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第6話 破瓜(*)

 ぬちぬちと扱かれるたびに、愛欲に堕ちていく気がした。  林檎も蜜柑も、ほぼ無言のまま、臣と紅葉に見せるためだけにまぐわおうとしている。  半裸になった二人が、互いに抱き合って深く繋がるようなキスをする。臣の前で、臣に見せるための行為だというのに、どこか恍惚としたものが感じられて、見ている方が恥ずかしくなりそうだった。 「凄いと思わない? 臣ちゃん」 「は……っ、……っ?」  耳元で、紅葉がそっと囁いた。同時に、ベッドの奥へと少しずれた紅葉たちの横、臣の隣りで、仰向けになった蜜柑の上で愛撫している林檎が、臍の辺りにキスをしているのが見える。 「彼らは本当に愛し合っているんだ。言葉なんかより、ずっと雄弁に物語っているよね。エッチするって、こんなに素敵なことなんだって、最初に彼らの交合を目の当たりにした時、俺は羨ましくさえ思ったよ……」 「紅、葉……?」 「俺は、臣ちゃんのためなら何でもできるよ。ベータたちに教えを乞うことも、それ以上のことも。臣ちゃんが、大好きだから」 「ぁっ……」  言いながら、臣は、紅葉が林檎の動きを次第にトレースし出したのを悟った。臍から下生えへと唇が降りてゆくのを、臣はいつの間にか、紅葉の愛撫によって識る。 「ん……っ」  蜜柑の屹立を、林檎が愛しそうに撫でる。同時に林檎のそれを、蜜柑が手を伸ばし、探りながら高めようとする。林檎の動きをトレースするように、紅葉が臣の雄芯に口づけ、裏筋を根元に向けて舌で愛撫してゆく。  いつしか臣は、果物たちの愛撫を、紅葉に同じようにされることで、期待に昂ぶるようになっていった。林檎が次に何をどうするか、彼の一挙手一投足が、紅葉のそれと重なり、高められていく。 「は……っ」  しかし、果物たちが、挿入のひとつ手前までいった時、それは崩れた。 「ぁ……っ、ぁ……!」  臣が思わず身をよじると、紅葉はそっと増やした指を中で擦り合わせるように動かした。そうされるたびに、臣の中に得体の知れない快感が生まれ、紅葉のものだとわかっていても、知らず識らずのうちにその指を締め付けてしまう。 「紅葉、さん……?」  それまで無言だった林檎が、おもむろに汗に濡れた顔を上げた。挿入された蜜柑はあえかな表情で、林檎と紅葉の間の意思疎通を待ちながら、膝を開いていた。 「うん、そのまま、続けて」  紅葉が言うと、林檎は無言で頷き、蜜柑の中へと入り、腰を使って彼の蜜壺をゆっくりとかき回しはじめた。息を吐く時のかすかな表情まで聞き取れる近さで、まるで臣を犯すように、果物たちの狂宴は続いた。  そして、紅葉もまたその動きを真似るように、挿入こそなかったが、それに近い動きで臣を昂ぶらせていった。 「ぁ……っ、はぁ……っ、ぁ、ぁっ……!」  果物たちのように交合に慣れていない臣のために、中を犯していた指を増やすにとどめた紅葉は、濡れた眼差しで臣を犯した。それに答えるように、臣が悦楽を与える紅葉の手指を、招き入れるように、その膝を開く。抑圧された欲望が、果物たちの生々しい交わりを見るにつれ、視界の暴力のように臣を淫猥な気分にさせていった。 「……臣ちゃん、偉いね。俺の指、二本に増えたのに、ちゃんと受け入れてくれて」 「んっ……、ん、く……ぅ」  涙目で、臣が見上げると、紅葉は耐える表情をしていた。圧迫感に喘ぎながら、腹の中が聞くに堪えない音を立て、次第に拡げられてゆくのを感じる。紅葉が上手いのか、臣の順応力が高いせいか、それとも発情期のせいで感覚が麻痺しているのかはわからなかったが、とにかく、紅葉が指を捏ねるように動かすたびに、臣の下腹は潤み、アルファの熱杭を受け入れたがるのがわかった。 「臣ちゃん、中、どう……? 俺は、すごく気持ちいいよ」  もうとっくに抵抗を試みることを放棄した臣に、紅葉はそう言って、とろりと笑った。  こいつの笑顔には、何かフェロモン物質が出ているのかと思うほどの威力があり、臣は思わず紅葉の指が入っているのを忘れて、中を波打たせてしまう。 「あ」  紅葉はその瞬間を気に入ったらしく、わざとらしく素に戻ったあとで、またとろりと笑った。 「今、ぎゅってなったね……?」 「んぁ……っ!」  果物たちの律動に合わせるようにして、中を指で犯され続けるうちに、想像だにしなかった欲情が臣の中に湧いてきた。彼らのように交わり、中を大きなものでこじ開けるようにして欲しい、と感じるようになっていく。隘路を拡げられて、押し入ってきた紅葉の陽根で抉って欲しくて、下腹が縒れたように敏感になってしまう。アイコンタクトだけでこれだけぴったり交われる果物たちの交歓に、臣は触発されるようにして、感じはじめていた。 「っぁ……っ、義兄、さん……っ」  中を犯されている蜜柑が、次第に感極まった顔になる。  同時に臣もまた、林檎と同じタイミングで律動を繰り返し中を拡げ、練り続ける紅葉の指に、極まりそうなほど感じていた。このまま出してしまいそうだ、と思ったその刹那、しかし無情にも紅葉は静止の言葉とともに、動きを止め、果物たちのことも止めた。 「そこまで」 「……っ」  息を詰めて堪える果物たちだったが、紅葉は容赦しようとしなかった。 「そのまま出さないで。一回目は臣の中だよ」 「へ……? ぇ……っ、ゃ、ぁ……っ」  焦らされた臣が、紅葉の言葉の意味を問おうとする。  しかし紅葉は果物たちに指示すると、彼らから視線を臣に移した。 「臣ちゃん、わかった? 果物たちがすることを、俺たちもする、って」 「ぁ……っ、ゃ、……っ」 「駄々こねないの。俺の種を孕むのは、臣ちゃんの役目なんだよ」  言われて先ほど押された下腹を、紅葉が愛しそうになぞる。うっとりとした表情なのは、期待からか、臣のフェロモンに影響されているからか。どちらにしろ、もう逃げ場がないことは確かで、臣は唾を飲み込んで、欲しい、と意思表示をするように、腰を揺らした。 「ん、ん……んん……っ」  刹那、紅葉の指先が中でクイ、と曲げられた。  その刺激の強さに、思わず臣が仰け反るのを知っているかのように、内壁のそこを押すようにされると、快楽が弾けた。 「んぁ、ぁ……っん! ぁ、ぁ……っ!」  されるたびに何かが駆け上がってくるような、鮮烈な感覚だった。隣りにいる果物たちは、命令を受けたその時点から動いていない。にもかかわらず、紅葉はさらに臣を追い込むように、指でぐじゅぐじゅと潤み続ける中を捏ね続けた。されると、目の前を眩い光が散りそうなほど鮮やかな感覚が爆ぜてゆく。  しかし、もう少しで上り詰めると思った矢先、紅葉は果物たちにしたように、不意に動くのを止めた。 「な……っ、んで……っ?」  臣が思わず止まった紅葉の指を締め付けながら腰を動かすと、果物たちは息を呑みながら、紅葉の命令を待ちながら、臣へと視線をやった。しかし、臣は見られている羞恥よりも、ずっと強い乾きのあまり、思わず紅葉へと腕を伸ばしていた。 「うご……っ、け、よ、紅葉……っ!」 「臣ちゃん……」  かすかな呼吸の変化と、アイコンタクトだけで、完全に紅葉の言うとおりに動きを制御する果物たちの強い自制心とは逆に、もはや発情のピークを迎えようとしている臣は、快楽を追わずにはいられなくなっていた。 「ん……ぁっ、ぁんん……っ」  強請るような腰つきで身体を紅葉に向かって擦り付けようとする臣に、紅葉は少し困った顔をして、そっと囁いた。 「ダメだよ、臣ちゃん。俺の種を孕むには、ちゃんと準備しないと」 「じゅ……っん、び……って、ぁ……っ」 「俺がちゃんと入るように、もう少し拡げるよ?」 「ぁ──ぁっ! ぁっぁっ、ぁあっ……!」  言うなり紅葉の捏ねる手つきが、少しずつ強いものに変わる。しかし、先ほどから快楽の源泉をしつこいほど練られているせいで、指が三本に増える頃には、臣は完全に紅葉によって、蕩かされていた。 「は、ぁ──……っ、待っ……!」 「待てないって、さっきも言ったよね?」  言いながら、紅葉が練り上げた後蕾から指を抜くと、そのわずかな刺激にさえ、臣は未練がましく執着してしまい、そんな自分を浅ましいと思った。 「臣ちゃん、好き」  言って、髪を梳いてキスをそっとくれる。  触れるだけのバード・キスは、最初に臣が教えたはずのものだった。紅葉はアルファの記憶力で果物たちの愛撫を踏襲しつつ、臣が気持ち良さそうな顔をすると、そこを重点的に愛でる調整力もある。臣がぼうっと快楽に浸っているうちに、一緒にはじめたはずの行為に、どんどん長けてゆくのが悔しい。そう思うのに、臣にはもう、取り繕うだけの気力すら、なくなる気がした。 「臣ちゃん、少し早いかもしれないけど、入れてもいい?」  奥歯を噛むようにして、紅葉に言われた時、臣は少しだけ嬉しかった。  見上げると、紅葉は困ったようにとろりと笑って、それからもう一度、確認を取った。 「臣ちゃん、果物たちと同じように、俺も臣ちゃんと繋がって、いい?」  こくこくと頷く以外のことが、臣はできない。身体が火を噴きそうに熱くて、紅葉の触れた場所から、まるで痺れるような悦楽が流れ込んでくる。 「ぁ、……っ」  臣の潤み切った後蕾から指を抜いた紅葉が、恨めしくて仕方がない。甘える声を上げると、紅葉は臣の両足を割り、その間に腰を入れ、自らの屹立を手で数度扱いてから、臣の孔にその先端をあてがった。 「臣ちゃん……」 「ぁ……、ゃっ……っ、はや、く……っ」  早く入れて欲しい。  口が裂けても言えないと思っていたのに、いつしか紅葉に追い抜かれている。  身長も、体格も、それからセックスも、何を取っても紅葉にかなうものが、なくなるのだと思うと、どこか悔しいような、開放されたような気持ちになると同時に、誇らしかった。  俺の紅葉が、こんなに育つなんて。  あの頃の幼馴染たちに見せてやれたら、すごく自慢できる。 「臣ちゃん、覚えてる? 俺がお昼寝してると、決まって臣ちゃんが起こしにきたの」 「へ……? ぁっ……」  紅葉は少し眉根にシワをつくり、臣の後蕾を屹立の先端で前後にぬちぬちと擦るような動作をした。  それから、とろりと笑い、臣の鼻に鼻をくっつけた。 「俺のタオルケットを引っ張って、「起きろ!」って。俺が泣くまで返してくれないで、おかげで俺、ずっと臣ちゃんの後ろを追いかけるしかなかったんだよ」 「はぁ……っ、ん、それ、なに……っ」  そういえば、そんなことがあった。  紅葉はよく寝る子で、臣はよく起きる子だった。寝る真似だけは得意だったから、寝ぼけ眼をしている紅葉のタオルケットをよく取り上げたものだった。そんな昔の小さなこと、紅葉はやけによく覚えているのだな、と思う。 「俺は臣ちゃんに色んなものを取られたけど、全然恨んでないよ。でも……」  言いながら、紅葉はそっと臣のかすかに綻んだ後蕾に接着した先端に、圧をかける。 「ぁ、ぁっ……紅葉──……っ」 「代わりに……、今日は俺が、臣ちゃんの大事なものをもらうね……?」  言いながら、ぬち、と音をさせて紅葉の熱塊が、ゆっくりと臣の中へと侵入しようとしていた。 「──俺が、臣ちゃんの処女をもらうね」 「ぁ──……っ!」  ぐい、と腰を入れられて、囁かれた言葉に臣は思わず声を上げた。  ぐぷぷ、と音を立てて挿入された紅葉のそれに、臣はシーツを握っていた手を、思わず引き寄せ、喘いだ。

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