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第11話 はじめての、潮吹き(*)
「ぁ……っ、は、ぁ……っ」
臣の中に、深々と埋め込まれた紅葉の二本の指を、中で擦り合わせるようにされると、肉襞が反応し、身体に快楽のあまり震えが走る。内壁の特に感じる場所を関節で押すようにしながら、紅葉は臣を、言葉で嬲った。
「臣ちゃんの孔、可愛いね。俺が指でこう……するたびに」
「ひ……んっ」
身体を支えていた臣の腕が崩折れ、腰だけを高く上げる体勢になっても、紅葉は容赦しなかった。
「健気に反応して、締め付けてくる。おねだりが上手だね、臣ちゃんは」
赤面した臣の脚の間で、装着されたままのコックリングが震えている。臣が無意識に腰を振るたびに、それは角度を付けた状態で、臣の射精を阻んでいた。苦しくてつらいことなのに、紅葉にされていると思うと、臣の身体は芯から火照ってしまう。
「臣ちゃん、中、きれいにしようね。そしたらもう一回、俺としよう?」
「ぁっ……?」
紅葉は言うと、戒められたコックリングの上から臣自身を片手で握り、前に逃れられないように縛めた。もう片方の、臣の後蕾に埋めたままの指を曲げ、中の白濁をかき出しはじめる。あますところなく内壁をくすぐられて、また臣は上り詰めそうになる。
その時、無理矢理に開かされた後孔を、ぬるりと熱いものが這った。
「ゃぁ、それ……っ、舐め、たらぁ……、ぁぁ……っ」
それが紅葉の舌だとわかった時、臣はカッと全身の熱が上がるのを感じた。肉厚のしっかりした舌が、襞を潰すように中を行き来する。奥を指で開かされ、後蕾に舌を入れられるだけで、熱のあまりその場所が、蕩けてしまいそうだった。
愛液と精液の混合物が、ドロリと太腿を伝い、落ちてゆく。
臣が嫌がる素振りをすると、紅葉はざらついた舌を使い、いっそう熱心に奉仕するのだった。もう何度、限界を超えたか、数えることも忘れてしまった臣は、後蕾を舐め上げるあやしい愉楽に、崩れていった。
「もう……っ、ぃっ……、ぁ、ぁぁ……っ! はず、外し……て、これ……ぇ、っ……!」
トロトロと、愛液混じりの白濁がシーツを汚す。逃れることのできない愉楽の檻に囚われたまま、臣は嫌々をするように腰を振り、後蕾から精液混じりの愛液をかき出されるたびに、ごぽごぽと白い蜜を零すしかない。
「臣ちゃん、たくさん出されて気持ち良かった? 俺は、臣ちゃんの中、すごく良かったよ」
言うなり、傍らで身体をすり寄せている果物たちへ、臣の注意を向けて、囁いた。
「果物たちも、見てるよ? 一度オメガの発情期にあてらてセックスすると、ベータも僅かだけど、つがったオメガのフェロモンの匂いがわかるようになるんだって。臣ちゃんは、甘くて蕩けるような匂いだから、きっと彼らも、もっと欲しいと思ってるよ。そうだろ? 果物たち?」
紅葉が問いを発すると、抱き合った果物たちは、互いをぎゅっと庇い合うように、腕に力を込めた。
「きみらには、臣ちゃんが俺のものになるところを、見届けてもらわないとならないからね」
紅葉がアルファの声音で言うと、二人は頷いて、臣と紅葉に視線を投げかけた。熱く潤んだ四つの眸に射られて、溜め息が漏れるほど、臣は果物たちの視線を意識した。
「ね、臣ちゃん……、俺がいっぱい中出ししてあげるから、俺の種を孕んでね」
「ぅぁ、……っん!」
紅葉は臣の耳元でそう囁くと、やにわに指を抜き去った。
与えられた形を覚えようと締め付け、ヒクつく臣の孔を前に、紅葉はアルファである印でもある大きなペニスを扱き、臣の後蕾へとあてがうと、一気に奥まで突き通した。
「ぁあぁ──……っ!」
臣の腹の中の、臍に近い場所が戦慄く。
刹那、ふっ、と日向の匂いが強くなり、臣のことを包んだ。
紅葉は臣のコックリングを利き手で掴んで、臣の身体を引き寄せるようにしながら、自らも激しく腰を使った。奥の奥、突かれただけで気が狂いそうになるくぼみに届くと、臣は狂ったように泣きじゃくりはじめた。
しかし、抽挿は止まない。
「ひぃ……っん! ふぁ……ぁあっ! ぁ、ゃら……ぁ! ぃ、ぃぃ──……っ!」
嵐に見舞われて巻き込まれたように、臣はひたすら壊れたように、紅葉に合わせて気がつくと腰を振り立てて喘いでいた。視界が涙で塞がれ、唾液が開かれた唇を濡らし、シーツへと落ちかかってゆくというのに、それを制御することすら、今の臣には難しい。
どころか、紅葉の欲望の激しさに翻弄されて、どこまでも堕ちたいという気持ちさえ、湧き出てくる。紅葉が楔で臣を打ち付け、愛を証明するというなら、臣はその傷を進んで負い、紅葉を愛するだろう。
「臣ちゃんの身体、好き、だよ……っ。素直で、敏感で、すぐ熱くなって、いつまでも冷めないところが、好き……っ。好きだよ……っ、臣ちゃん……っ!」
「ぁあ……っ、おっき……ぃ」
紅葉の怒張を飲み込み、腹の中がぐじゅぐじゅになるまで犯されながら、臣は獣になりつつある自分を自覚したかどうか。紅葉はそのまま腰骨の、臣の弱いところを掴むと、一層激しく腰をグラインドさせはじめた。
「臣……っちゃん、狭……っ」
臣がシーツをかき集めるように縋り、腰を振るたびに、紅葉がコックリングと腰骨を掴んで、引き戻すと同時に腰を入れた。はしたなく響く水音が激しくなり、二人の絶頂がすぐそこまできているのを悟ると同時に、紅葉がカシャン、と音をさせてコックリングの縛めを解いた。
「ぁっ? ぁっ……! ゃら、ぁ……っ! それ、っ、ダメ、駄目ぇ──……っ」
その刹那、臣は、鈴口から熱い何かが湧き上がってくるのを感じた。
今まで経験したことのない灼熱が、かつてない速度で駆け上がってくる。
「臣ちゃん、好きだよ。好きっ。大好き……っ」
言いながら、紅葉がコックリングを鈴口から抜き去った瞬間──。
ビシャーッ、と大きな水音をさせて、信じられない量の液体が、臣の先端から吹き出した。
「ゃ、らぁ──……っ! ひぃ……っ! ぁ! ちがっ……、見な……れぇ──……っ!」
とてつもない開放感と同時に、尋常ならざる量の透明な水が、臣の鈴口から飛び散った。同時に腰を両手で掴んだ紅葉が、激しくピストンしてくる。すると、数度にわたりビューッ、ビシューッ、と音をさせた液体が、堰を切ったように溢れ返った。
「ん……っ、イくよ、臣ちゃん……っ」
「ぁ! ぁあぁぁっ……! ゃ、っ……っ! ゃらぁ──……っ!」
泣きじゃくる臣を押さえ込み、腰を使った紅葉が、狙い澄ましたように奥に射精する。
重たい熱が発射されたことを悟ると、臣は鳥肌を立てて仰け反り、泣いた。
「はっ……はぁ……っ! は、ぁ……っ、ぁ……っ!」
全部の水を吐き切り、ぐったりとなった臣の身体を、紅葉がしっかりと抱きとめる。
「──潮、吹いちゃったね? 臣ちゃん……」
鼓膜越しにそっと紅葉が言葉を囁くと、臣はまるで誇りを踏みにじられたようなショックに陥り、少しの間、紅葉の方を向くことができなかった。
どころか、自分の仕出かしたことに混乱して、思わず涙を零してしまう。
恥ずかしかった。人前で、果物たちの前で、二人でないところで、こんなこと。
それでも、臣は紅葉を心の底で受け入れていた。紅葉がそうしたいなら、オメガとしてでなく、臣自身として、この紅葉の尋常ならざる執着を、許したいと思う。
「ぁ……ぁぁ……ぅ、うっ……」
「臣ちゃん……素敵だったよ」
「ぅ……るさ……っ、何……っが、す、す……っ」
こんなことをして、好きだと言うのか、と言いたかったが、しゃくりあげてしまい、紅葉に文句を言いたかったのに、全く言葉にならない。臣が苦心してどうにか泣き止もうとしていると、紅葉が何を悟ったのか、背中からぎゅっと抱き締めてきた。
温もりに、安堵の溜め息をついてしまうほど、臣と馴染んだ体温が、そこにはあった。
「臣ちゃん、酷くして、ごめんね……? でも、俺がどれだけ臣ちゃんを好きか、思い知ったでしょ? 臣ちゃんはどんなになっても、素敵だし、可愛いし、きれいだし、好きだよ。俺の、臣ちゃん……」
「んっ……く、ぅ、ぅ……っ」
泣きながら、臣は何か人として大事なものを失くした気がしていた。
しかし、オメガとして持っていた、なけなしの矜持がぽきんと折れても、隣りに紅葉がいることが、不思議と臣を安堵させた。紅葉になら、どんな無体をされたとしても、許してしまえる気がする。どうして今まで、そんな簡単なことに気づかなかったのだろう、と臣が何度目かの瞬きの後で振り返ると、臣は大型犬のような、少し困った顔をして、「好きだよ、臣ちゃん」と囁いてくる。
「──俺の臣ちゃん……、大好き。今夜は本当に素敵だった。ほら、果物たちも、そう思ってるみたいだよ。本当に可愛いね、俺の臣ちゃん……」
身体を返され、抱き合ううちに、臣の瞼はどんどん重くなっていった。
ふいと横を見ると、濡れた眼差しで臣と紅葉を見る、果物たちがいた。彼らは震えながら、互いを支え合っているように見えた。ぴったりと重なり合う果物たちの身体は、毛細血管が開いたせいか、ほんのり赤く染まっている。
それを認識した時、臣は、彼らもまた、ある意味では初体験をしたのだ、とわかった。
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