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第68話
【 蒼威 】
ふわふわと纏わりつく温かな風に揺られて・・・・・・何処かを漂っている。
これは夢なんだろうな・・・・・・
だって、俺の背中に黒い翼がある・・・・・・しかも、俺の意思で動かせる。
俺の周囲にも、俺と同じように黒い翼を広げた連中がいて・・・・・・・・俺は、その中の一人に手を引かれて飛んでいた。
顔はよく見えないんだけど、俺は、この手を引いてくれる人の事が大好きのが解る。
このまま俺達が飛んでいく場所には、俺達が生涯仕えるべき主が待っている。
俺達は命を懸けて、主を御守りする・・・・・・
俺達の命は主・・・・・・炎帝様のモノ・・・・・・
例え、炎帝様が、俺達の事を・・・・・いらない、っておっしゃられても・・・・・・・・・
例え、炎帝様に愛されていなくても・・・・・・
俺達、黒き翼の一族は・・・・・・炎帝様にすべてを捧げて・・・・・・・・・
雲ひとつなく、空が青く澄み渡ったあの日・・・・・・俺は初めて炎帝様に会った。
「炎帝、この子が僕の弟の蒼威です」
くしゃっと髪を掻き混ぜられて、ビシッと背筋を伸ばす。
俺の頭に手を乗せているのは・・・・・兄、俺の大好きな兄。
先日いきなり番の相手、しかも運命の番だと言って連れて来られたヤツの事は嫌いだけど・・・・・・
炎帝様は、こちらをチラッと一瞥しただけで、すぐに俺から興味を失くした・・・・・・みたいだ。
まだ幼かった俺は全身を硬直させ、引き攣った表情のまま兄を見上げた。
「炎帝、蒼威が怯えてる・・・・・・笑ってやってくれ」
俺の隣で、兄が手本とばかりに笑顔を見せてくれる。
「お前・・・・・・分かってて連れて来たのか?」
炎帝様は小さく息を吐き、それでも膝を折り、俺と視線の高さを合わせてくれた。
バチッと目が合った瞬間、真っ白な火花が弾けて・・・・・・
なぜだか急に心臓がドクンッドクンッと大きく波打って・・・・・・・・・
「蒼威、俺は炎帝・・・・・・お前の番、お前と生涯共にある者だ」
炎帝様の大きな手が俺の髪に触れた。
「俺の全てはお前のモノだ・・・・・・お前の全ては俺に寄越せ」
とても優しい手で、そして、とても暖かい。
声もすごく心地良くて・・・・・・ずっと聞いていたい。
「コラ、蒼威、ちゃんと挨拶しなさい・・・・・・大丈夫だ、炎帝は既に蒼威にメロメロだ」
頭上から兄の優しい声が降ってきた。
ところで、メロメロッて何?
「お前なぁ・・・・・・ったく、蒼威、挨拶を知らないのなら俺が教えてやる・・・・・・『はじめまして』だ」
炎帝様はニッと唇の端を吊り上げて笑みを作った。
「は、はじ、め、まして・・・・・・炎帝様」
少しだけ声が震えてしまったが、炎帝様はいきなり俺を抱き上げた。
「蒼威、『様』はいらない・・・・・炎帝と・・・・・いや、お前の好きに呼べばいい!」
焦って手足をバタつかせる俺と視線の高さを合わせ、コツンッと額同士を当てて・・・・・・
「お前は俺が守る・・・・・・お前は、俺の唯一の・・・・・・・・」
ビクッと身体が大きく震えて、目を見開いた。
身体が重い・・・・・・じっとりと汗ばんだ手でシーツを握り締める。
なにか夢を見ていた気がするけど思い出せない・・・・・・けど、すごくドキドキしてる。
「・・・・・・・・・んっ」
寝返りを打とうとして別の事を思い出した。
「ほっ、ほつまさっ・・・・・・ん!」
俺、今火爪さんの腕の中にいるんだっ!
三日間の予定だった絶望の森の修行を、俺の体調不良の為に二日で切り上げて、蒼風館まで帰って来てみれば・・・・・・
なぜか、俺と火爪さんの部屋が一緒になっていて・・・・・・数少ない荷物もその部屋に移動してあって・・・・・・
ニッコリ笑った白雪有栖リーダーに、今日から二人は一緒ねって鍵を渡されて・・・・・・
理由を訊ねてみれば、火爪さんの部屋の鍵は俺が失くしてしまったせいで妙なモノが入り込んだ形跡があり、鍵を変更しただけで対処できるかどうか疑問。
その妙なモノの狙いは、どうやら俺・・・・・つまり、俺が一人になるのは危険。
じゃぁ、一緒にいてもらおう・・・・・・ってことになったらしい。
当事者が不在の間に!
意義を唱える人はいなかったらしい。
別に嫌じゃないんだ。
火爪さんが迷惑じゃなかったら・・・・・・って言うか、俺、火爪さんに迷惑ばっかり掛けてしまっている気がするけど。
だったら俺がって、紅刃が同室を希望してくれたけど、リーダー命令で却下、今に至る。
そもそも、あんな真顔で、俺とじゃ嫌かって火爪さんに言われて迫られたら、断れるわけもなく・・・・・・
同室の件は納得出来るんだけど・・・・・・
問題なのが一つ・・・・・・
各種小物やクローゼット等、それぞれ、ちゃんと二人分ずつあるっていうのに・・・・・・・
どうしてベッドは一つしかないんだ!
キングサイズ、しかも天蓋付!
白雪リーダーが言うには・・・・・・・
あんなことや、こんなこと、あんな体位や、こんな体位がし放題って・・・・・・・どういうことっ!
俺はソファで寝ますって言ったのに!
問題ないって、火爪さんは当たり前のように俺を抱き込んで離してくれないし!
緊張して眠れるわけないって思ったけど、いつの間にか寝てた・・・・・・抱き枕状態だけど。
火爪さんの体温って安心するんだよなぁ・・・・・・
じっと火爪さんの寝顔を見詰めて、観察する・・・・・・・イケメンさんだなぁ。
起きてる時より幼く見える。
唇柔らかそう・・・・・・触ったら起きちゃうかな?
「天城?」
ふいに名前を呼ばれたと思ったら・・・・・・バチッと目が合ってしまった。
「ほっ、ほつまさっ!」
いつから起きてたんですかっ!
そう続けようとしたんだけど、火爪さんの腕がぎゅっと俺を抱き込んで、後頭部を押さえつけられてしまって・・・・・・
「寝ろ」
寝ろ?
あれ?寝ぼけてたんですか?
すぐに火爪さんの腕から力が抜けていった。
火爪さんの息がくすぐったい・・・・・・
どうしようか、動いて火爪さんを起こすわけにもいかないし。
俺は抱き枕、俺は抱き枕、俺は抱き枕・・・・・・・
何回くらい唱えただろうか・・・・・・・俺も再び眠りについた。
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