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第65話 【 獅童火爪の場合 】
【 獅童火爪の場合 】
「ねぇ、今頃天城ちゃん、泣いてるんじゃない?」
その頃、俺と光矢は洞窟の入口にまで戻って来ていた。
天城のことは心配だ。
本当ならずっと抱き締めててやりたいが・・・・・・
コレは赤獅子に天城を守護させるためには必要なことで・・・・・・・
俺は心を鬼にして!
「天城ちゃんに黙って出てきちゃったし・・・・・・赤獅子のアレ、知らない人間にはキツイでしょ?」
光矢は腰に両手を当てて洞窟の中を覗いているが、ここから天城の姿は見えない。
だが、天城の気はずっと感じていられる。
大丈夫だ・・・・・・
俺は天城を失いたくない。
かといって、この時代、ずっと天城の側に居られるわけでもない。
俺が一緒にいられない場合、赤獅子の守護を・・・・・・・
「獣とのディープキッスなんて・・・・・・」
光矢は引き攣った笑みを浮かべながら振り返った。
嫌な表現をするな!
「けどアレが・・・・・・赤獅子が相手の心を読み取る方法だからな・・・・・・・しょうがない」
俺は近くの岩に腰を下した。
天城のキス・・・・・・赤獅子の分際で、天城の唇を奪い、呼吸を奪い・・・・・・・身体の自由を奪い・・・・・・・・
やっぱり、想像するとムカつく・・・・・・
「火爪ちゃんの時ってさぁ」
ふと思い出したかのように光矢が俺に近づきながら話題を振る。
「倒れた火爪ちゃんの上から圧し掛かるように押さえつけて、嫌がる火爪ちゃんの唇を無理矢理開いて・・・・・・」
「・・・・・・・・・・光矢」
思い出させるな・・・・・・
あの後吐いて、倒れて、三日熱が下がらなくて朦朧として・・・・・・
「今思うと、エロいわよね」
想像するな!
俺は忘れたいんだ。
こんな思いを、天城にまでさせてしまう自分に・・・・・・・腹が立つ。
俺にもっと力があれば・・・・・・・・前世と同じ力が使えれば・・・・・・
天城をずっと俺の側に置いておくことが出来れば・・・・・・・
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」
洞窟の奥から天城の叫び声が聞こえて光矢は次の言葉を飲み込んだ。
俺達の視線が一斉に洞窟の入口に向けられる。
バタバタ走る足音が近づいてくる。
もちろんその正体は分かっていた。
「天城」
飛び出してきた天城は、そのまま、両手を広げた俺の胸に飛び込んだ。
「天城?」
顔を上げた天城の目には、今にも溢れんばかりの涙が溜まっている。
ドキッとした。
ムラッともした・・・・・・
不謹慎かもしれないが、天城を、このまま押し倒して・・・・・・・・身体の隅々まで癒してやりたい。
「あ、ほつ・・・・・火爪・・・さ、ん・・・・・・俺、俺ぇ・・・・・・」
嗚咽が漏れる。
ごめんな、怖かったよな?
でも、天城・・・・・・泣き顔も可愛い。
「天城ちゃん、大丈夫?」
一見怪我はなさそうだが、精神的ショックが大きいようで・・・・・・
「どぉしよぉぉっ!!もう、お嫁に行けないぃぃぃ!!!」
ぎゅっと胸に顔を押し付ける。
待て、天城・・・・・・・お嫁さんって?
確かに、天城はΩだから、お婿さんっていうよりは、お嫁さんっていう表現の方が合ってるだろうけど。
「だいぶ混乱してるみたいよ、火爪ちゃん・・・・・・・・ところで、天城ちゃんは誰に嫁ぐ気なのかしら?」
よしよし、と背後から天城を宥めるように髪を梳いてやる。
天城が嫁ぐ相手?
そんなの、俺以外にいるわけないだろう?
もう、紅刃にだって渡す気はない。
過去に因縁のあった連中が、天城に手を出して来ているようだが・・・・・・全員潰す。
「ん?火爪ちゃん、天城ちゃんの手の甲に印が」
俺の服を力一杯握り締めている天城の左手の甲に、紋様が浮かんでいる。
それは、仄かに熱を帯び、赤く光を放っていた。
「契約は上手くいったようだな」
こうして炎の召喚獣『赤獅子』と無事契約を交わした天城は・・・・・・・その夜、熱を出してぶっ倒れた。
紅刃が天城を連れて森を出て行こうとしたが、天城本人たっての希望で、天城は俺の腕の中で一夜を過ごした。
テントの中には俺と天城の二人っきり・・・・・・
あの弟が、素直に天城を手放したのが気になったが・・・・・・そこは、咲良がうまくやってくれたんだろう。
あいつ、天城に一目惚れしたとか、初恋の相手だとかで、自分に好意を持っている相手に気付きもせず・・・・・・
咲良には苦労を掛けるな・・・・・・なんて感じることは、自分の心に余裕が出て来たからか?
森に入る前、俺は天城に告白をした。
返事はまだだが・・・・・・・いい返事を期待している。
期待?
いや、天城はきっと俺を受け入れてくれる。
天城は俺のものだから・・・・・・天城が俺を拒否するなんて有り得ない。
前世で俺が炎帝だろうが、天城が蒼威だっただろうが、そんなことは関係ない!
俺には天城が必要で、天城が俺以外の奴に・・・・・・・
「ほ、つ・・・・・・・ま、さん?」
腕の中で天城が震えて、微かに俺の名前を呼んだけど、目を覚ましたわけじゃなかった。
寝ながらも、へにゃって笑うから・・・・・・
俺の胸元に頬を擦り付けてきて、嬉しそうに笑うから・・・・・・
俺の息子が元気になりかけた。
夢の中に俺を登場させてくれているんだな、天城。
眠っている間に首を噛んで番にする、なんてことはしないよ・・・・・・俺の中のケダモノは必死に抑えるから。
ちゃんと、お互いの気持ちを確かめ合ってから、俺は、お前を番にする。
「・・・・・・天城、好きだ」
ぼそっと天城の耳元で囁く。
「・・・・・・・ん、火爪・・・・・・・・さ・・・・・・・・・・すき」
無意識って、怖いな・・・・・・天城。
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