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第64話

「新しい情報はこれくらいかな・・・・・・さて、お茶くらい御馳走するよ?」 「は~い!お手伝いしま~すっ!」 光矢ちゃんが灰邑さんに続いて奥へ向かう。 俺はその場で・・・・・・二人の後姿をぼーっと見送った。 「天城、大丈夫か?」 火爪さんに背後から抱き締められる。 大丈夫・・・・・・・って応えたいけど、今は無理です。 父さんや鈴江さん達の事が心配で・・・・・・・無事だといいけど。 鬼龍院家と言えば、あの街の象徴的な家柄で、逆らうなんて人はいないだろう。 一体、何が起こってるんだろう? 「天城?」 「・・・・・・・・・火爪さん、俺は」 黄馬が目を覚ましたら、なんて説明してやればいいんだろうか? 「天城・・・・・・俺が一緒にいる」 火爪さんの声が耳に心地いい・・・・・・ 今すぐ火爪さんに甘えたい・・・・・・ このまま、火爪さんの匂いに包まれたい・・・・・・ 火爪さんの熱に溶かされたい・・・・・・ 火爪さんに・・・・・・・ 「二人共、何してるの?」 奥から顔を覗かせた灰邑さんに、ドキッとした。 俺の心が読める人が、今この場に居なくて良かった・・・・・・っていうか、俺、今何を考えた? 「天城?」 火爪さんに顔を覗き込まれて・・・・・・・ 「あぅ!あ・・・・・あのっ!えっと!」 はっ、恥ずかしい! 今顔真っ赤なんだろうなぁ・・・・・・顔が熱い! 俺、何考えてんだ、こんな時に! 「なんでもないです!ほら、火爪さん、行きましょっ!」 思わず大声を上げて、火爪さんの腕を取って灰邑さんの元へ駆け寄った。 俺の声にちょっと驚いた顔をしたけど、火爪さんは俺に腕を引かれるまま素直について来てくれる。 それから二時間後・・・・・・・ 灰邑さんとは別れて、研究所を後にした。 研究所には灰邑さん以外の人もいたけど・・・・・・俺達とは違う入り口から森に入って来たらしい。 その入り口から研究所までは強固な結界が張られた通路があって、異形のモノは近寄れないらしい。 そういう入り口は他にもあるらしい。 前に担任、北斗スミレから鍵を渡されて入った旧館もその一つ・・・・・・ 旧館までの道のりにも結界が張られていて、一般人は足を踏み入れることはないらしいけど、俺は鍵を持っていたから迷うことなく旧館に辿り着けてしまった。 研究所の中は空調が快適温度に設定されていた。 森に戻ると、ひんやりとした空気に頬を撫でられて気持ち良かった。 「火爪ちゃん、このあとはどうするの?」 俺達は来た道を引き返していた。 また異形のモノに慣れる特訓が待っているんだろうか? 暫く来た道を引き返し、漸くテントが見えたところで、火爪さんが方向を変えた。 「天城を・・・・・あいつんとこに連れて行く」 「あいつ?」 また誰かの元に連れて行かれるのかと首を捻る。 「あぁ、あの子・・・・・・ここから少し行った洞窟に住んでたわね」 誰が洞窟に住んでるって? 先頭を行く火爪さんの背中を見詰める。 普通の人間じゃないってことですよね? だって、洞窟に住んでるんだもんね? 「天城を『赤獅子』に会わせる」 火爪さんから答えをもらえたけど、『赤獅子』って・・・・・・・火爪さんの持つ刀の名前じゃなかった? 疑問に思っていると、数歩後ろをついてきていた光矢ちゃんがスッと隣に並んだ。 「・・・・・・召喚出来ると、天城ちゃんの防御力も上がるわね」 「しょう・・・・・・かん?」 今一話が見えない。 「召喚って・・・・・・ファンタジーの世界で悪い魔法使いが地面に魔方陣描いて、なにやら小難しい呪文を唱えると白い煙がモアモアッて立ち昇って、中から怪物みたいなのが出てくるっていう、アレ?」 「天城ちゃん、随分限定したわね・・・・・・まぁ、似たようなもんかしら?」 似たようなものっていうことは、これから呪文とか魔方陣の形とかをいっぱい頭に叩き込まなきゃいけないのか? 暫くして、先頭を歩いていた火爪さんが足を止めた。 「着いたぞ」 火爪さんの向こう側に、ぽっかりと口を開けた洞窟がある。 「光矢、先に行って様子を見てきてくれ・・・・・・もし・・・・・・」 ボソボソッと光矢ちゃんの耳元で指示を出した火爪さんに、光矢ちゃんは俺に困惑気味な視線を向けた。 光矢ちゃんの様子から、間違いなく俺にとって何か良からぬ事を指示したに違いない。 少々緊張した面持ちで、光矢ちゃんが何か言ってくれるのかと思って待ってたけど、彼女はそのまま洞窟の奥へと行ってしまった。 「光矢が戻ったら『赤獅子』の元に行く。その前に装備の再チェック」 「は、はい」 装備の再チェックってことは、さっきみたいに仲良くお茶しながらお話しましょってわけじゃないんだな? ベルトに差していた刀に手を掛け、小さく溜息を吐き出した。 「もし無理だと思ったらすぐに俺を呼べ。こればっかりは徐々に慣れさせないと、急に懐柔させる事は出来ないからな・・・・・・召喚獣と言えど信頼関係を結ばないと、いざと言う時の戦闘に召喚出来ないなんてことも起こり得る」 「・・・・・・っ・・・・・分かりました」 頷いた時、光矢ちゃんが洞窟の奥から戻ってきた。 「どうだ?行けそうか?」 火爪さんの問いに光矢ちゃんは頷く。 「問題ないと思うわ・・・・・・ただ、天城ちゃんの気配を感じて、ちょっと興奮してた」 「そうか」 光矢ちゃんの返答に、火爪さんがなにやら不敵な笑みを浮かべた。 嫌な予感がする・・・・・・またドSな火爪さんが降臨してますよ? 時々ドSになりますよね? まぁ、そんな火爪さんも嫌いじゃないですけど・・・・・・・・って、そうじゃなくって! 「じゃぁ行こうか、天城」 「なっ、なんで俺が先頭なんですか!!」 火爪さんに背中を押される。 「天城、最初の挨拶は肝心だぞ?」 「そ、そうかもしれませんけど・・・・・だからって、押さないでください!!そもそも召喚獣って言うくらいだから獣でしょ?人間の言葉が通じるんですかぁ!!」 「大丈夫だ!俺がついてる!」 さっき言われた『大丈夫』と今言われる『大丈夫』は、どこか安心感が違うんですっ! 背中に添えられた手は変わらない暖かさがあるのに! 「天城、、『赤獅子』の機嫌が悪ければ、いきなり頭からガブリッなんてこともあるから十分気をつけろよ?」 「火爪さん!最初にそういうことを言わないでください!って言うか、押さないでください!!」 洞窟の中に一歩足を踏み入れた瞬間、ゾクンッと寒気が背中を駆け上がった。 奥から生暖かい風が吹いている。 「天城、大丈夫だ・・・・・・・『赤獅子』のヤツ、機嫌いいみたいじゃないか?」 「そ、そうなんですか?」 ぎゅっと火爪さんの上着の裾を無意識に掴んだ。 「機嫌が悪い時は一歩入った瞬間熱風が襲ってくる。あっという間にドロドロに溶けてしまうから」 足を止めるな、と火爪さんに背中を押される。 「天城、『赤獅子』はお前のことをちゃんと味方として認識している」 火爪さんに、そんなお墨付きをもらっても気分は上昇しない。 俺の行動次第では、その機嫌が急降下して頭からガブリッてことになるんでしょ? 「と、ところで俺は、『赤獅子』の前に出たら何をすればいいんですか?」 火爪さんの言う通り挨拶を・・・・・・ 今なら『こんにちは』と声を掛ければいいのかと、背中を押す火爪さんに真顔で聞いてみる。 「話しかけることは悪いことじゃないが・・・・・・『赤獅子』がお前を観察している時に煩ければ咬みつくかもな?」 「観察って?俺何されるんですか?」 「さぁな」 ニヤッと火爪さんは笑う。 「火爪さん!」 思わず声を荒げた俺の上着の裾を光矢ちゃんが引っ張る。 「天城ちゃんの心の中を覗くのよ・・・・・・そして、自分が仕えるに値するか判断して、その後に」 「光矢、ストップ!」 「え?え?何でストップなんですか?何?光矢ちゃん、その後何があるの?」 「光矢、それ以上はその後のお楽しみだから黙っていろ」 火爪さんが光矢ちゃんに口止めをしたため、素直に口を閉ざしてしまった。 この二人・・・・・・完全に面白がってるな! つまりは、それほど危険じゃないってことなのかな? 「ちょっと、火爪さん!!ねぇ、光矢ちゃん!!」 光矢ちゃんは気の毒そうに表情を歪めて、火爪さんの後ろへと隠れてしまった。 「えぇぇぇぇ!!気になるじゃないですかぁ!!」 その時、俺の叫び声に呼応するかのように、洞窟の奥から、少々温度を上げた風が彼らの間を吹き抜けて行った。 「ほら天城、『赤獅子』がお待ちかねだ・・・・・・さっさと行くぞ」 再び火爪さんに腕を引っ張られ、先頭に立たされた。 ドクン、ドクンと心臓の音が大きく聞こえる。 大丈夫・・・・・・大丈夫だ・・・・・・大丈夫! 後ろに火爪さんと光矢ちゃんがいるんだから、何かあれば、きっと何とかしてくれるだろうと思いながら、チラッと振り返った。 「え?」 どれくらい進んだ時だったろうか。 「うそ?」 背後には誰もいなかった。 今まで進んできた道に姿を隠せるような場所はなかった。 「火爪さん?」 一番自分を置いていかなさそうな彼の名を一番に呼んでみるが、姿を見せてくれない。 「光矢ちゃん!」 叫んでも出て来ない。 「火爪さぁん」 情けない声が出てしまった。 背中を向けていた方角から、先程より温度を上げた風が身体を吹き抜けていく。 まるで、赤獅子が・・・・・・俺を呼んでいるかのように。 こうなったら進むしかない、と気持ちを切り替え深呼吸をしてみる。 けれど、なかなか一歩が踏み出せない。 赤獅子・・・・・お前は俺の事を調べたいかもしれないけど・・・・・・俺だって、お前は得体の知れないものなんだから、警戒するのは当たり前なんだからな! もう一度深呼吸。 ギュッと目を瞑って、ずりずりと右足を前に出してみた。 「オソ・・・・・イ・・・・・・アマ・・・・・ギ」 今までに聞いたことのない声がして、ハッと目を開ける。 「・・・・・・うわっ!」 そこには全身に紅蓮の炎を身に纏った獅子がいた。 驚いた拍子に尻餅をついた俺の側まで、ゆっくりと近づいてくる。 次第に赤獅子から放たれる熱が俺を包み込んだ。 「・・・・・・あ、赤・・・獅子・・・・・・・さん?」 声が裏返った。 「イカニモ・・・・・ワレ・・・・・ハ、アカジシ・・・・・アマギ、ホツマ・・・・・・ノ・・・・・・トモダチ、カ?」 赤獅子が顔を近づけてきた。 「火爪さん・・・・・・火爪さん、とは・・・・・・そう、友達だ・・・・・・あ、赤獅子は言葉がしゃべれるんだな」 言葉が通じなかったら、どうやってコミュニケーションをとり、自分の事を認めてもらおうかと悩んだりもしたが、これなら少しは大丈夫そうだ。 「えっと・・・・・・俺は、鷹宮天城って言って」 「コトバ、ホツマ・・・ガ、オシエテ・・・・・・アマギ・・・・・・・クウナ、イワレテ・・・・・・ル」 べろんっと顎から額に掛けて舐められたが、その感触はざらざらして、意外にもひんやりと冷たかった。 「アジミ・・・・・ハ、イイ・・・・・・・アマギ・・・・・クチ、アケロ」 「へ?今なんて?!」

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