいる。 「大丈夫?鷹宮くん?」 角が思い切り凹んだ箱を手に、にっこりと白峰が笑った。 「あ、ありがとう」 「いいえ、どういたしまして。そのうち、ゆっくりと紅刃の撃退方法を教えてあげるね」 げ、撃退方法って・・・・・・? 顔を洗ってくるからと、白峰が沈んだままの紅刃を引きずっていく。 この一角だけ、空から太陽の光が降り注いで明るいが、周囲はまだ夜中のように暗い。 ガサガサと近くの草むらが揺れた。 「天城ちゃん、異形のモノの気配が結界の周囲を取り囲んでいるの分かる?」 「・・・・・・なんとなくだけど、嫌な気配が漂っているのは分かる」 振り返り、テントの中から出てきた光矢ちゃんに答える。 いつの間に来てたんだろう? 「それだけでも進歩ね。火爪ちゃんの特訓は成果が出るの早いわ」 「・・・・・・火爪さん、スパルタだよね」 「天城ちゃんが生き残るためよ」 光矢ちゃんの言葉にドキッとした。 生き残る・・・・・・なんて、俺に一番許されてはいけないこと。 双子の兄、天音の姿が思い浮かぶ。 俺の存在は、母さんと天音の犠牲の元に成り立っている。 「基本的に、森の中を徘徊してる異形のモノはβ、上級クラスになってくるとαが混じって・・・・・・Ωは希少種で」 「待って!あいつらの中にも?」 まさか第三の性別が存在するなんて? 「そ!だからΩの隊員は、発情期になったら森に入るのも近づくのも禁止・・・・・・抑制剤や特効薬は、咲良ちゃんが持ってるから、ちょっとでも体調に異変を感じたら素直に申告する事」 ニッコリ笑って、くるっと光矢ちゃんが身体の向きを変えた。 「天城ちゃんの場合、火爪ちゃんが強制的に連れ帰ることになってる」 ほ、火爪さんが? そのまま、スタスタと光矢ちゃんが離れていく。 突然一人ぼっちで置いていかれたような気分になり、慌てて光矢ちゃんの後を追った。 チームの全員で朝食を済ませた後、白峰から本日のスケジュールを言い渡された。 紅刃と白峰はテントを囲む結界の修復を始めた・・・・・・一晩中ヤツらの攻撃を受け、あちこち崩れかけていたらしい。 光矢ちゃんは一旦森の外へ・・・・・・ きょろっと周囲を見回しても、光牙の姿は無い。 何処行ったんだろう? 前の時もそうだったけど、光矢ちゃんがいる時は光牙がいなくて、光牙がいる時には光矢ちゃんがいない・・・・・・ 交代制? 誰も何も言わないから、普段から、これが普通なんだろうけど・・・・・・ 俺は火爪さんと組み、一通りの準備運動を済ませた頃、一振りの刀が目の前に突き出された。 「光矢がリーダーから預かってきた・・・・・・天城専用の護り刀だ」 火爪さんから受け取った刀がずしりと両手に乗せられた。 「・・・・・・これって、本物?」 「偽物を渡してどうする?」 「・・・・・・・・いえ、そういうことじゃなくって」 銃刀法違反って言葉知ってます? 一般市民は、こういうものを持ち慣れてないんです。 そっと鞘から刃を引き抜く。 時代劇で見る刀と輝きが違う気がする・・・・・・まぁ、あれは本物じゃないからかな? 「護り刀も渡したことだし、これから零が待ってる研究所に向かうぞ」 刀を収め、研究所という単語に首を捻る。 つまり、この森から出るんですか? 三日入るって言ってませんでした? しかも、灰邑さんが待ってるんですか? 最初に合流するとは聞いてましたけど・・・・・・ 火爪さんがテントを囲んでいる結界を出て行くから、俺は慌てて追いかけ・・・・・・ 結界を出る一歩手前で足を止めた。 この向こうには、異形のモノがいるわけで・・・・・・ なにより、ヤツらにも第三の性別があるって知ったもんですから! で、でも・・・・・・火爪さんに置いて行かれるわけにはいかない! 思い切って結界の外に足を踏み出した。 一気に自分を取り巻く空気が冷たく、そして重く圧し掛かってきて一瞬引き返そうと思ったんだけど・・・・・・ 「大丈夫か?」 引き返してくれた火爪さんが差し伸べてくれた手・・・・・・ 「は、はい!」 気を引き締めて大きく頷くと、火爪さんの手を取って歩き出した。 どんどん森の奥へと入って行くようだけど・・・・・・ 俺達研究所へ行くんじゃありませんでした? 自分達を追いかけてくるように、近くの草むらがガサガサ揺れて、その度にビクッと肩を大きく震わせて、刀を握る手に力を込めた。 襲ってくる気配はない。 アイツらもこちらを警戒しているのだろうか? 「・・・・・・寒っ」 気温がどんどん下がっていくのを肌で感じ、腕を擦った。 「天城・・・・・・コレ」 火爪さんが差し出してくれた手の中に、小さく折りたたまれた赤いハンカチがあった。 「手首に巻いていれば少しは暖かいから」 「?」 不思議に思いながら手を伸ばすと、火爪さんがその手首に赤いハンカチを結んでくれた。 「あ、ほんとだ・・・・・・じわぁっと」 暖かい・・・・・・俺はホッと息を吐いた。 ハンカチに頬擦りをしながら、これから行く場所のことを聞いてみる。 「あの、灰邑さんが待ってる研究所って」 「この奥にあるよ」 わざわざ、こんな危ない森の奥に? 襲われたりしないんだろうか? 異形のモノにも第三の性別があるって知ったばっかなもんだから、心配になる。 万が一、こんな奥で発情期なんて来てしまったら・・・・・・ あ、番の人が一緒にいるんだろうか? 「零が一人でいるわけじゃないから大丈夫だよ」 研究所で働く職員さん達は、『牙』の各部隊から派遣されてきていて、異形のモノの事を主に調査しているらしい。 「たまたま、あの研究所のPCが、天城が住んでいた街のことを調べるのに適していたんだ」 え? それって機能的な事ですか? 異形のモノを中心に調べてるんですよね? 俺の住んでいる街の調査って言ったら・・・・・・ 父さんが勤めていた研究所が関わっているらしい薬を飲んだ人達から、死者が出たって・・・・・ 街の権力者だった鬼龍院一族もターゲットになってて・・・・・・ 「その街の事で、新情報が入ったらしい」 「ってことは、鈴江さんと連絡が取れたんですか?」 鈴江さんに、黄馬のことを伝えなきゃ。 鈴江さんの息子が、なんと、βからαに変わっちゃったんですってとも! 「いや・・・・・・彼女とはまだ・・・・・情報を入れたのは、十三番部隊」 目の前に白い建物が見えてきた。 「零の番がいる部隊からの情報だ」

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