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第63話
目の前に現れた白い建物・・・・・・結構立派な建物だな。
こじんまりとした平屋建てを想像していたんだけど・・・・・・
目の前の建物は地上三階建て、更には地下室まであるって光矢ちゃんが教えてくれた。
「天城ちゃん」
何かセキュリティー装置みたいなものはないかと、きょろきょろしながら歩いていた俺の手を引っ張って光矢ちゃんが足を止める。
「天城ちゃん、前見て歩かないと激突するわよ?」
そんな俺の目の前に、分厚いガラスが二重になっている自動ドアが閉まっていた。
「なんで開かないわけ?」
「天城ちゃんが軽すぎるんじゃない?」
すぐ隣に立った光矢ちゃんが、自動ドアにそっと触れた直後、音もなくドアが左右に開いた。
「体重関係ないんじゃないのか?」
どこかにセンサーがあるんだろうと、目を細めてガラスを調べてみるが、それらしいものが見当たらない。
「ふふふっ、どうでしょうねぇ?」
そのままスタスタと光矢ちゃんは奥へ入って行ってしまう。
「天城、遅れるなよ?」
火爪さんが横を通過して行き・・・・・・俺は慌てて後を追った。
光矢ちゃんが呼んだエレベーターに乗り込んで地下二階へ。
扉が開くと、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
このフロアはシンと静まり返っている。
内部はまるで迷路のように入り組んでいたが、光矢ちゃんを先頭に、一度も立ち止まることなく進んで行く。
俺も、二人に置いていかれないよう必死についていった。
そして・・・・・・
「はい、到着!」
扉には『灰邑零』と名前の書かれたプレートが貼ってある。
「零・・・・・・入るぞ」
火爪さんがノックして、扉を開けた。
壁一面、びっしりモニターが埋め込まれていて、見たこともない機材がいっぱいならんでいる。
部屋の奥から、白衣ならぬ黒衣の人が・・・・・・あ、灰邑さんだ。
「天城くん・・・・・・大丈夫だったかい?怖かっただろう?」
ぎゅっと抱き寄せられて、お互いの頬を合わせ・・・・・・スリスリと。
灰邑さん、いい匂いする。
なんだか大人の男って感じでドキドキするけど・・・・・・・
「咲良は意地悪だし、獅童くんはドSだし、その弟くんは空気読まないし、光矢ちゃんは夜には光牙くんになっちゃうし」
はははっ・・・・・・・・は?
今最後、なんて言いました?
「そんなことより、零・・・・・・十三部隊からあった報告」
べりっと灰邑さんから引き剥されて、そのまま火爪さんの腕の中にすっぽり納まる。
火爪さんの匂いは灰邑さんのと違って落ち着く・・・・・・
無意識に、火爪さんの腕の中で深呼吸をしちゃうくらいには・・・・・・・
「ん」
くるっと向きを変えた灰邑さんが近くのPCを操作して、いくつかモニターの映像が切り替わる。
俺達はゾロゾロとモニターの前に移動した。
そこに映し出された風景は、とても懐かしい場所。
「・・・・・・・・・・ここは」
俺が住んでた街だ。
前回の事で、国の特殊部隊が動いていることがバレて、より隠密行動が得意な部隊に任務が移った・・・・・・・
つまり、俺がいる第七部隊と交代で、灰邑さんの番の人がいるっていう十三番部隊が、俺の住んでいた街の調査に入った。
何度か画面が切り替わる。
いつ撮ったものかは解らないけど、懐かしい街並みには誰も映っていない。
資料映像ってやつなのか?
明るいから、まだ皆が起き出す前の・・・・・・・・早朝とかなのかな?
「街から人が消えてしまったらしい」
灰邑さんが、じっと俺の方を見詰めてくる。
人が消えたって、どういうことなんだろう?
「これ、平日の日中の映像なんだ・・・・・・・・外出禁止令が発動されているわけじゃないよ」
俺の家に行ってくれた隊員さんから、俺の家にも誰もいなかったって・・・・・・・
メイドの皆や、鈴江さんも・・・・・・・父さんも・・・・・・・
父さんが勤めていた研究所も・・・・・・・
学校も・・・・・・・・
公共機関も全てストップしていた・・・・・・・・・と。
「人が暮らしていた形跡は残っていたけど、それも数日前まではって感じ?」
灰邑さんの指が動いて、映像が切り替わっていく。
食べかけの食事が並ぶ食卓・・・・・・・・
ソファに広げられた新聞は数日前のもの・・・・・・
TVも点いたままだったけど、真っ暗な画面に無音・・・・・・・
開けっ放しの窓・・・・・・・その側にある植木鉢の花は枯れてしまっている。
交差点では、信号が青に変わっても動き出さない車の列・・・・・・・
近付いて行くと、どの車もエンジンが掛かったまま、車内には誰も乗っていない・・・・・・・・
「地下のシェルターを幾つか見て回ったそうだけど、ソコも空」
街から人が・・・・・・・・消えた?
「唯一、異様な気配を放っていた場所が・・・・・・・・ココ」
地図・・・・・・・灰邑さんが指示した場所は、街の権力者である鬼龍院家の御屋敷。
更に画面が切り替わって、上空から、鬼龍院家の御屋敷の広い敷地が全体に見渡せる。
「セキュリティーが厳しくて、いち・・・・・・十六夜達でも、侵入不可能だった場所」
画面が分割され、鬼龍院家の門、御屋敷、離れ、庭などの様子が映し出される。
俺は一度も入ったことはないけど・・・・・・
国は・・・・・・この街全体を進入禁止区域に設定。
今の所、街の中から逃げてくる人もいないらしい。
父さん達は・・・・・・・無事でいるんだろうか?
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