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第9話 はじめての、コックリング(*)
「っ……、はぁ……っ、ぁ……」
「たくさん、出したね……?」
散々に嬲られたあとの放出だったにもかかわらず、臣の身体はまだ紅葉を求めていた。紅葉はたっぷりと臣の中に出すと、やっと、ひと心地ついた表情で臣の世話を焼きたがった。
「ん……」
普通の時なら、自分でやるだの何だのと、文句をつけたがる臣だったが、紅葉のかいがいしさを拒むだけの気力もなく、されるがままになるしかなかった。
身体の熱はまだ続いていて、一晩中でも続けられそうだった。
「紅葉……っ、これ、これ、どう……っし、たら……っ」
じくじくと膿むように、紅葉を食んでいた部分が、欠落感にじんわりと熱くなってゆく。それを紅葉に悟られるのが怖かった臣は、わざと感じないふりをしていたが、臣の汗を拭ったり、髪を梳いてくれるたびに、びくびくと反応する身体を止められなかった。
「俺……っ、まだ……っ」
紅葉に窮状を訴えると、こめかみにキスを落とされる。優しくて、心地よくて、落ち着く仕草に、臣は少しだけ混乱から抜け出た自分を意識した。
すると紅葉は、どこか覚悟を決めたような低い声で言った。
「臣ちゃん、実は、言わなきゃならないことがあるんだけど……」
「ん……っ?」
「「巣ごもりのしおり」読んだよね? 確認したいんだけど、担当者に何か言われた?」
「え……?」
不審に思った臣が滲んだ視界に紅葉を捉えると、昏い表情をしていた。
「っ……何、を……?」
声を上げると、啼きすぎて枯れている。
「……やっぱり、何も聞いてないんだね」
「……」
身体のあちこちが軋みはじめていて、交合の激しさを物語るようで恥ずかしかった。
だが、紅葉が何か大事なことを言いたそうにしているのを見た臣は、次の瞬間、半ば朦朧としたまま、紅葉が放つ言葉を待った。
「臣ちゃん。よく聞いて。オメガは初夜に、三人の夫とつがうことが義務付けられているんだ。だから……、林檎と蜜柑も、臣ちゃんの中に入れてあげて?」
「へ……っ?」
耳を疑った。
何か冗談を言っているのか、と思った。
しかし、臣が顔を上げると、紅葉もまた困惑したような顔をしていた。それでやっと、冗談を言っているのではないことがわかった。
「だっ……」
「お願い」
「っ……」
ダメだ、と言う前に、紅葉に願われると、背中を甘い衝撃が駆け抜けた。アルファに、しかもよりによって紅葉に、こんなに深く繋がったあとで請われてしまったら、それを断れるようなオメガはいない。
嫌なら、しないって言ったじゃないか、という言葉が喉のすぐ奥まで出かかったが、紅葉の困った表情を見て、彼もまた本意でないのだと知らされてしまうと、何も問うことができなくなった。
どうして、と思ったが、声が出ない。
そういう決まりだと言われてしまったら、従うほかない。
だが、心が納得しないのも事実で、臣は途端に身体が強張るのを感じた。
中途半端に昂った身体は、それでも雄を欲していて、臣の萎えかけた中心は、また交われるのだという希望に、はしたなくも反応しはじめていた。
横を向くと、互いに交わっていた林檎と蜜柑が、臣を濡れた目で見つめていた。それで、これが冗談でも脅しでもなく、必要な儀式なのだと納得させられてしまう。
「臣ちゃん。嫌かもしれないけど、俺が全部見ててあげるから」
「も……みじ……っ」
「大丈夫。これがちゃんと終わったら、また二人でエッチしようね? それと、これ」
言うと、紅葉はベッドサイドにあるチェストの引き出しを開け、光る何かを取り出した。
「臣ちゃんが途中で萎えないように、保険ね」
「ゃ……」
本能的に忌避したものの、しばらくは紅葉の手にあるそれが、何なのかよくわからなかった。やがて紅葉が臍から下生えへと口付けを落としていき、その熱い口内に臣を咥えた時、その形状の意味が、わずかに残った理性的な脳の部分で認識できた。
それは、径2ミリほどの細い金属を継ぎ合わせてできた、鳥籠型のコックリングだった。
黄金色をしたコックリングは、底辺の部分がカリ首に引っ掛かる仕組みで、ペニスの先の方だけを拘束するようにできており、ドーム型の屋根部分から底辺へと向けて、3センチほどの長さの、先端の丸く加工された細い金属が、鈴口に栓をするよう、斜めに突き出していた。その細い金属部分を鈴口の中へと入れることで、ペニスのカリ首の部分を、鳥籠の中へと収納できるようになっている。
「ひ……っ」
熱い口淫のすぐ切れ間に、コックリングがペニスに被せられる。
冷やりとした違和感が、最初にそれを嵌められた時、臣を襲った。
「ぁ──……」
しかし、その違和感は、やがてすぐに激しい熱となり、臣のペニスの先端を、中からぐりぐりと刺激し出した。カチャン、と鳥籠の底辺にあたる、調整のきく部分を閉めてしまうと、臣のサイズにぴったり合ったそれは、もう動いても何をしても、自力では取れないようにできていた。
「これは、臣ちゃんのサイズに合わせた特注品なんだって」
と、紅葉がそんな、要りもしない情報を開示してきた。
そういえば、「装置」に勧められた婚姻をすると決めた時、全身くまなく健康診断と同時に測定されたのを思い出した。臣は、朦朧とした頭の起きている半分の部分で、そのことを酷く羞恥した。
「ゃ──、熱いっ……! これ、取れって……、取って……っ」
どうにかしようにも、片手は果物たちに握られていて、もう片方の手は、紅葉が恋人つなぎにされてしまっていた。腰を蠢かせると、紅葉が眉をハの字にして言う。
「そうやって腰を動かしてると、誘ってるみたいに見えるよ、臣ちゃん」
「っ……ちが」
「臣ちゃんには、果物たちの種も飲んでもらわないと」
「ゃっ……め、ん……ぅっ」
「おいで」
言われて、いきなり腕を引かれたかと思うと、半身を起き上がらせる。
そのわずかな動きにさえ、ペニスの先を縛めているコックリングが衝撃を放つ。
「ぅぁ……っ!」
上半身を起こすと、中に出された紅葉の白濁が、トロリと流れ出て、太腿を伝うのがわかった。思わず眉をしかめるが、紅葉は臣の腰を抱くと、そのまま果物たちに視線だけで合図をし、臣を膝立ちの状態にした。
「キス、してあげるね? 膝で立って、そう。俺に身体を預けてごらん」
いい子だね、と囁かれて、頭の中が愉楽に霞む。
紅葉は臣の肩を両腕で支えるようにしっかりと抱くと、コックリングの嵌まった先端を、自身の勃起したペニスの先端でぐりぐりと押し支えた。そのたびに、コックリングの鈴口に入っている金属部分が、熱く臣の中を刺激した。臣のペニスは頭をもたげ、度し難い速度で径を増していく。
「ぁっ……ん、んん……っ」
「臣ちゃん、今から、林檎、蜜柑の順に臣ちゃんの中に挿入ってもらって、擦って出させるからね?」
「なん……っで……っ」
「彼らの種をもらうことで、臣ちゃんは、やっと俺と婚姻したことになるんだよ」
「そっ……な、……っ」
「ん?」
紅葉はそう説明すると、困ったような表情で臣を見た。笑っているように見えるが、少し影が差している。果物たちと紅葉の間で、一体どんな取り決めが行われたのか想像もつかなかったが、少なくとも、紅葉がその儀式を必要と決意していることだけは伝わった。
「臣ちゃん、リング、取って欲しい……?」
その言葉に、臣は青くなり、赤くなった。こくこくと頷くが、それは紅葉の決めたことに対する、同意と取られる意思表示となる。どれほど不本意だろうと、アルファの紅葉が決めたなら、オメガは従わざるをえない。というより、オメガにとってアルファに対する服従は、ひとつの悦びに繋がることだった。婚姻における両者間の合意という意味で、この行為が必要なら、臣は紅葉を信じるしかない。
「お尻、少し上げて、林檎と蜜柑に、臣ちゃんの愛される孔を見てもらいなさい」
「ぁ……ゃだぁ……っ、もみ、じ……っ!」
だが、心と頭が納得しても、身体が受け入れるのには時間が必要だった。口を利くのも、顔を見るのも、今日が初めての相手に、紅葉に散々愛されたあとの孔を見せるのは、さすがに抵抗がある。赤く腫れ上がって、物欲しげにヒクついているだろう、そんな場所を紅葉以外の誰かに触れさせるなど、承諾できそうにない。
「臣ちゃん、キスしてあげるね? 俺に身体を預けてごらん」
「ぁ、んっ……!」
言われて少し身体の軸を、紅葉によって動かされると、尻を突きだす態勢を取らされる。紅葉の囁き声に、そろりと体重を乗せると、紅葉が受け止めてくれた。
そのまま、ちゅ、と触れるだけのバード・キスをされる。
「ん……紅葉、っゃ……だっ……」
「我が儘言わないの。それとも、ずっとこのまま可愛がってあげる方がいい?」
言いながら、紅葉はまた自身の屹立で、臣のコックリングの嵌まった先端を擦り上げるようにする。その刺激の強さと甘さに、臣は泣きそうになった。
「っ……なの、選、べな……っ」
「なら、俺の言うとおりにしてごらん」
嫌だ、嫌なのに……。
嫌なのに、紅葉に言われると、それが甘い快楽に変換されそうだった。
「は……っ、は……ぁ、っ……」
キスをあますことなくくれる紅葉が、臣のコックリングの嵌まったままのペニスを、腰を動かし、捏ねる。二人の腹の間で揉まれると、臣のそこは瞬く間に吐精の準備を整えた。臣にはそれが、涙ぐむほど悔しくて、しかしその背徳感が、紅葉のもたらしたものであることを自覚すると、ぞくぞくと背筋を悦楽めいた感覚が這い上ってくるのだった。
「臣ちゃん……?」
「あっ……っ、み、て……っ」
何度目になるか、紅葉に促されると、臣はついにその言葉を吐いてしまった。
「林檎……っ、蜜柑……っ、み、見て……っ!」
「いい子だね、臣ちゃん……」
無意識のうちに、臣は尻を振ってねだるようにしていた。
早く後蕾を塞いで欲しい、と馬鹿なことを考えている自分に、臣が思わず身震いしていると、次の瞬間、臣の尾てい骨の辺りを、遠慮がちに触れる手の感触がした。
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